「斎藤さん、営業のモチベーションを高めるためにコミッション制を導入しようと思うんだけど、どうだろうか?」
あるSIerの社長から、こんな相談を持ちかけられた。私は、これに次のように答えた。
「多分、効果はありません。本質は、そんなところにはないと思いますよ。」
私は、IBM時代、コミッションこそ、営業のモチベーションを高め、維持する最良の手段だと信じてきた。事実、私もそれを励みに、必死で成果を上げることに情熱を傾けていた。しかし、このやり方は、日本の多くの企業には、なじんでいない。また、昨今のビジネス環境の変化も、このような手段では、人の意欲を高めることにはつながらないことを実感している。
“ダニエル・ピンク 「やる気に関する驚きの科学」”という記事の紹介が、Twitterのタイムラインに流れてきた。これを見て、なるほどと合点がいった。彼が言うには、「何かを達成したら報酬を与えるという外的な動機づけが、意欲を高めるという事実はない。人は、自発、成長、目的という3つの内的動機づけによって、やる気を起こす。」と語っている。彼は、いくつかの心理学実験のデータと実際の事例を示しながら、その事実を説明している。
彼の見解は、私の実感とも一致する。私の研修でも、表現は違うが、まさに同様の話をしている。改めて、どうすれば営業の意欲を高められるのか、整理してみようと思う。
彼も指摘していることだが、「何かを達成したら報酬を与えるという外的な動機づけが、意欲を高める」という事実は、ある条件下では成立する。例えば、業務の手順が比較的単純であるか、ルーチンワークで、生産性向上のためのスキル習得が、比較的容易な場合である。このようなケースでは、努力が成果に結びつきやすい。目的を達成するためにどうすればいいのかが明確であり、その目的を達成したときの報酬が約束されている場合は、この外的動機づけが、機能するようだ。
しかし、ソリューション・ビジネスのような複雑な仕事では、そうはいかない。
ソリューション・ビジネスとは、お客様ごとに異なる課題を解決するために、サービスやプロダクトの個別の組み合わせを提供するビジネスである。お客様の課題発掘から始まり、成約に至る道のりは、単純な道のりではない。お客様毎に異なる課題、かかわる組織や人の多さ、解決のための選択肢の多様さと組み合わせの複雑さ、計画通りに進むことなど決してないだろう。
このような、仕事にかかわるものに「目標を達成したら報酬」という外的動機づけを与えても、「さて、どうしたものか。成果報酬はありがたいが、どうやって結果を出せばいいのか、その道筋か見えない。努力すれば何とかなるわけでもない。」となるだろう。これでは、成果報酬は、むしろ負担になる。つまり、成果を出さなければ、報酬がもらえないとなると、報酬の見通しが立たないことが、不安となり、むしろ心の足かせとなる。意欲を高めようと思ってしたことが、裏目に出てしまうことになる。
では、どうすればいいのか。彼のいう、「自発、成長、目的」を導く手段を提供すればいいということになる。
前回のブログでも申し上げたように、人は自分の行っている仕事の意味や目的を理解したいと思っている。それを見出した時に、ひとは自発的に行動を開始する。しかし、そこをなかなか見いだせずに、悩むことも多い。
部下がこのような状況であるにもかかわらず、成功者たる優秀なマネジャーの中には、仕事の手順やその意味を伝えることをせず、「俺はなあ・・・」と自慢話を披露し、ただただ本人の自助努力を求める。
つまり、自分の成功体験を分析的に、手順として、わかりやすく部下に伝える術を持たないのである。そのため、勢い、精神論や根性論で、部下を威圧し、本人の努力不足を指摘する。しかし、それは、自分の成功方法を分析し、わかりやすく伝えることを怠っているマネージャー自身の努力不足ではないか。
成功の手順をプロセスとして整理し、それを具体的に示すことができれば、部下は、自分の行っている仕事のプロセスと比較し、何ができていて、何ができていないかに気付かされる。
「できていないプロセス」の存在に気付けば、そのプロセスを実行しなければならないと思うだろう。まさに、自発的行動を促すことになる。
「何でやらないんだ!」といわれても、何をやればいいのかわからない本人にとっては、マネージャーの言葉は、威圧であり、不安を高めるもの以外の何物でもない。むしろ、成功のプロセスを示し、「何ができていないと思う?」と聞いてみる。そこに気付けば、これを解決しなければと意欲を持つことになるだろう。
自分のやるべきことを自覚し、「なんとなく」では、「なぜならば」を理解した上での行動は、本人の意欲を高めることになる。目的意識とは、こういうことを言うのだろう。
プロセスを知識として理解した行動は、実践を通して、習慣となり意識せずとも行動できるようになる。改めて明示されたプロセスを振り返った時、かつて自分ができていなかったことが、自然とできるようになっている自分に気付くだろう。ここに成長の喜びがある。
「自発、成長、目的」という内的動機づけは、仕事をプロセスとして分析的にとらえ、それを共有できることが、基本である。
さて、もうひとつ欠かすことができないのは、このような行動を促す、組織としての仕組みであり、マネージメントのスタイルである。こちらについては、次回のブログで詳しく説明しよう。
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