チーム営業、組織営業という言葉をよく耳にする。この言葉には、ふたつの意味があるようだ。
ひとつは、営業成績が、特定の営業担当者 に偏ってていることへの懸念から出ている場合だ。営業担当者全員が、一定以上の営業成績を上げ、営業組織全体で目標達成が出来るように、一丸となってがん ばってほしいという意味である。
もうひとつは、社内にいろいろと売るもの、売れるものがあるにもかかわらず、それを活かしきれていな い。あるいは、優れた技術や才能のある個人や組織があるにもかかわらず、それを営業活動の武器として、あるいは、協力し合って、営業活動を行っていないと いうことへの懸念から来ている。
夫々のスペシャリストが、協力し合って営業活動を行えば、もっと業績を上げられるはずだというものであ る。
前者の課題への処方箋は、適材適所による役割分担、教育研修による個人の能力の底上げ、営業活動プロセスの「見える化」とプロセス のに着目したマネージメントということになるだろう。
これについては、いずれ話しをまとめてみようと思うが、今日は後者の意味でのチー ム営業、組織営業について、考えてみようと思う。
結論から申し上げれば、「組織営業力の強化は、アカウント営業の役割を明確にし、その 能力を育成すること」である。
組織やチームを活かした営業を強化するために、製品やサービス内容の充実、デリバリー部隊の技術力育成、 SEやサポート部門のプリセールス責任の付与などの施策をとる企業も多い。しかし、これは、戦うための武器の充実、強化である。それを使う兵士たちが、う まく使いこなせなければ、所詮は宝の持ち腐れとなってしまう。
だから、営業個々人の能力育成をすればいいのかと考えるのも早計だろう。 確かに、武器を確実に使いこなせる優秀な兵士が必要である事は言うまでもないが、どこに向けて撃てばいいのかは、現場指揮官の裁量と判断である。
特に相手が、手強わければ、ひとりの兵士に任せるわけにはゆかない。斥候、歩兵、戦車を適材適所に配し、総合力で圧倒しなければ、敵に勝つことはできな い。
組織力を活かす、つまり、自社の強みとなる武器と兵士を、目標攻略のために動員し、もっとも効率よく、効果的に使いこなす。その役 割を担う現場指揮官なくして、組織力を最大限に発揮することは出来ない。
この現場指揮官こそ、アカウント営業である。
「お客様は、自分達の抱える課題解決を求めている。あなたの会社の商品やサービスを買いたいわけではない。」
営業は、この当たり前の前 提を時に忘れてしまうことがある。
営業目標という数字を背負う営業にとって、自分達の商品を売りたいという気持ちは当然のことではあ る。しかし、それは、お客様の課題を解決する手段の一部にすぎない。
あなたの商品でお客様の課題がすべて一掃されるということは、奇跡 である。もし、そんな事を本気で信じているとすれば、常識がなさ過ぎる。お客様は、そんな非常識を直ぐ見抜くだろうし、そんなあなたを信用しなくなるだろ う。
そこまでではなくても、自分の出来る事を前提にお客様に売り込む営業も少なくない。「自分達は、ここまでできます。足りない分は、 お客様が自分で何とかしてください。」という営業である。これもた「お客様に信用されない営業」の典型的パターンである。
「お客様が求 めているのは課題の解決であり、商品の購入ではない」という、前提を心得ない営業のひとつの姿である。
「自分が何が出来るかではなく、 お客様のために何をすべきかを考える」。
それが、営業という仕事の基本的な姿勢であろう。自分達に出来るかどうかはわからない。しか し、お客様の課題を解決するためには、自分達の商品やサービス、あるいは人材にこだわらず、最善の手段の組み合わせを考える。そして、その組み合わせを構 成する手段の一つとして、自社のモノを組み入れる努力をする。
お客様の個別の課題を整理し、課題解決に最適な組み合わせ、つまり「ソ リューション」を考える。そのために社内外から必要なリソースを引き出し、お客様に最適化された提案を纏め上げる。
これをひとりで行う ことは容易なことではない。特に、案件規模が大きくなれば、関わる人や組織が大きくなる。だからこそ、全体を取りまとめ、関係者をお客様の課題解決という ひとつの方向に結集させる役目、つまりプロデューサーが必要となる。
このプロデューサーこそ、アカウント営業である。
組織力を生かした営業活動、チーム営業とは、武器を充実させ、営業個々人の能力を高めるだけでは、実現できない。お客様に責任を持ち、お客様の課題解決の ために全体をプロデュースする現場の指揮官が必要だ。
この指揮官を育てること。そして、彼の役割をはっきりとさせ、だれもが彼に従う組 織としてのコンセンサスを確立すること。
組織力を生かす営業とは、このアカウント営業なくして、実現はしないだろう。