「お客様に頼られる営業になりたいんです。」
営業研修の冒頭で「理想の営業とは」という質問をすると、多くの方から、このような答えが返ってくる。
そこで、「頼られる営業になるためには、どうすればいいのでしょうか?」と切り返すと、意外とその答えは、曖昧であったり、本人に確信がない場合も多い。
「あるべき姿」のイメージはある。しかし、その手段が良く分らない。ただ、これに答えを出さない限り、「あるべき姿」は、いつまでもイメージのままである。
では、真剣にこれを追求しているかというと、必ずしもそうではない。というか、「理想の営業とは」などという質問をされるまでは、そんなことを真剣に考 えてもみなかった。改めて質問されて考えてみると「お客様に頼られる営業」が、自分の理想の姿なのかなぁ・・・となんとなくそう思えてくる・・・というの が、本音であろう。
新年というのは、自分の「あるべき姿」を確認するよい機会といえるかもしれない。不信心な私でさえも、元旦には近くの神社で手を合わす。そして、今年の 決意を新たにする。年に一回の信心にご利益があるとは到底思えないが、少なくとも自分の「あるべき姿」を思い描きながら、その方策について思い巡らす程度 のご利益は、あるようだ。
さて、話を戻そう。「頼りにされる人」とは、どういう人なのだろう。「相談できる相手」といってもいいかもしれない。相談すれば、適時、的確に答えが返ってくる。そんな営業は、頼りになることは、間違えない。
また、「頼りにされる人」とは、代替が利かない存在でもある。
仕事に抜かりがない、仕事が速い・・といった人も便利で役には立つが、代替は他にもいる。
こちらの要望どおり見積りを出し、納期を満たしてくれる人もありがたい。しかし、競合も虎視眈々とチャンスを狙っている。いくらでも置き換えはきくだろう。
しかし、自分の悩みやこれからの方向について、その道筋を示してくれる。あるいは、そこまでゆかなくても、一緒になって真剣に考え、気付きを与えてくれるような存在は、得がたいものだ。頼りになることの条件のひとつとは、言えるだろう。
昨日、産経新聞に掲載されたエッセイ「日本よ(石原慎太郎・著)」にこんな記述があったので引用させていただく。
『幼稚な人間とは知能指数が低いとか、ものをよく知らないということではない。何が肝心かということがわからない、何が肝心かということを考えようとはしない者のことだ』。
けだし、名言というべきだろう。
たとえば、自社の製品については、よく知っていている。しかし、競合他社の製品や世の中の動向については、言葉を知っている程度である。自社の製品が、どのような位置づけにあるのか、客観的に評価することができない。
また、クラウドや国際会計基準という言葉は知っている。しかし、それが、世の中の動きやお客様の業務にどのような影響を与えるかについては、考えたり、調べたりもしていない。
このような「肝心」なことが分らない相手に、相談しようなどという気持ちが、起こるはずがない。
話題の単語やフレーズは、ネットに氾濫している。しかし、そんな言葉の断片を、ディスプレイから脳みそにコピペするだけでは、本質は見えてはこない。言葉 の背景にある歴史や思想、目的をつなぎ合わせて体系化しない限り、「肝心なことが分らない」ままである。言葉を知っているということと、言葉の本質を理解 し、それがもたらす変化や価値といった「肝心なこと」をわかっているということは、まったく違う次元の話しである。
「肝心」が分っていれは、もの事の道理が分り、筋道が見通せる。お客様は、そんな人を相談相手に選ぶのではないだろうか。大人が子供に相談しないように、お客様は、幼稚な営業を頼りには、しないだろう。
「頼りにされる営業」の条件とは、もちろんこれだけではないだろう。ただ、めまぐるしく変わる技術や製品の表面的な言葉に翻弄されるのではなく、その背後にある「本質」を理解することは、「頼られる営業になる」ためには、大変「肝心」なことだ。
今年もまた、「クラウド」で年が明けたようだ。多くのソリューション・ベンダーの年頭の話などを拾い読みしてみるとそのことが良く分る。そして、また新しい言葉が、湧き出してくるだろう。
しかし、言葉の読み方を知っただけで、知ったかぶりにならないようにしたいものだ。「何が肝心かということがわからない、何が肝心かということを考えようとはしない」幼稚な営業にだけは、なりたくないものだと思う。
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