SIerにとってシステム開発力は、商品そのもの。だから、エンジニアを対象とした研修制度を整えている企業も少なくない。研修制度とまではいかないが、外部の技術研修にコストをかけ、技術者の育成を図っているところも多い。
しかし、いくら立派な商品がそろっていても、それを売るための能力育成となるとどれほどの手間とコストをかけているだろうか。
以下の表をご覧いただきたい。この表は、ITベンダーが、お客様をどれだけ理解しているかを、ユーザー企業、ITベンダー企業の双方に尋ねた結果である(情報サービス産業白書2009を参考に作成)。
この表を見ると、ユーザー企業、ITベンダー企業の双方とも、約6割が、お客様の課題を理解していない、解決策を提示できていないと認識している。
言うまでもないが、お客様の課題を把握できずして、ビジネス・チャンスを手に入れることはできない。
こういう話をSIerの経営者や営業幹部にすると、必ずといっていいほど、「そうなんですよ、営業をもっと強化しなければならないと考えているんです。」というコメントが返ってくる。ここ最近は、特にそんな声が増えてきたように思う。
しかし、何か具体的な手を打っているかというと、何をどうすればいいのか分らないままに、結局は何もしていないという企業が大半だ。
私は、最近「営業力」ということばを意識して使わないようにしている。というのは、「営業力」というと、「営業職の人の能力」と受け取られてしまう場合が多いからだ。
営業力とは、「営業という仕事」の能力である。この「営業という仕事」は、なにも営業職ばかりがやるものではない。経営者、SE、コンサル、PMも「営業という仕事」をしている。
だから、「営業力」ではなく「ビジネス開発力」と言い換えている。
「ビジネス開発力」とは、「システム開発力」を売る仕事である。そのためには、3つの要素を満たす必要がある。
ひとつは、「知識」。ITばかりではない。お客様の業務や業界、社会経済のこと、人脈や組織の力関係などへの理解である。
ふたつ目は、「スキル」。プレゼンテーションやコミュニケーション、ドキュメンテーションやファシリテーションといった能力である。
最後は、「プロセス」。仕事を進める手順である。お客様を開拓し、課題を明らかにし、提案して受注に至る一連の仕事の手順である。
「知識」とは、何を売るかを考える元となる。つまり、戦略立案の基盤となるもの。それに対して、「スキル」は、お客様との合意形成や受注に至る一連の仕事の過程を効率よく、確実に進めるための手段である。つまり、「スキル」が高ければ、お客様への説明や交渉が、スムースに行え、仕事の時間短縮ができるからだ。
いくら「知識」があっても、「スキル」がなければ、うまく相手に伝わらない。一方、「スキル」はあっても「知識」がなければ、お客様は、魅力を感じないだろうし、納得もしないだろう。
この「知識」や「スキル」を効果的に使うためには、タイミングが重要。それを知るためには、「プロセス」を理解しておかなくてはならない。
顧客開拓から、課題発掘、提案、決済、受注に至る仕事の手順には、定石がある。その定石を理解し、夫々のプロセスで何をすればいいかが分っていれば、仕事に無駄がなく、確実に進捗を進めることができる。
システム開発には、エンジニアリングという考え方がある。作業の手順を予め明らかにし、チェックポイントを設けて、進捗や品質、コストを評価しながら、作業進めている。
「ビジネス開発」にも同様にエンジニアリングという発想を取り入れることができる。
「営業という仕事は、人を相手にする仕事だから、計画や管理、予測は難しい。生まれ持った個人の才能やセンス」とあきらめている人も多いが、決してそんなことはない。
私は、この「プロセス」を4つのフェーズと28のプロセスに整理してみた。今まで、数百人の研修受講者に説明しているが、基本的なところでは、大きなずれはない。ただ、一部、官公庁やパトナー販売となると、ユーザーを相手にする場合とは違うプロセスが必要となるので、これは例外といえるだろう。
このように、「ビジネス開発力」とは、「知識」と「スキル」と「プロセス」を使いこなす能力である。
オフショアが普及し、クラウドが当たり前になりつつある時代。どんなにすばらしい「システム開発力」という商品を抱えていても、今までどおりのやり方で、ビジネスが向こうからやってくることはない。
新しい時代の潮流に踏み込んで、自らビジネスを開発してゆかなければ、いずれ流れに飲み込まれてしまうだろう。
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