「どうして、こんなに忙しんでしょうね。毎日夜は9時、10時になるんですよ。参っちゃいますよ。」と文句を言う。しかし、その言葉に、悲壮感は無い。
30才台前半の彼は、この会社の営業として、まじめに仕事をしている。私は、彼の話を聞いて、「こいつは、大丈夫だな。まだまだ、働き足りないなぁ」と苦笑いをした。
私もこの年頃には、殺人的な生活をしていた。朝7時にオフィース、夜、終電に間に合うことは、まず無い。帰りはいつもタクシーで、「XXXのインターを出たら起こしてください。」と告げて、暴睡し睡眠時間のつじつまを合わせる。週に一日、二日は会社に泊まりこみ、近所にあるカプセル・ホテルでシャワーを浴びて仮眠を取る。土日も必ずどちらか一日は、会社に出ていた。
こんなこともあった。ある大型の案件をなんとしてでも受注しようと、必死になっていた。昼間は、お客様の社内を回り、情報収集や交渉、そして夕方になるとオフィースに戻り、打ち合わせや翌日の資料作成。そんな毎日を繰り返していた。気がつくと、95日間一切休み無く働いていた。
よく続いたものだと思うし、なんと要領の悪い仕事の仕方をしていたのかとも思う。
改めて考えてみると、そんな自分に酔っていた面もある。確かに仕事は多かったが、もうすこし要領よくやれば、こんなことにはならなかっただろう。しかし、大変だ、忙しいということで、結局は、「自分はこんなに仕事をしているですよ。どうです、すごいでしょ」と周囲にアピールし、それを自慢していた。そして、何よりも、大きな仕事ができることに、やりがいも感じ、それを楽しんでいた。
こんな経験をお持ちの方は、私だけではないと思う。
労働時間の長さは、IT業界の構造的問題として、いつも何とかしなくてはという話になる。もちろん、この現実を否定するつもりはないし、真剣に何とかしなくてはならないと私も考えている。
ただ、忙しいこと、労働時間が長いことが、すなわち、心の病や過労死につながるかというと、必ずしもイコールではないように思う。ご批判を覚悟で、あえてそう申し上げたい。
私は、少々いい加減で、楽天的な性格であるから、こんな異常な生活の中でも、どこか手抜きをして、息抜きしていた。だから、こうやって生き延びてきたのだろう。
また、忙しい、忙しいといいながらも、営業という仕事をおおいに楽しんでいた。
営業であるから、予算(ノルマ)もある。しかし、予算というものは、簡単に達成できないようになっている。当然、これを達成するために知恵を使い、お客様を開拓し、タフな交渉もこなした。しかし、なんとしてでもやってやるという決意もしっかりと持っていた。
厳しくて、大変だが、難攻不落を攻略することを楽しんでいた。自分の仕事に目的があり、価値があり、いつまでにどれだけという目標がある。それを理解し、信じていたからこそ、仕事を楽しめたのだと思うし、心を病むことも無かった(ただ、過労で身体は壊してしまったが・・・)。
ONとOFFのけじめというが、これは決して、「ONは、厳しくつらいもの、OFFは、楽しく、気楽なもの」という意味ではないようにおもう。「ONは、ONで楽しみ、OFFは、OFFで楽しむ」。そんな意味だろうと思う。
私の今のOFFの目標は、フルマラソンを3時間15分で走ること。これは、容易なことではない。だから、つらい練習もする。しかし、それは自分の決めたことであり、それはそれで楽しんでいる。楽しむとは、そういうものではないかと思っている。
では、どうすれば、営業という仕事を楽しめるのだろうか・・・
ノー残業デイを作ったり、休暇を強要する。それに意味が無いとはいわないが、それだけでは、仕事を楽しむことの助けにはならない。自分のやっている仕事の意義や目的、その価値を理解し、信ずることができなければ、それを達成する喜びも生まれない。
労働時間や労働環境の改善も大切な課題である。ただ、それだけでは、営業のモチベーションを高め、パフォーマンスを高めることにはならないだろう。
では、営業という仕事の価値は、どこにあるのか。何を信じ行動すればいいのだろうか・・・
「明なるに自りて誠なる也」
自分の行うべきことを明確に自覚し、目的地を知れば、自ずと努力して、それに至ろうという気持ちが沸き起こってくる。
まったく、その通りだとおもう。
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名称:ソリューション営業プロフェッショナル養成講座
日程:9月10日(木)-11日(金) 2日間
場所:東京・茅場町
『ただ、忙しいこと、労働時間が長いことが、すなわち、心の病や過労死につながるかというと、必ずしもイコールではないように思う。ご批判を覚悟で、あえてそう申し上げたい。』非常に危険な表現ですね。労働時間が長い人が全て死に直結していたら日本の人口は急激に減少してしまうでしょう。そうではなくて、”労働時間が長いことは過労死の要因となり得る。”という事で、”長時間労働しなくても死ぬときは死ぬんだ。”では無いという事を明確にして頂きたい。心の病になった事が無い人が無責任に「労働時間が長かろうが短かろうが心の病にかかる奴はかかる。」などという発言はしないで頂きたい。ご本人が、心の病とは無縁だからといって、その文章も無縁だという論理は成り立ちません。わらにもすがりたい気持ちで毎日を暮らしている人がいる事を少しだけでも良いですから気にかけて下さい。別世界の話にはしないで下さい。