「足に靴を合わせるべきか、靴に足を合わせるべきか」
自社開発か、パッケージ・ソフトウェアかについて語るとき、よく使われるたとえ話です。
もう、10年以上も前のことです。ある製造企業が、米国の企業を買収し、50kmほど離れたところにあった親会社の本社に被買収会社の本社機能を集約しようとしたときの話です。その本社にいた200人ほどの社員の半分以上が、退職してしまいました。
その時、現地のシステムを担当していた日本人のシステム担当役員は、「日本では、そう簡単に社員が辞めることはありません。ですから、業務が人に属していることは普通のことだと考えていました。しかし、アメリカでは、そういう考えを捨てないと、立ちゆかなくなってしまいます。システムに業務を作り込まないと、人がすぐに入れ替わってしまう状況では、事業を継続することさえ難しくなります。」
アメリカ発のソフトウェア・パッケージは、そんな文化を背景にして生まれてきたものです。企業を越えて業務プロセスを一般化し、あるべきビジネス・モデルを想定します。それを前提にシステム・プロセスを設計し、プログラミングしてできあがったものです。
このようなパッケージは、誰がやっても同じ事が出来るように、業務を徹底して作り込んでいます。見方を変えれば、現場での融通が利かないシステムに仕上がっていると言えるでしょう。むしろ、融通が利かないようにすることで、誰でも同じ業務をこなせるようにしています。そういう思想で作られているのです。
一方、日本の企業は、伝統的に人に頼る仕事のスタイルを大切にしてきました。現場で融通を利かせることが尊重されます。それが日本企業の良さでもあるのです。当然システムにもそんな柔軟性が求められます。従って、仕事のやり方を型にはめられるような出来合いのパッケージ導入には、大きな抵抗が伴います。
また、たとえパッケージ・ソフトウェアを入れるにしても、徹底して現場の業務にあわせるために前提となっているビジネス・モデルや業務プロセスを無視したカスタマイズを施すことも少なくありません。その結果、はじめから自主開発した方が、安上がりではなかったかというようなケースもあるようです。
こんな事をしてしまうと、パッケージがどんどんバージョンアップしても、カスタマイズされた部分が容易に対応できず、結局はコストもかさみ、バージョンが塩漬けになることもよくありす。何のための、パッケージ導入なのか、訳のわからないことになってしまうこともしばしばです。
アメリカと同じように、我が国でアプリケーション・パッケージ・ソフトウェアが普及しない背景には、こんな文化的背景の違いがあるのではないかと考えています。
「自社開発至上主義」、「現状業務徹底対応主義」とでも言う文化は、雇用が安定し、人材の流動性が少ない時には、仕方のない事だったのかも知れません。しかし、時代の流れは大きく変わってきているようです。
昨年、7~9月期の非正規雇用者の割合は、全就労者人口の34.5%に達しています。また、終身雇用が当たり前という常識はすでに崩壊し、転職はすでに一般化しています。人材の流動化は、拡大しています。また、グローバルな事業展開は、国内の国際化を促し、業務のローカル主義を許さない状況にあります。
このような時代の流れの中で、従来と同じように人に依存した業務プロセスを構築することは、重大な経営リスクとなりかねません。また、システムに業務を作り込みこみ、誰でも同じ業務がこなせるようにすることが、日本でもそろそろ当たり前のこととして受け入れられるようになるのではないでしょうか。
よく、アプリケーション・パッケージを販売する営業さんが、「パッケージにしたほうが、自主開発するより安上がりですよ」という売り込みを平気でする人がいます。これは、まったくお客様のことを考えていない、自分たちの都合に合わせた詭弁です。
パッケージの背景にあるビジネス・モデルや思想をただしく伝えると共に、融通が利かない仕事のスタイルを受け入れる企業マインドの転換を訴えること。それが、もたらすメリット、デメリットをお客様と議論することから始めなければ、現場は混乱することになるでしょう。
また、システムに作り込まれた業務にあわせることを受け入れるならば、必ずしも自社でパッケージを保有する必要もありません。SaaSやASPでもいいではないかという議論も出てきてもおかしくはないはずです。
米国では、SaaSやASPなどのアウトソーシングへの支出は、企業のシステム関連支出全体の30%を越えているそうです。まだ日本ではそこまでの数字には至っていないと思うのですが、そういう流れが、今後加速するでしょう。
パッケージ・ソフトウェアの導入やサービスのアウトソーシングは、そんな背景の違いをただしく理解してこそ、効果を発揮するのではないでしょうか。
「自分の靴を履かず、他人の靴をみんなで一緒に履く」ことも、これからの時代の一つの選択肢になることは、間違えないと思います。
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