「うちの仕事もいずれなくなるでしょうね。」
一部上場・製造業のシステム子会社役員が、こんな話をされていました。
この会社は、もともと親会社の情報システム部門が、独立採算を求められて設立された会社です。親会社やグループ会社からだけではなく、他からも仕事を受注し事業規模を拡大することが求められてきました。しかし、設立して6年ほどですが、未だ親会社やグループ会社からの売上が、全体の8割を占め、独立には、ほど遠い状況となっています。
今年度の目標は、「直ビジネス(親会社を介さない直接とり引き)を3割以上にする」ということなのだそうですが、今までの2割にしても、親会社のつてを使ってのビジネスが、かなりの割合を占めていて、実質的には、9割近くが親会社関連の仕事という状況です。「なんとも控えめな目標設定」などと不謹慎なことを考えてしまいましたが、この会社にとっては、大きなハードルのようです。
こういう事業構造の中で、営業の仕事といえば、決まった親会社のシステム予算を滞りなく消化することであり、親会社のシステム関係者との人間関係や事務処理能力が求められていて、自ら企画し仕掛けてゆく営業力は、必要とされませんでした。何とかしなければという言葉、今まで幾度となく話をされていたのですが、有効な対策は何も打たれてきませんでした。
しかし、景気の低迷とともに、親会社からの仕事も先細り感が強まる中、そのことを、今になって、やっと大きな課題として実感しはじめているとのことでした。
さらに、ここへ来てさらに大きなトレンドの変化が生まれようとしているというのです。というのは、親会社が、システム機能のアウトソーシングを積極的に推し進めようと動き始めているというのです。
今までは、親会社は、自社開発にしろ、パッケージを利用するにしろ、自社で設備やハードウェアを持っていました。そして、このシステム子会社に開発や保守、運用管理を任せるといった形でビジネスが、成り立っていたのです。
しかし、今後自社には、原則としてアプリケーション・システムを持たずASPやSaaSの形で利用する方向に向かおうというのです。そうなると、今まで委託や請負で任されていた仕事がなくなることになります。
大きな会社ですから、短期間にすべてがそうなるというわけには行かないでしょうが、ミション・クリティカルではない業務から順次移行されることは確実です。また、昨今の不況の影響を受けてその動きを加速しようというトップの意向あり、待ったなしの状況に追い込まれているのです。
「6年間の猶予が与えられていたのに、結局は何も対策を打ってこなかったことのツケが回ってきたのでしょうか。」と自戒をこめて話をされていました。
「ストック・ビジネスの時代へ加速する」や「えっ!?まだ御社ではITの運用や開発に人を抱えているんですか?」でも書きましたが、このような動きは、もう特別なことではありません。
これは、業務も含めたビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)ということではなく、純粋にシステム機能だけを外部に任せ、システムの開発や運用管理を手放してしまおうというものです。そうなると、いままで開発や保守、運用や管理の委託や請負で売り上げを確保していた企業は、仕事がなくなります。当然、SIもいらなくなります。SIerやIT機器ベンダー「中抜き」時代へ大きく動き始めているのです。
「まだ大丈夫。すぐにはそうなりませんよ。」
確かにそのとおりだと思います。ただし、半年や一年程度ならという条件付ですが・・・。
こういう時期だからこそ、動きは一気に加速します。景気が回復しても、その勢いがとまることはないでしょう。
事業構造をどのように変革するかも重要ですが、その源泉は、お客様のニーズです。そんなお客様のニーズをきちんと拾い、企画や提案にまとめられる営業力です。机上の事業プランだけでは、結局は継続することなどできないでしょう。そんな、お客様の視点を社内に持ち込む営業の力が、この会社には必要なようです。
「まだ大丈夫」の時間は、限られています。
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