「権限委譲」、「エンパワーメント(empowerment:必ずしも同じ意味ではないようです)」ということばをよく耳にします。
仕事を任せ、責任感と自主性を育てる。その志はすばらしいのですが、なかなかうまくはゆかないものです。
松下幸之助曰く、「権限委譲」とは「任して任さず」ということ。「好きでやりたいと思っている人に自分の仕事の一部お任せする。ただし、任せた以上はあまり口出しをしない。失敗しそうなときははっきり注意する。例え失敗しても、その責任は全て経営者自らが負う」というものだそうです。
「君に任せたよ」と言っておきながら、失敗の責任を負わない。「せっかくあいつに任せたのに、期待を裏切られたよ」。そんなマネージメントによく出会います。そういう人に限って「私は部下を信頼して仕事を任すようにしているんですよ」という。これは、「権限委譲」ではなく「責任放棄」です。
また、任せておきながら、細かいことにまでひとつひとつ指示をするのも、任された方としてはたまったものではありません。「まかせてくれたんじゃないんですか?だったらもっと自由にやらせてもらえませんか?」。指示命令に従って動くだけでは、責任感や自主性などは育ちません。
このふたつを同時に行い、それを「権限委譲」といってはばからない営業マネージャーにお会いしたことがあります。さりげなく苦言を申し上げたところ、「彼らは、言ったことがチャンとできない。だから細かく指示しないと失敗する。私の言うとおりやっていれば、失敗はしない。」だから、失敗は彼らの責任(?)ということになるようです。なるほどこれも理屈ですが、どうも「権限委譲」とは、まったく別物のようです。
もちろん任されたほうは、その結果に対してコミットしなければなりません。好きなようにやって、結果はどうでもいいという訳ではありません。自分がコミットメントができないのであれば、「権限委譲」を受け入れてはいけないのです。
任す方も任される方も、それぞれに自分の責任を果たす。そんなお互いに対する約束と信頼があってこそ、「権限委譲」はうまくゆくように思います。
「最近の若い者は、言ったとおりのことをなかなかできなくて困りますよ」、「せっかく任せたのにできないなんて、彼にはがっかりです」・・・そんな営業マネージメントの嘆きの叫びを聞きます。しかし、本心からそう思っているようでは、部下との信頼関係はお寒いものです。基本的な部下との関係ができていないことを自ら公言しているようなものです。
「権限委譲」を仕事のパフォーマンス向上と部下の育成に役立てたいと思うのであれば、部下の見方、そして自分との関係をまずは見直すことからはじめなくては、うまくは行かないように思います。