ある大学発ベンチャー企業の社長からこんなご相談を受けたことがある。
「最近は新聞や雑誌に紹介され、お問い合せも増えています。でも、なかなか商談が成立しないんですが、どうしてでしょうか?」
説明を聞くと、技術のすばらしさについて、あふれんばかりの自信とともに、とうとうと話をする。確かにすばらしい技術である。こんな技術は他にはないという。特許もしっかり押さえている。でも、なかなか売れないと頭を抱えている。
こんな質問をしてみた。「ところで、この技術を使うことで、お客様の業務がどのように変わるのでしょうか?」「これはいくらで販売されるのですか?」「商品構成は?」・・・どれも的確な答えは返ってこない。それは、買ってくれる人に考えて欲しいという。技術のシーズ(種)は提供するから、それをどのように使い、いくらで買うかについて、お客様から示して欲しいという。つまり、ニーズ(何が欲しいか、どのように使いたいか)は、お金を払う側が考えて提示して欲しいという。
これではビジネスにはならない。こちらが伝えたいことを語るのではなく、お客様が知りたいことを伝えなければ、「すばらしいお話を伺いました!いい勉強をさせて頂きました。ありがとうございました。」で、終わりである。それ以上話が進まないのは当然。「技術はあるが、商品はない」の典型だ。
これほど極端ではなくても、このような話はIT業界にもある。ある会社の営業が新製品の話をお客様にする。価格も安く、機能も画期的で、他社の追従を許さないすばらしい製品である。是非買って欲しいとお願いする。
確かに優れた商品かもしれない。しかし、お客様の立場からすれば、ここまでの機能は必要ない。もっと安価にできる方法もあるかもしれない。お客様の課題は?購入判断の基準は?結果としてどうなりたいのか・・・などのニーズを聞き出す。だったらこの製品をこのように使えば、こういう結果になりますと答えなければ話はここで終わってしまう。
「商品はあるが、ソリューションはない」とは、このようなことを言う。
「売り込みからではなく、聞き込みからはじめる。」それが、営業の仕事のスタート・ポイントだ。