「テクノロジー・ドリブン」
ここ数年の動きを見ていると、こんな言葉がふさわしいかもしれません。例えば、UberやAirbnbといったテクノロジー・ドリブンなビジネスが既存のビジネスを破壊しようとしています。
「テクノロジー・ドリブン」とは、テクノロジーの進化がこれまでの常識を大きく変えてしまうことであり、それを前提に新たな常識が築かれることを表す言葉です。IoTや人工知能の普及もまた、そんなテクノロジー・ドリブンを支えるキーワードと言えるでしょう。
テクノロジーは、これまでの常識の延長線ではなしえない劇的な生産性やコスト削減を実現し、これまでの常識を破壊する新しいビジネスを創出する手段として、その存在感を増しつつあるといえるでしょう。
またクラウドは企業の基幹業務を支えるシステム基盤として広く世の中に受け入れられつつあります。モバイルやウエアラブルは「前提」であり、ソーシャル・メディアは人のつながりのあり方を大きく変えてしまいました。さらに、「オープン」は、人々の価値観や企業戦略の前提を変えつつあります。オープンソース・ソフトウェア、オープンデータ、オープン・コミュニティへのコミットメントなくとして、これからの時代を生き抜くことはできません。
これはテクノロジーによる時代の再定義であり、既存のビジネスや社会基盤を「デジタルで組み替える」動きといえます。
「デジタル・トランスフォーメーション」
この変化を言葉にすれば、こういう表現になるかもしれません。これはこれからのビジネスの方向を指し示していることばです。この「デジタル・トランスフォーメーション」は、サービス化、オープン化、ソーシャル化、スマート化の4つの大きな力に牽引されます。
サービス化
ジェットエンジンを「出力×稼働時間」で従量課金する、あるいは建築機械を測量、設計、自動運転とともにサービスとして提供するといった、これまでは販売が常識だったビジネスにもサービス化の流れが生まれています。また、サーバーやストレージ、ネットワーク設備やPCなどのコンピューター資源は、もはやクラウド・サービスとして使用することは必然の流れになろうとしています。また、システムを開発し実行する環境さえもクラウドに頼ることで、開発の生産性を劇的に高め、運用管理を不要とします。
人々は、これまで価値を手に入れるためにその手段を所有しなければなりませんでした。しかし、様々な価値がサービスとして手に入れられる時代へと変わろうとしています。
ユーザーが求めているのは、結果としての価値であり、その手段ではありません。手段を所有しなくても価値が手に入るのであれば、そちらに人々の需要がシフトするのは必然なのです。
オープン化
「特定の企業の所有する技術や製品ではなく、ひろく多くの人が関与する技術や製品の方が進化のスピードは早く、安心・安全も担保される」
そんな常識が広く受け入れつつあります。
オープン化の動きは、これまでも世の中の常識が変わる節目に度々登場しています。例えば、1964年、IBMは自社の虎の子の技術であるコンピューターの技術仕様を「システム/360アーキテクチャー」としてオープン化しました。これにより、IBMのコンピューターの周辺に様々なビジネスが生まれ、今のビジネス・コンピューター市場を生みだす切っ掛けとなりました。また、1981年、やはりIBMは自社のPCを開発、販売するに当たり主要な技術を囲い込むことをせずインテルやマイクロソフトから調達し、PC市場拡大のきっかけを作りました。インターネットやLinuxといった技術もオープンであったことが、その後の発展と進化を支えてきたのです。
オープンはこれまでも時代を動かす切っ掛けを生みだしてきました。そして、いま多くの企業が再び、オープンに積極的に関わろうとしています。
例えば、自らが開発したテクノロジーをオープンにすることは、もはや社会正義にも近い感覚となりつつあります。そして、自らがオープン・コミュニティのなかで存在感を高め、その中でリーダーシップを示すことが、自らのビジネスを成長させる原動力になることを受け入れはじめています。もはや、ビジネスはオープンに支えられ、オープンへのコミットメントなくして生き抜くことができなくなったとも言えるでしょう。
インターネットの普及やソーシャルメディアなどはこのオープン化を加速させる推進力として、その役割をますます強めています。
ソーシャル化
インターネットの普及と共にコミュニケーション・コストが劇的に下がりました。その結果、誰もがフラットにつながることができるようになりました。また、コミュニケーションにハブや管理者は不要となり、そこに権力や富が集中することはできなくなろうとしています。ソーシャル・メディアやピア・ツー・ピア通信のテクノロジーは、この流れをさらに加速しています。UberやAirbnbなど、これまでの常識を破壊しようとするビジネスはこんなコミュニケーション基盤に支えられています。このコミュニケーション基盤は「シェアリング・エコノミー」を生みだし、こりまでの常識を破壊する新たなビジネスを登場させる基盤としても大きな役割を果たすことになります。
スマート化
個別最適化は無駄を随所に生みだしてしまうので、全体最適化こそがあるべき姿だと言われ続けてきました。しかし、IoTの普及により、個別の現実をきめ細かくリアルタイムに捉えることができるようになり、この常識も変わろうとしています。
IoTによって収集された「個別の事実」は、人工知能によって解析されます。そして、他の「個別の事実」との関係を考慮しつつも可能な限り個別最適化を実現しようとするでしょう。サンプルデータによる平均的・一般的解釈や人間の判断が介在すれば、とてもできることではありません。
IoTをはじめとして、ビジネスがデジタルに構築されるようになれば、現実世界とデジタル世界は表裏一体の関係として存在することになります。現実世界は、簡単にそれを変えることも破壊することもできませんが、デジタル世界は、シミュレーションというカタチで、どのようにでも変えることができるし破壊することもできます。人工知能はそのための手段として大きな役割を果たすことになります。そこで得られた新たな知見、未来予測、最適解は、私たちの住む現実社会をより快適にしてくれます。スマート化とは、このような現実世界とデジタル世界を一体の仕組みとして捉え、新たな社会システムを構築しようという変化なのです。
また、機械が人間の代わりを果たしてくれる範疇はますます拡がってゆくでしょう。肉体的にも知的にも、時間と労力をかけることで生みだしてきた価値は機械に置き換えられてゆきます。その方が、遥かに効率的で正確だからです。時間もコストも大幅に削減され、生産性は飛躍的に高まります。
一方で、人間の役割は大きく変わってくるでしょう。感性、協調性、創造性がこれまでにも増して重視されるようになり、人間は新たな進化のステージに立たされることになるのです。
このような時代の変化の中で、ITビジネスはとのような方向に向かうのでしょうか。それを著したのが以下のチャートです。
「デジタル・トランスフォーメーション」に向かう流れは、「クラウド・ネイティブ」と「アンビエントIT」によって牽引されます。
「クラウド・ネイティブ」とは、ITに関わる多くの資源がクラウド・サービスとして提供されることです。また、所有することを前提としたこれまでの使い方とは大きく異なる新たなシステムとの付き合い方が求められることでもあります。つまり、これまでの所有するITの延長線上で考えることではなく、クラウドならではの思想やテクノロジーを前提にシステムとの係わりからを新たに見い出してゆかなければならいのです。
一方の「アンビエントIT」とは、「環境や周辺に溶け込むIT」の意味です。例えば、5年後の2020年にインターネットにつながるデバイスの数は、500億個になるといわれており、そのときの世界人口を75億人とすると一人平均7個のデバイスがインターネットにつながっていることになります。これが10年後の2025年80億人の時代には2兆個になるといわれ、一人平均250個のデバイスを持つ計算になります。これは必ずしも突拍子もない数とは言えません。たとえば、靴や鞄、鍵やメガネ、家具や建物など、自宅や職場を併せて考えれば、その程度のモノに私たちは既に関わっています。それらの多くが全てインターネットにつながれば、現実世界のデジタルコピーが、緻密かつリアルタイムにデジタル世界に写し取られることになるのです。こういう現実世界とデジタル世界の一体化を前提とする社会や生活の基盤が実現しようとしているのです。
この2つの牽引力は、5つのテクノロジー・トレンドによって支えられます。
サーバーレス
クラウド・ネイティブの真価は、物理的な実態を、そのアナロジーとしてサービスにおきかえるものではありません。クラウドにしかできないコトを最大限活かすことで、はじめてその真価が発揮されます。例えば、コンテナやPaaS、APIを活用すれば、開発や運用管理の生産性を劇的に変え、最新のテクノロジーをいち早くビジネスに取り込むことができます。
このような使い方では物理的なサーバーやネットワーク機器を意識する必要はなくなり、その機能や性能をサービスとして直接使うことができるようになります。仮想化は物理的な実態のアナロジーに過ぎませんが、そんなことを考える必要がなくなるのです。
Internet of Things(IoT)
モノが直接インターネットにつながることで、現実世界はこれまでに無く緻密に、そしてリアルタイムにデジタルで捉えられるようになることは既に述べたとおりです。この仕組みが、ビジネス・モデルやビジネス・プロセスをくみ上げてきた既存の常識を大きく変えることになります。
IoTをビジネスとして考えようとするとき、このビジネス・モデルやビジネス・プロセスの変革にどのように貢献するかという視点が大切です。IoTをテクノロジーとしてのみ捉えてしまえば、他のテクノロジーがそうであったようにコモディ化の波にいずれは呑み込まれてしまいます。一時的に利益を得ることができても、進化の時計がますます加速する今の時代にあっては、コモディティ化もまた急速な勢いで迫ってくるでしょう。むしろ、コモディティを武器にして低コストとスピードでビジネス・プロセスを変革することにビジネス価値を見出すことが大切になります。
また、物理的、地理的な障壁のないデジタル世界は、自由につながり、融合することができます。かつてシュンペーターが、「イノベーションとは新しい組合せである」と言いましたが、その新しい組合せを簡単に試してみることができるようになります。まさにイノベーションの孵卵器であり加速器が、IoTの生みだすデジタル世界と言えるでしょう。
サイバー・セキュリティ&ガバナンス
クラウド・ネイティブもアンビエントITも、ともにセキュリティやガバナンスの常識を大きく変えなくてはなりません。これまでのように自社システムを自社の管理の行き届く場所に物理的に設置し、それを取り囲むように壁を張り巡らせ、自社と外部の境界を守るセキュリティは成り立ちません。
クラウドもIoTも自社の直接的な支配下にはなく、内と外との目に見える境界は喪失します。そうなると大切になってくるのは、デバイスやシステムと利用者とのお互いの信頼を確立することです。そのためには「誰が使っているのか」のアイデンティティと、「いつ、どのように使ったか」のログを管理できる基盤が鍵を握ることになるでしょう。
守るのは物理的なシステムそのものではなく、データやプロセスを守るという発想への転換が大切になります。また、管理する対象が膨大な数となり、ログの中から攻撃、痕跡、リスクを見つけ出すための作業は膨大なものとなります。もはや人手に頼ることを不可能であり、自動化や自律化、エージェント化といった新たな仕組みが必要になるでしょう。また、セキュリティを技術問題としてではなく、ビジネス・プロセスやアプリケーションをセキュアに作ることまで含め、アーキテクチャー全体を考えたセキュリティが重要になります。
DevOps
ビジネスは、常に市場の変化に敏感に反応し、そのプロセスや機能を変えてゆくことで生き延び、成長します。そのスピードと柔軟性が大きな価値を生みだすのです。
「アンビエントIT」の拡大は、ビジネスとITを不可分なものにします。つまり、ビジネス・スピードに同期化し、柔軟に機能や性能を変えることができるITでなければなりません。
システムを新たに作る、あるいは仕様を変えることは、ビジネスを成功させるために必要なことです。そこに求められるスピードが加速しつつあるなかで、従来同様に仕様を固め、工数を手配し、見積もりをとって対応しているようでは使いものになりません。要求に即応し、システムを開発し直ちに本番に供すること。それを頻繁に繰り返しながらビジネスの現場のスピードに同期化できなくてはならないのです。
そのためには、先に説明した「サーバーレス」な環境を活かすことを前提に、開発と運用管理の関係を抜本的に変えなくてはなりません。
自動化・自律化
IoTと人工知能の普及は、人手の負担を劇的に減らしてしまうだけではありません。人間が介在するが故にできない膨大なデータのリアルタイム処理、意志決定に伴う時間的遅延の解消、人的エラーの排除が実現されます。
そのためには標準化されたルールを確実にこなす自動化、状況を適宜把握し、時々の最適解を見つけ、人手に頼らず実行する自律化が必要となります。これにより、人間の介在を前提としないビジネス・モデルやビジネス・プロセスを考えることが可能になるのです。
つまり、自動化や自律化は、単なる省力化の問題としてではなく、ビジネスのあり方の変革として捉えるべきなのです。そういう視点を持つことができたときに、自動化や自律化は、「デジタル・トランスフォーメーション」を実現する重要な要件となるのです。
この「デジタル・トランスフォーメーション」を支える5つのテクノロジー・トレンドに向き合うことが、ビジネスの創出と発展につながります。しかし、そのことは同時に「デジタル・ディスラプション(デジタルによる破壊)」を伴うことも覚悟しなくてはなりません。
これまで自分たちのビジネスを支えてきた経営基盤は破壊されるかもしれません。そのことを覚悟しなければならないのです。ただ、いずれ破壊されるのであれば、そこに関わらないことの方がむしろリスクです。それを自ら破壊することでイニシアティブを確保するという攻めの姿勢こそが、生き残りを支えてゆくことになるのです。
今年は、いくつかのビッグ・プロジェクトが終了し、工数需要が大幅に減ってしまいます。それを単なる需要の変動としてしか捉えられないとすれば、生き残ることはできません。「ビジネス・トランスフォーメーション」と「デジタル・ディスラプション」へと向かう潮目の変化なのだと受けとめ、自らの役割の再定義や経営資源を再配分する切っ掛けとすることです。その道は、平坦ではありませんが、もはや選択の余地はないのです。
【募集開始】ITソリューション塾・第21期 2月9日 開講
次期・ITソリューション塾が、以下の日程で行われます。本日より、参加受付を開始させて頂きます。多くの皆さんと共に学べることを楽しみにしています。
次期講義では、企業システムとしてクラウドを活用するための実践的ノウハウ、IoT時代のセキュリティ対策、ビジネス・スピードに対応するためのアジャイル開発やDevOpsなど、皆さんのビジネスに直接関わる実践的な知識をしっかりと盛り込む予定です。是非、ご検討ください。
- 期間 初回2016年2月9日(火)〜最終回4月26日(木)
- 時間 18:30〜20:30
- 回数 全11回(特別補講を含む)
- 定員 80名
- 場所 アシスト本社/東京・市ヶ谷
- 参加費用 9万円(+消費税)
- 全期間の参加費と資料・教材を含む
「SIビジネスはなくなってしまうのでしょうか?」
これまでと同じやり方では、収益を維持・拡大することは難しくなるでしょう。しかし、工夫次第では、SIを魅力的なビジネスに再生させることができます。
その戦略とシナリオを一冊の本にまとめました。
「システムインテグレーション再生の戦略」
- 歴史的事実や数字的裏付けに基づき現状を整理し、その具体的な対策を示すこと。
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また、本書に掲載している全60枚の図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。経営会議や企画書の資料として、ご使用下さい。
こんな方に読んでいただきたい内容です。
SIビジネスに関わる方々で、
- 経営者や管理者、事業責任者
- 新規事業開発の責任者や担当者
- お客様に新たな提案を仕掛けようとしている営業
- 人材育成の責任者や担当者
- 新しいビジネスのマーケティングやプロモーション関係者
- プロジェクトのリーダーやマネージャー
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2016年1月版】
*** 全て無償にて閲覧頂けます ***
最新版【2016年1月】をリリースいたしました。
今月の目玉は、IoTと人工知能についての記述を大幅に刷新したことと、これからのビジネス戦略について、新たなチャート&解説を追加したことです。是非、ご確認下さい。
*全ての資料(529ページ)は全て無料で閲覧頂けます。
【インフラ&プラットフォーム編】(246ページ)
・見栄えや誤字の修正を行いました。内容の変更はありません。
【アプリケーション&サービス編】(199ページ)
*IoTと人工知能について、大幅に資料を刷新致しました。
IoT
・「IoTとは何か」を新規に追加しました。P.14
・CPS(Cyber Physical System)についての記述を追加、修正致しました。p.17-20
・自動運転車について新たなチャートを追加しました。p.23
・モノのサービス化について新たなチャートを追加しました。p.28
・IoTに関する事例動画を刷新しました。p.49-52
人工知能
・8ページの新規プレゼンテーションを追加し、全体のストーリーを変更しました。p.139-153
【ビジネス戦略編】(84ページ)
・「テクノロジードリブンの時代」を追加致しました。 p.3
・「ビジネスの変革を牽引するテクノロジートレンド」を2016年版に差し替えました。p.4
・「ポストSI時代に求められるスキル」を追加しました。p.5
・社会構造の変革に関する記述を追加しました。p.6-8
・「顧客価値と共創優位」を追加しました。p.9-10