「どうすればこれまでの事業を守れるだろうか?」
新しい事業に取り組もうとするとき、こう考えてしまうのは当然のことです。既存事業を前提に考えれば、新たな発想はなかなか生まれてきません。また、自分達が今持っている人材やスキル、資金余力、顧客チャネルなど、限られた範囲で、今「できること」を考えようとします。しかし、このような「シーズ(種)起点」の発想は、多くの場合、うまくゆきません。
ビジネスが成功する要件は、「ニーズに応えること」です。今「できること」と、「ニーズ」が一致してれば、「新規事業」などと悩む必要はないわけですが、ここに乖離があるからこそ、新たな事業を模索しているのではないでしょうか。ならば、今「できること」を起点に事業を模索することは、現実的とは言えません。
必要とされていることは何か、それを求めている市場はどこにあるか。そんな「ニーズ起点」の発想を持つことが、新しい事業を成功に導く必須の条件と言えるでしょう。
では、そのニーズはどこにあるのでしょうか。何も最新のトレンドを追いかけ、リスクの高い市場にニーズに取り組むことだけではありません。次に紹介する3つのアプローチであれば、チャレンジできることもあるはずです。
市場を再定義する
「JINS PC」をご存知の方は多いと思います。発売から2年で、販売累計本数300万本を突破したパソコン用メガネです。このビジネスの成功は、市場を再定義したことにありました。
これまで、メガネの需要は、「目の悪い人」に限られていました。この常識を打ち破り、「目の健康な人」、すなわち「PCを使う全ての人」に、市場を定義し直したのです。必ずしも、最先端のテクノロジーが使われているわけではありません。しかし、既存のノウハウやテクノロジーをうまく使い、新たに定義しなおしたメガネ市場でのビジネスを考えたことが、この成功の理由です。
ソニーがかつて、「ラジオは家に居間に置いて使うもの」から、「屋外へ持ち出して使うもの」へと、ラジオ市場を定義し直したことが、トランジスター・ラジオの成功につながりソニー発展の礎を築いたのです。このようなケースは少なくありません。
自分達の「できること」は、多くの場合、「それが売れてきた市場」と一体になって意識されています。この「できること」と「それが売れてきたこれまでの市場」を切り離し、「できること」が必要とされている市場を新たに再定義することで、ニーズに応えるというアプローチです。
既存の業務に新たなニーズを見出す
「なぜ、みなさんが、このシステムの保守・運用を任されているんですか。なぜ、お客さまは、他社に変えずにみなさんに仕事をまかせているのでしょうか。」
そんな質問をさせて頂くと、
- お客さま以上にシステムや業務をよく知っているから。
- お客さまの担当者と一緒になって、現場でやっているから。
- 仕事を減らさないためにいろいろと工夫して、改善や効率化の工夫をしているから。
このような様々な答えが返ってきます。
お客さまのシステムの現場を知っている。現場の困ったに誠実に応えようとしている。ならば、次の3つのステップで、そんな現場にニーズを見つけ出すことができるはずです。
「困った」をメニュー化する
お客さまの「困った」、「こんなコトをしてくれたらほんとうに助かる。」を洗い出し、整理してみてはどうでしょう。解決できるかできないかは、後で考えます。これを整理するだけでも、お客様は大いに助かるはずです。
「困った」の解決策を洗い出す
メニュー化した「困った」の解決策を洗い出します。自分たちができるかできないかは、考える必要はありません。お客様が期待することは、「困った」を解決することであって、誰がそれをやるかではありません。お客様の立場になって、お客様がして欲しいこと、やるべきことを整理することで、ニーズの存在を具体化することができます。
自分達にできることを整理する
洗い出した解決策の中で、自分達ができることを明らかにします。これまで、お客様には見えていなかった「困った」が浮き彫りにされ、具体的な解決策と見通しが示されたわけです。つまり、そこにニーズが生まれたことになります。
お客様は、きっと真剣に話を聞いてくれるでしょう。
このような取り組みをいくつものお客様で実践すれば、多くのお客さまで共通した「困った」や「してほしい」が見えてくるものです。それを会社全体で改めて整理してみると、立派なサービス・メニューになります。これは、大手ベンダーにはなかなかできません。現場に入り、現場を知っているからこそ、できることです。現場力が生みだすニーズと言えるでしょう。
ニッチに徹する
「うちは、ホスティングで業績を伸ばしています。」
クラウドが全盛の時代を迎えつつある中で、時代に逆行するような話でもあります。しかし、そこには、しっかりとしたお客様のニーズがあるのです。
この会社は、ある地方を拠点にシステムの開発やデータセンター事業を展開されています。必ずしも先端の技術を得意としているわけではありません。しかし、その土地の産業にも詳しく、地域の産業界とのつながりやお客様一社ごとの事情にも詳しく、お客様とはツーカーの関係にあります。
営業も一通りの技術には精通しており、簡単な設定や導入、あるいは、システム開発についての相談に応えることができます。
こういうベンダーは、地方の中小企業にとって、かけがえのない存在です。
既存のシステムをクラウドに置き換えるにも、一時的な出費、あるいは、技術標準の違いから、簡単には載せ替えられません。そこで、インフラの運用管理を任せられる、あるいは、経費化できるホスティングが受け入れられているそうです。
もちろん、ホスティングに留まるのではなく、バックアップをAWSなどのパブリック・クラウドで提案し、ホスティングされたシステムとのハイブリッドな運用を提案されているそうです。また、アジャイル開発にも取り組み、他社にはないスピードと柔軟性で、開発需要を取り込む努力もされているそうです。
徹底した地元の便宜に応え、お客様を囲い込む、そして、新たなトレンドにも対応しようとされています。このような取り組みも、地方の中小企業のニーズを的確に捉えたアプローチといえるでしょう。
これまでに無い、新しいことをやることばかりが「新規事業」ではありません。このように、身の丈に合ったアプローチもあるはずです。ただ、この3つのアプローチに共通することは、全て「ニーズ起点」であるということです。「できること」から発想するのではなく、「すべきこと」を見つけ出し、そこを起点に発想していることです。
今の自分たちは「何ができるか」ではなく、自分達は「何をすべきか」の視点でニーズを明らかにしてこそ、新規事業は成功するという原則を忘れないようにしたいものです。
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