「うちのアメリカにいるエンジニア達は“自動化”だと行っています。うちの連中もそのための製品開発に時間を割いていますよ。」
米国に開発拠点を持つベンチャー企業の事業責任者がこんな話を聞かせてくれました。彼が言うには、米国におけるITのトレンドは、今大きく“自動化”に向かっているというのです。
開発・テスト、運用管理、調達・構築など、その範囲は広範に及び、実用のレベルもこれまでに無く高まっているようです。
この動きは、省力化によるコスト削減だけが狙いではありません。人手の排除による作業品質の均質化とミスの排除による安定運用、変更変化への即応など、これまでのやり方ではできなかったブレークスルーを生みだそうとしています。
徹底して人手を排除し、システムにやらせてしまうという流れは、今に始まったことではありませんが、これまでとは大きく違う要素が、“自律化”との融合です。この動きは、「スマートマシン」の動向とも重ね合わせて考える必要がありそうです。
米調査会社のガートナーは、2013年末に発表したレポートで、「スマートマシンとは、自律的に行動し、知能と自己学習機能を備え、状況に応じて自らが判断して適応し、これまで人間にしかできないと思われていた作業を実行する電子機械」であると定義しています。
運転手がいなくても自律的に運転してくれる自動車や輸送用の小型ヘリコプター、言葉での質問に答えてくれるバーチャル・アシスタント、医療診断や法律解釈を支援してくれるアドバイザー、工場での組み立て作業を人間に変わってしてくれるロボットなど、広範な分野での実用化が進んでいます。
決められたやり方を確実にこなしてくれる“自動化”に、自ら状況を把握し最適な方法を選択・判断して実行する“自律化”が、テクノロジーの潮流に加わり、この変化を加速しているのです。
いずれにしても、この潮流は、作業工数や人数を増やすことで収益を拡大させるビジネスのあり方を一変させることは確かでしょう。
例えば、ITの世界であれば、運用管理に関わる要員は大幅に少なくなるでしょう。システム開発の方法は大きく変わり、仕様書通りシステムを開発して工数×時間単価を請求するやり方は通用しなくなります。
IT以外で考えれば、タクシーやトラックの運転手、工場で働く労働者は職を失う可能性があります。具体的な取り組みとして、iPhoneやiPadの製造を手がける世界最大のEMS(Electronics Manufacturing Service)であるFoxconnは、労働者代替型ロボット「Foxbots」の開発を進めており、100 万台の導入を計画しているそうです。また、メルセデスが自動運転の大型トラックを試験走行させています。
また、テストの記述式答案を解析して評価することや、大量の文書を分析して訴訟の際の証拠となるものを見つけ出すことを機械にやらせているなどの事例は、これまでその仕事をやってきた多くの採点者や弁護士アシスタントを代替することになります。
この流れに抗ったところで、これを押しとどめることなどできるはずもありません。ならばどう付き合ってゆくかを考える方が賢明です。
もうひとつ抗えない潮流があります。「生産年齢人口」の減少です。
「2010年には8000万人以上の生産年齢人口は、2030年に6700万人ほどになり、「生産年齢人口率」は63.8%(2010年)から58.1%(2030年)に下がる。つまり、人口の減少以上に、生産年齢人口が大幅に減るのである。(国内人口推移が、2030年の「働く」にどのような影響を及ぼすか)」
直近の5年間(2015〜2020)をみても、7682万人から7341万人、341万人の生産年齢人口が減少するようです。この数字は、同時期の総人口の減少が、250万人の減少であることを考えると、それを上回る勢いで、生産年齢人口の減少がすすむことになります(参照:内閣府・平成25年版 高齢社会白書)。
「2015年問題」が、取りざたされていますが、人手不足の問題を、人手を増やすことで解決しようとしても、もはや構造的にできなくなろうとしているのです。また、人手不足の結果、開発現場の疲弊が問題にされていますが、このような3K(一説には7K)化かがすすむIT業界にとって、人手不足はさらに深刻な状況になることが予想されます。
このような構造上の問題は、「人数×単金×期間」の収益構造で成長を維持することを不可能にすることは言うまでもありません。
ではどうするかの方法論は、簡単ではありません。しかし、ITの必要性や価値は、これからも益々高まります。しかし、それは、ITの“手段”の必要性や価値ではなく、ITによって“実現されるサービスやビジネス”の必要性や価値であると言うことです。
考えるべきは「ITをお客様に使わせるビジネス」から、「ITを自ら使って、お客様に価値を提供するビジネス」を如何にして実現できるかを考えることではないでしょうか。
サーバーやPCを売る、ネットワークやインフラを構築する、ご要望にお応えしてシステムを受託開発するといったビジネスも、ここで完結させるのではなく、これに続く、「お客様がこれを使って何をするのか」に視点を移し、ビジネスを考えることが、大切になってくるのだろうと思っています。
これは、これまでの積み上げて来たスキルやノウハウ、顧客資産を放棄して、全く新しいことをはじめなければいけないといった無謀な話ではありません。ビジネスの重心を移動させるだけの話です。これを実行に移すとき、自動化”と“自律化”は、脅威ではなく、競争力を生みだす武器になるはずです。
時代の潮流を味方にするか、敵に回すかは、そんなわずかの視点の移動だけかも知れません。
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