市場のニーズを長期固定的に捉えられないことは、今も昔も変わりません。しかし、その変化は、従来にも増して加速しています。ITビジネスもまたこの変化に即応できるかどうかが、競争優位を確保する上で、重要な要件となります。
この競争優位の担い手は、技術力や製品力ばかりではありません。従来にも増して重要になってくるのが、お客様に最も近い場所にいる「営業」です。
変化への即応が、競争優位の要件であるとすれば、その変化をいち早く掴み、ビジネスのシナリオに仕立て上げるスピードが不可欠です。その役割を担うのが、「営業」ということになります。このような役割を担う営業にとって、特に求められる能力は、次の3つです。
- お客様の課題を先読みできる課題発掘能力
- 社内を説得できるシナリオ・ライティング能力
- 完成責任を全うするプロデュース能力
これら、ひとつひとつについて、整理してみようと思います。
*営業力の全体像は、こちらに詳しく整理しています。よろしければ、ご覧下さい。
お客様の課題を先読みできる課題発掘能力
変化の激しい時代にあって、課題を明確に定義できているお客様は多くはありません。変化に対応しなければならないことは分かっています。あるいは、経営や業務の現場から、新しい組織やビジネスへの対応が求められています。しかし、どうすれば良いかの明確な解決策を見いだせないお客様も少なくはありません。特に、経営の第一線から一歩下がった立場に置かれている情報システム部門は、要求には応えられても、要求を先取りすることは、必ずしも得意ではありません。だからこそ、ここに営業が役割を発揮できるチャンスがあるのです。
IT営業が、お客様以上に、お客様の経営や業務に詳しくなることは、難しいでしょう。しかし、ITを活用した様々な事例や、それを実現したテクノロジーについては、お客様以上に詳しくなれます。いや、詳しくなくてはなりません。これは、IT営業としての「基礎力」といっても言い過ぎではありません。
自社の製品やサービスの知識は、一部であって全てではありません。競合他社も含め、様々な動きを知っていることは、営業活動の最初の入口を確実に通り抜ける通行手形です。そして、この「基礎力」は、もうひとつ重要な役割を果たします。
お客様が求めているのは、過去や今をどうするかではありません。未来をどうするかです。ITシステムを導入すれば、それは3年後、5年後にも使われ続けます。営業は、そんなお客様の3年後、5年後にも責任を負っているのです。もちろん未来にどんな製品が出てくるかを知ることはできませんが、未来がどのような方向に向かっているかを知ることはできます。IoT、ビッグデータ、人工知能、ロボット、ソーシャルなど、ITはこれまでの延長線上にはないこと、そして、そこに取り組むことが、お客様の経営や業務に、大きな可能性を与えることをお客様に知らせることは、営業の大切な役割です。
*よろしければ、「コレ一枚でわかる最新ITトレンド」をご覧下さい。
これから起ころうとしていることを予測し、そこを起点にして、今何をすべきかをお客様と一緒に考えてゆくことが、お客様の幸せです。未来からの逆引きで今を考えると、今何が足りないか、次に何をすべきかが見えてきます。課題を先取りするとは、このような作業です。
社内を説得できるシナリオ・ライティング能力
現状の資産や組織、体制を一旦棚上げにして、将来のあるべき姿を描くことです。前項でも述べたとおり、「3年先、5年先に責任を負うという自覚」と「それをIT知識」を駆使して、3年先、5年先のお客様のシステムのあるべき姿をお客様と一緒になって描いてみてはどうでしょうか。
お客様にとっても、是非とも知りたいところです。「一緒になって考える」わけで、最初から正解を用意しておく必要はありません。ある程度の知識は必要ですが、完全である必要はありません。お客様との議論を通じて、必要な知識を上積みすれば良いのです。だから、難しく構える必要はありません。
こちらから提供するものがあれば、お客様もまた、自分のメリットになる話ですから多くの情報を提供してくれるようになるでしょう。
こうやって描いたあるべき姿は、きっとお客様の現実とは大きなギャップがあるはずです。そのギャップこそ、解決すべき課題なのです。
「現実とあるべき姿とのギャップ」=「課題」をどういう手順で解決してゆくか、そのマイルストーンを決めて、そのマイルストーン毎にKPI(Key Performance Indicator)を設定する。これが、お客様が取り組むべきシナリオになるのです。
お客様と一緒に「あるべき姿」を考えると、お客様の「現状」も自ずと分かるようになります。そして、お客様の「課題」が整理されます。これをまとめたものを世間では「アカウント・プラン」といいます。そして、「アカウント・プラン」という全体を実現するためには、これをいくつかのプロジェクトに分け、実現のシナリオを描く必要があります。これを「提案書」といいます。
「アカウント・プラン」も「提案書」も、受身な情報収集だけでは、表面的で中身がなく、実効性のないものになってしまいます。積極的に仕掛けてこそ、「アカウント・プラン」も「提案書」も、営業の武器になるのです。
お客様に知識を提供し、あるべき姿と実践のシナリオを一緒になって考えることができれば、売り込みなど必要ありません。お客様は、まずはそんな営業に相談するはずです。わたしは、このようなことができることこそ、本物の「営業力」だと思っています。
完成責任を全うするプロデュース能力
以上までの話なら、コンサルタントと何が違うのかということになるでしょう。確かに、コンサルタントも同様の役割を担っています。しかし、最も違うのは、上記まででお金をもらう仕事がコンサルタント、これを実現してお金をもらうのが営業と言えるかもしれません。
営業は、これを実現するためのシステム構築やサービスの提供を通じて、お金を頂くことになります。ですから、計画に責任を負うのではなく、成功に責任を負うのです。
そうなると、まずは受注です。お客様の予算や意志決定プロセスにうまく対応してゆかなければなりません。この点については、「営業活動プロセス」として、以前まとめた記事がありますので、こちらを参考にしてください。
さて、受注の後は、プロジェクトの運営です。こちらについては、PM(Project Manager)がその責任を担います。しかし、これまで、いくつかのプロジェクトの失敗を見てきましたが、PMへの丸投げが少なくありません。営業が、プロジェクトの進捗に関与せず、火が噴いてから大慌てで火消しにだけ回るといったことがいくつもありました。
これは必ずしも営業の責任とは言えないところもあります。というのは、デリバリー部隊が、「これ以降は、営業は余計な口出しをするな」といった文化を持つ企業もあるからです。おそらくは、「営業に余計なことを言われて、引っかけ回されたくない」ということのようです。いうなれば、「やりたいようにやらせてくれ」であり、このような企業に共通することは、手戻りの多さと利益率の低さです。
営業はプロジェクトが成功して、はじめてお金を頂けます。同時に、お客様の成功への感謝は、次のビジネスの条件でもあります。
ここでの営業の役割は、PMを支援して、プロジェクトを成功させることです。
- PMが、プロジェクトに関わるお客様や社内の関係者と情報共有や意思疎通を円滑にできるよう支援する。
- PMの状況を客観的に評価し、必要な援助を与える。
- PMと協力し、プロジェクト全般の状況やリスクを把握し、先回りして対処することで、リスクの拡大やトラブルの発生を未然に防ぐ。
プロジェクトを成功させることは、営業の責任であることを自覚することです。これをPMの仕事だと任せきってしまっていては、結果として、業績の上がらない営業になるだけです。
ここにあげた3つの能力を身につけることは、容易なことではありません。だからこそ、営業としての「あるべき姿」と今の自分あるいは、自社の営業組織を冷静に評価し、そのギャップを埋めるマイルストーンとKPIを営業人材の育成のシナリオに織り込まなくてはいけないのです。
そして、行き着くところは、「不都合になる寸前のぎりぎりのところまで、営業に権限を委譲すること」てす。これこそが、変化に即応でき、高いパフォーマンスを生みだすことができる営業のあるべき姿です。
SFAもまたその目的に使われてこそ、真価を発揮します。数字集計システム、報告書清書システムとしてしか使われていないSFAでは、営業の自律性を阻害するSFA(Sales Frustration Augment : 営業欲求不満増幅)システムに過ぎません。
営業活動をリアルタイムで見える化し、マネージャーやスタッフが、タイムリーに対応できる環境を作ることが、SFAの本来の役割です。これについては、こちらで詳しく解説していますので、よろしければご覧下さい。
このような取り組みは、営業の自助努力だけでできるものではありません。組織として、「営業を最強の武器にする」という明確な目標がなければできないことです。しかし、それは、避けられない必然です。
ITのコモディ化は、ますます製品やサービスでの差別化を難しくします。加えて、ビジネスの不確実性が高まり、お客様のニーズの変化に即応することが、競争力の源泉であるとすれば、営業の役割を改めて捉え直し進化させるべきでしょう。「営業を商品の重要な構成要素と考える」ことが、必要になろうとしているのです。
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