「古い社風を変えようとしない上層部を、どう説得すればいいのか?」

「これまでのやり方に固執する人たちを、どうすれば変えられるのか?」

講義や講演の折、受講者から、このような相談を請けることがあります。

しかし、もしあなたが同じような悩みを抱えているなら、あえて厳しいことを言わなければなりません。

「会社が変わらないのは経営者が悪い、上司が悪い、まわりの社員が悪い」。そんなふうに、環境や他人に原因を求めてはいないでしょうか。しかし、忘れてはならないのは、あなた自身もその「会社」を構成する社員の一人であり、変革の「当事者」だということです。

自分が当事者であることを棚に上げ、安全な場所から批判だけをして、

「人の考えや行動を変えよう、会社を変えようなんて、おこがましいことです。」

冷たく聞こえるかもしれませんが、自らが当事者であると自覚することこそが、問題解決の最も重要な出発点です。

他人を変えることはできない

少し想像してみてください。あなたは誰かから「このように考えを変えなさい」「こういう行動をしなさい」と指示されて、素直に心から従うことができるでしょうか? おそらく、反発を覚えるか、表面上だけ合わせてすぐに元のやり方に戻ってしまうはずです。

人は誰しも、自ら「変わりたい」「変わらなければ」と気づかない限り、決して行動を起こしません。自分にできないことを他人に期待し、思い通りにならないと不満を並べてイライラするのは、大切な人生の時間の無駄遣いです。

もし本気で「まわりの人たちを変えたい」「自分の会社を変えたい」と願うなら、やるべきことはただ一つ。「他人を変えようとするのではなく、当事者である自分がまず行動すること」です。

自分が正しいと信じることを自ら実践し、その背中(模範)をまわりに見せる。それに気づき、共感して行動を起こす人が現れれば、その変化は少しずつ伝染していきます。結果として、人が変わり、会社が変わっていくのです。

それでも会社が変わらない時はどうするか?

あなたが模範を示し続けても、まわりが全く変わらないこともあるでしょう。その時は、二つの可能性を考える必要があります。

一つは、「実は自分が間違っている(独りよがりになっている)可能性」です。謙虚に他人の声に耳を傾け、自分の考えを客観的に見つめ直す必要があります。

もう一つは、「自分の信念と会社の風土が決定的に合っていない可能性」です。自分の考えをぶつけ、それでも自分が正しいと信じて疑わず、組織も変わろうとしないのであれば、潔くその会社を辞め、転職という選択肢をとるのも一つの手です。合わない場所に留まり続けることは、あなたの人生にとって不幸でしかありません。

しかし、注意が必要です。自分自身を変えようとする努力もせず、ただ「いまの環境が悪いから」と不満を抱えたまま転職しても、決して問題は解決しません。なぜなら、転職した先でも必ず何らかの壁にぶつかり、「やっぱりこの会社もダメだ」と同じ不満を持ち、また同じように転職を繰り返すことになるからです。

人生100年時代、自分のキャリアを会社に預け、他人が変わることを期待して生きるのはあまりにもリスクが高く、虫のいい話です。目指すべきは「今の会社で通用する自分」ではなく、「どこへ行っても通用する自分」になることです。

どこでも通用する自分になる「3つの実践」

自分の力で組織を動かせるような影響力を持ち、どこでも通用する人材になるためには、次の3つの実践をおすすめします。

1. 自分のための時間を作る

行動の第一歩は、時間を確保することです。始業前の1時間など、誰にも邪魔されない「自分のための時間」を持ちましょう。

専門スキルを磨く、語学を学ぶ、教養を深めるなど、自分が本当にやりたいこと、面白いと感じることに没頭してください。「すぐに役立つから」「待遇が良くなるから」といった目先の利益ではなく、純粋な興味関心でテーマを選ぶことが、変化の激しい時代を生き抜く力になります。

2. 人のつながりを拡げる

自宅と会社の往復だけで、話すのは社内の人間と顧客だけ。そんな閉じた世界から抜け出しましょう。

世の中には多様な価値観を持つ人があふれています。ITの勉強会やコミュニティ活動などに積極的に顔を出し、運営にも関わってみてください。ハブになるような「顔の広い人」と繋がることで、あなたのネットワークは一気に拡がり、人生の大きな財産となります。

3. アウトプットを増やす

ビジネスにおいて「知っている」は「説明できる」と同義です。学んだ知識は、文章にする、図解する、人に話すといったアウトプットをして初めて自分の血肉となります。

また、1のアウトプットを出すためには10のインプットが必要です。つまり、アウトプットの場を増やすことこそが、インプットの質と量を飛躍的に高める最善の方法なのです。

これら3つを実践するためには、会社や他人に頼るのではなく、自腹を切り、自ら工夫する態度が不可欠です。

働き方を「活動」や「仕事」に変えていく

ドイツの哲学者ハンナ・アーレントは、著書『人間の条件』の中で人間の営みを3つに分類しました。これを現代の働き方に照らし合わせて解釈すると、次のように捉えることができます。

  • 労働(labor):生命を維持するための活動。生きるための糧を得る目的で行う、消費的で義務的な作業。(できればやりたくないベルトコンベア式の処理作業)
  • 仕事(work):永続する人工物や価値を世界に創り出す活動。自分の技術や意思を注ぎ込み、誇りを持って社会に価値あるものを生み出すこと。
  • 活動(action):他者と直接関わり、言葉と行為によって新しい何かを始めること。自発的に他者へ働きかけ、純粋な動機で世界(組織や社会)に変化を起こす行動。

朝の1時間は新しい挑戦や他者との関わりである「活動」に充て、就業時間は単なる作業ではなく価値を生む「仕事」として誇りを持ち、生きるためだけの「労働」はできるだけ減らす。そんな生き方をどう実現するかは、自分自身で見つけるしかありません。

「そんなのは理想論だ」と言う人もいるでしょう。しかし、理想だからこそ目指す価値があるのです。その目標に向かって行動を続けることが、結果的に会社を変え、あなた自身をどこでも通用する人材へと引き上げます。

あなたは行動を起こしたか?

会社がダメだから、経営者がダメだから、自分が成長できない。

そうやって環境や他人のせいにして文句ばかり言い、自分では何一つ行動を起こそうとしない。そんな当事者意識の欠けた生き方から抜け出さない限り、たとえ何度転職を繰り返したとしても、あなたはどこへ行っても同じ不満を抱えることになります。

「この会社は自分に向いていない」と嘆き、安易に次の環境へ逃げ出す前に、自分自身の胸に手を当てて、ひとつだけ問いかけてみてください。

「自分は当事者として、現状を変えるための行動を起こしただろうか?」

他人任せの人生を手放し、まずは自分から動く。会社を変える唯一の方法も、本当の意味でより良い環境を手に入れる方法も、すべてはそこから始まるのです。

繰り返しになりますが、私たちが目指すべきは「今の会社で通用する自分」ではなく、「どこへ行っても通用する自分」になることです。他人が変わるのを待つのではなく、自ら行動を起こし、自己成長を続けること。それこそが、先の見えない人生100年時代を生き抜くための最大のリスクヘッジであり、あなた自身のキャリアと人生を真に豊かなものにする唯一の道なのです。

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