「新規事業をはじめなければならないことは、よく分かっています。でも、どのようにきっかけを見つければいいのでしょうか?」
SI事業者を対象とした講演の席で、こんな質問を頂きました。
正直なところ、このような質問をいただくとは思ってもいませんでした。なぜなら、「きっかけ」は試行錯誤をして自ら見つけるもので、どんな会社にも当てはまるような「こうすればいいですよ」などないからです。
しかし、そういう試行錯誤の「きっかけ」さえも思い浮かばないとすれば、それは単に本人の意識が低いとか能力が無いとかいったことではなく、もっと本質的な問題がありそうです。
稼働率を限界まで高めなければ利益を確保できないSI事業者にとって、「新規事業開発」などという稼働率を下げる行為をする余裕はありません。「営業力」で仕事を作ってきたわけですから、新しい事業やお客様を創造するマーケティングの経験もありません。テクノロジーやスキルもお客様の要望に対応する形で取り入れてくればよく、トレンドの先を見越してノウハウを蓄積する必要もありませんでした。そんな状況を考えれば、試行錯誤の「きっかけ」さえも見つけられないのは仕方のないことなのかもしれません。
しかし、今年から来年にかけて大型プロジェクトが終了して行ければ、稼働率の低下は避けられません。いまでさえ「工数需要はあっても単金が上がらない」現実に直面しているわけですから、利益の確保はますます難しくなります。この現実に対処するためには、キャッシュフローが回っているうちに次のビジネスへの道筋を確かなものにしておかなければ、生き残ることは難しくなるでしょう。
また、パブリック・クラウドへの移行やオープン・テクノロジーの活用が急速に進む中、機器の販売や保守、ソフトウエア・ライセンスなどの収益も先細りすることも考えておかなければなりません。
新規事業開発の必要性は理解できても、その「きっかけ」が見つけられないとすれば、これはかなり深刻な状況にあると考えるべきです。では、どうすればいいのでしょうか。
若手のエンジニアを信じ彼らにきっかけを見つけさせる
ここでいう「エンジニア」というのは、コードを書くことが大好きで家でもコードを書き、コミュニティや勉強会に積極的に関わり、好奇心が旺盛で新しいことに飛びついてゆく人たちのことです。
そういう人たちは、世の中の動きに敏感です。ビジネスのセンスがあるかどうかは分かりませんが、「きっかけ」を見つけることはできるかもしれません。そういうエンジニアたちの声に真剣に耳を傾け、ビジネスの種を探してみてはいかがでしょう。
専任の新規事業担任者を選任する
稼働率が全てに優先する企業にとって新規事業の専任者を置くことは容易なことではありません。それでも新規事業をと考えている企業は、本業の放課後に「新規事業開発プロジェクト」なるボランティア活動を行っています。しかし、このようなやり方では業績評価に直結する本業を優先させたくなるのは当然のことです。いずれボランティア活動に真剣に取り組めなくなり、何の成果も生み出せないままに、いつのまにか消滅しているといったことにもなりかねません。
だから最初から大勢を専任にすることは難しいでしょう。しかし、新しいことへの好奇心や現状への問題意識を持ち、高いコミュニケーション能力と責任感の強い人材をまずは専任で新規事業に取り組ませるべきです。また、彼の取り組みを支援するために、既存の事業部門が持つ予算の一部を彼らに割り当て、その計画と成果を評価する関係を作ってはいかがでしょう。そうやって新規事業がうまく動き出せば、専任者や予算を拡大してゆくのです。
しかし、拙速に大きな成果をもとめるべきではありません。試行錯誤こそが彼らの役割です。言うなれば「研究費」です。ただ、その意義や見通しを説明する責任は彼らにあります。
なお、経営者や事業部門長は、それを評価する責任を持ちます。そのときの基準は、「規模は小さくても高い利益を稼げる事業」です。拙速に既存事業を置き換えられる規模を確保できるはずはなく、既存事業と同じ基準で評価すべきではありません。
経営者が危機感を持つ
「工数需要はあっても利益が出ない」現実が意味するところは、自分たちが提供して「商品」に、差別化できる魅力がないことを示しています。大型プロジェクトの消滅は、いま確保できている工数需要さえも危うくさせることになります。この現実に真摯に向き合う必要があります。
「これまでも厳しい時代はあったが、何とか乗り越えてきた。これからも何とかなる。」
そんな自信を示される経営者もいます。もし、そうなればそれで良かったと胸をなで下ろせば良いだけです。しかし、そうならなければ生き残ることはできません。だからこそリスク・サイドに立って現実を直視し、新規事業開発に取り組むべきなのです。
経営者はテクノロジーやビジネスのトレンドにしっかりと向き合い、勉強すべきです。そして、いま自分たちが置かれている現実にしっかりとした裏付けを与え、危機の本質を納得できなくてはなりません。しかし、これだけで危機感を持ったとはいえません。経営者であれば、それを行動で示すことです。叱咤激励や訓示を垂れることではありません。
例えば、先に示した「エンジニアに耳を傾ける」や「専任者を置く」といった具体的な行動を起こし、社内に危機感をカタチで示すことです。気持ちや言葉は後からついてきます。まずはカタチです。それが「きっかけ」を生みだす、もっとも効果的な方法といえるでしょう。
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- 従来の機械学習とディープラーニングの違いを図表に組み込みました。p.149-150
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