先週にとは異なる切り口からポストSIビジネスのシナリオを考えて見ました。
ポストSIビジネス:4つの戦略
ポストSIビジネスを「システムの規模」と「システムの独自性」の2つの軸で、4つの戦略に分けて整理してみることにしましょう。
コモディティ戦略
多くのSI事業者が、いまコモディティの領域にいます。今後ともこの領域でビジネスを継続して行くとすれば、徹底した標準化と価格競争により、規模ビジネスを追求しなければなりません。例えば、AWSやGoogle、Microsoftが繰り広げているIaaSの価格競争やオフショアの拡大などがこれに当たります。
この戦略には、相応の先行投資が必要となります。上記のIaaS事業者大手は何処も数千億円規模の投資を行い規模の経済を追求し、価格競争を仕掛けています。また、標準化を進めることでコストの一層の低減とスピードを差別化の武器としています。
オフショアも、ブリッジSEを介さなければならないやり方では、コストも嵩みスピードも担保できません。標準化の徹底やアジャイル開発の活用などで、これら障害を取り払うことで、コモディティ戦略における競争力を担保することができます。なお、この戦略は、システムの構築や開発、運用に閉じる必要はなく、人的な業務を代行するBPOと組み合わせることで、ビジネス規模の拡大を図ることも可能です。
専門特化戦略
大手SI事業者は、膨大な人材を抱えています。そのため、システム規模が縮小する戦略は、既存の組織規模を維持できず、収益効率も悪くなるので受け入れにくく、営業利益率が低いことから極限まで稼働率をあげなければ、人材を維持できないという課題も抱えています。
その一方で、コモディティ領域で勝負できる体力もありません。いや、体力がないと言うより、何事も「ミニマム・スタート」でしかはじめられず、標準化を苦手とする経営体質が、コモディティ戦略の足かせとなっています。
事業規模を維持し、営業利益率を拡大としたいと考えれば、特定の業務領域に特化することで、その領域で絶対的競争優位を確立する戦略をとることが現実的です。
例えば、SAPは、エンタープライズERPでは、絶対的なシェアを確保し、その市場での地位を確実なものにしようとしています。また、IBMは、ハイブリッドクラウドのポジショニングを明確にし、そこでの競争優位を確保しようとしています。Equinixは、クラウド相互接続事業で絶対的な優位を確保しています。他にも金融デリバティブ、プライベート・クラウド基盤の設備提供と構築・運用など、何でもできます、何でもやりますではなく、ある専門領域に特化して、顧客を増やし、結果として規模の拡大を図る戦略をとっています。また、BPOと組合せ規模の拡大を狙うことも可能です。
ただ、そのためには、「専門」を明確にポジショニングし、そこに資源を集中させ、洗練させていかなくてはなりません。
ニッチ戦略
規模は稼げないが、特定のテクノロジーや業務領域に於いては、他社の追従を赦さない存在感を示す戦略です。
同じ「独自性の高さ」を追求する「専門特化型戦略」は、安定と安心を遡及し、規模の拡大を狙うことに重点がおかれます。一方、「ニッチ戦略」は、革新性や特殊性を遡及し、オンリーワンをめざす戦略となります。ニッチも普及が進めば、規模の拡大につながる可能性はりますが、そこを狙わないのが、この戦略の肝といえるでしょう。
狙うべき領域は、現時点で市場規模は小さいが、成長率が「加速」している領域です。例えば、IoTやビックデータ、人工知能やコンテキスト・テクノロジーといった先端テクノロジーです。また、介護や医療など、これからIT化を積極的に進めようとしている領域、あるいは、公共や自治体など、規模こそ小さいが、何処でも抱えている課題で、これまでITの恩恵に浴することのなかった領域なども考えられます。これら領域は、コストの高さと扱いの難しさ故にITの活用がすすまなかった領域です。しかし、クラウドやOSS、スマートフォンの普及は、このような前提を変えはじめています。改めて見直してみることで、ひとつひとつのシステム規模は小さいながらも、ビジネス・チャンスを見つけ出すことができるかもしれません。
パッケージ戦略
徹底した標準化により、低価格で手離れの良い商材を提供する戦略です。なお、ここでいうパッケージとは、パッケージ化された商材を意味するもので、対象は、ソフトウェア、サービス、ハードウェアの全てであり、その組合せも含まれます。SaaSなどもパッケージ商材と考えても良いでしょう。
対象は、SMBばかりではなく、大企業であっても、特定の業務やシステム領域で、この戦略はうまくいくと考えられます。
売り方については、時間をかけた個別商談や人海戦術では効率が悪いので、Webやデジタル・マーケティング、インサイドセールスなど、仕組みによるセールスとマーケティングに取り組む必要があるでしょう。また、仮に個別商談や人海戦術にしても、短時間で商談を成立させられるセールス・ツールの充実など、売り方や売るための仕組みと共にパッケージ商材を開発する取り組みが不可欠となります。なお、標準化された業務を代行するBPOと組み合わせることで規模の拡大を図ることができます。SanSanの名刺代行入力などは、そんな取り組みのひとつといえるでしょう。
先週紹介したサービスをここにマッピングするとこのようになります。言うまでもありませんが、コモディティ戦略はなかなかハードルが高く、ここに投資することは、よほどの覚悟が必要です。この領域を脱し、他の領域へビジネス領域を広げてゆくことがSIにとっては、生き残る術となるでしょう。
システムを使わせるビジネスからシステムを使うビジネスへ
12のビジネス・ケースを「システムを使わせるビジネス」と「システムを使うビジネス」に分けて整理してみると、その多くが、「システムを使わせるビジネス」に位置付けられます。
「システムを使わせるビジネス」とは、ユーザーがシステムを使うために、開発、運用、あるいは、開発のためのコンサルティングやツールの提供を行うなどのビジネスです。これまでの受託開発や派遣業務の延長として、ポストSIビジネスを考えれば、当然のことかもしれません。
一方、「システムを使うビジネス」は、事業者が自らシステムを使い、最終受益者であるエンドユーザーにサービスを提供するビジネスです。
例えば、配車サービスのUber、タクシー配車サービスのLine TAXI、宿泊施設貸し出しサービスのAirbnb、会計クラウド・サービスのfree、POSレジサービスのAirレジなどがあります。また、Googleの配下にあるNestのように、インテリジェント・サーモスタットといわれるハードウェアを販売するとともに、そこから取得できるユーザーの行動情報を、さらなるビジネスにつなげようとしている企業もあります。また、我が国のACCESSは、小売店舗内の顧客行動を取得、分析するサービスを提供する企業にBeacon(近接エリアの位置情報を取得する技術)デバイスを提供し、そのサービスの売上をシェアするビジネスを展開しています。これなど、このタイプのビジネスに位置付けても良いでしょう。また、先に紹介した、新日鉄住金ソリューションズの文書管理サービス「NSexpressⅡ」は、文書管理のSaaS提供に加え、契約書や図面などの紙の原本をスキャンし登録する作業や登録した原本の倉庫保管業務を一括して提供しています。このようなエンドユーザーの便宜に直接応えるシステムとBPO(Business Process Outsourcing:自社の業務プロセスの一部を継続的に外部の専門的な企業に委託すること)を一括して提供するサービスも、これに該当します。
これまで、SI事業者は、自らが「システムを作り、それを使わせる」システム・ソリューションを提供してきました。しかし、後者は、「システムを自ら使うことで、最終の受益者にサービスを提供する」というビジネス・ソリューションとしての特徴を備えています。テクノロジーのノウハウと業務についてのノウハウ、さらには、自分達の仕事を「情報システムの構築や運用」に限定しない発想があれば、このようなサービスを提供することも可能になるはずです。
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2015年4月版】
ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションの最新版をリリースしました。
*テクノロジー編(265ページ)
・「歴史から振り返るITのトレンド」のチャートと解説を追加しました。
・IoTとビッグデータについて、内容を見做し、ストーリーの変更とチャートの追加・変更を行いました。
– IoTとビジネスとの関係について、新しいチャートを追加しました。
– コレ1枚で分かるIoTとビッグデータを新しいチャートに差し替えました。
– 「産業構造審議会商務流通情報分科会 情報経済小委員会 中間取りまとめ ~CPSによるデータ駆動型社会の到来を見据えた変革~」の発表内容を追加しました。
– インダストリー4.0のセクションを追加し、「コレ1枚で分かるインダストリー4.0」のチャートと解説を追加しました。
・スマートマシンについて、内容を見做し、ストーリーの変更とチャートの追加・変更を行いました。
– 「人工知能とは」の資料を新しく書き換えました。
– 「人工知能研究の歴史」を新規に作りました。
– 統計的アプローチとディープラーニングの比較について、新しくチャートを追加しました。
– ディプラーニングの事例を追加しました。
– 事例動画へのリンクを追加しました。
*ビジネス戦略編(55ページ)
・「工数喪失:人月積算の歴史」について、新しいチャートを追加しました。
・「ポストSIビジネスの選択」と「ポストSIの戦略」についての書き直すと共に、解説文をノートに追加しました。
・「新たなビジネス領域へのチャレンジ」について、新しいチャートと解説を追加しました。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン