「「若者の地元離れ」をITの力で少しでも変えられ、1人でも2人でも地元に残れる環境づくりをしたいと考えております。」
「イトナブ石巻」のホームページにこのような言葉が掲げられています。イトナブ石巻は、東日本大震災をきっかけに地元石巻出身の古山隆幸氏が立ち上げた企業で、「震災10年後の2021年までに石巻に1000人のIT技術者を育成する」目標を掲げています。
そんなイトナブ石巻の今年の活動報告会に先週の土曜日(2014年12月20日)、参加させて頂きました。
「永続的に石巻市にIT産業を根付かせ「受託」ではなく、「オリジナル」のサービスが生み出せる能力を育てられる開発者集団が生まれ、そして集まる場所にしたいと考えております。」
この言葉通り、地元だけではなく、他県からも若者達が集まり、スマートフォン・アプリの開発やホームページや映像制作などを手がけています。さらに、地元の小中学生や高校生を巻き込んで、プログラミングの勉強会やハッカソン(ハッカー+マラソン:一日間のうちにテーマを決めてその場でプログラムを作るイベント)を行い、若者達にプログラミングの楽しさに接する機会を作っています。
そんな彼らの報告会では、イトナブのメンバーだけではなく、地元の中学生や高校生達が、自分達の取り組んだ成果を発表していました。その多くが、それまでプログラミング経験がなかったのですが、見事にスマホのゲーム・アプリやラジコンカーの制御プログラムなどを披露していました。
また、なによりも驚いたのは、この会社の層の厚さです。プログラマーだけではなく、デザイナーやイラストレター、音楽制作者、映像クリエーター、コピーライターなとの役割を担う人たちが仕事をしているのです。東京でも、なかなかこんなチームはありません。しかも、多くが今の仕事とは無関係なところからやって来た人たちです。その成長のスピードの速さは、信じられないくらいです。
そういう彼らを都会のトップ・エンジニア達が支えているのです。
「楽しいから、もっと勉強したい」
彼らの成長のスピードは、そんな気持ちに支えられているようでした。あらためて、人材育成は、心の有り様を育てることが大切なのだと気付かされました。
「優秀な人材」とは、「学習することを楽しいと感じることができる人材」と定義することがだきます。
スタンフォード大学の心理学者であるキャロル・S・ドゥエックは、人間には、「固定的知能観」か「拡張的知能観」かの、いずれかの心の有り様があり、それによって、その人の能力は決まってしまうというと主張しています。
固定的知能感(fixed-mindset)の持ち主とは、自分の能力は固定的で、もう変わらないと信じている人です。彼等は、自分の能力はこの程度だから、努力しても無駄だとみなします。また、自分が他人からどう評価されるかが気になり、新しいことを学ぶことから逃げてしまう心の有り様の持ち主です。彼等が学ぶのは、それが自分にとって利益になる場合です。つまり、これを知らなければ仕事がこなせない、収入が減るなどの場合です。
一方、拡張的知能感 (Growth-mindset)の持ち主とは、自分の能力は拡張可能であると信じている人です。彼等は、人間の能力は努力次第で伸ばすことができると信じ、たとえ難しい課題であっても、学ぶことに挑戦する心の有り様の持ち主です。彼等は、好奇心旺盛に自らテーマを作り、学ぶこと自体を楽しむことができます。
このような、「自分の能力や知能についての心の有り様」=「知能観(Mindset)」が、学習についての意欲を左右し、能力の獲得や育成に大きな影響を与えるという考え方です。
この知能観は、生まれながらの性質だという考え方もありますが、イトナブの若者達を見ていると、そんなことはないと気付かされます。地元のために、子ども達のためにといった「誰かのために役に立ちたい」という志、「そのためには自分はもっと力をつけ成長しなければならない」という想いへとつながり、彼らの心の有り様、つまり知能観を拡張させているのだと感じました。
そういう彼らの心の有り様、そして、みるみる成長する彼らの姿に魅力を感じ、引き込まれてゆく都会の大人達。自分達にも何かできることはないかと、自分達の時間を提供するトップ・エンジニア達。そんな好循環が、ここにはあるようでした。
「啐琢同時」という禅のことばがあります。これは、雛が卵から生まれようとするとき、雛は殻の内側から卵の殻をつついて外に出ようとします。これを「啐」といいます。そのとき、親鳥もまた同時に外側から卵の殻を破るためにつつきはじめます。これを「琢」といいます。この親鳥と雛が、同時に殻をつつき合うことで、雛は生まれることができるという禅のたとえ話です。人材の育成とは、まさに「啐琢同時」でなくてはなりません。
「この技能が不足しているから、こういうことを学ばせよう。そのためにはどのような研修プログラムを組み立てればいいだろうか?」
人材育成を考えるとき、このような議論がよく行われます。それはそれとして、大切なことではあるのですが、不十分です。むしろ、「学習に対する心の有り様」をどのように育んでゆくのかを考えるべきでしょう。それがあって、はじめてツールである研修は、効果を発揮します。
彼らと接していて、ビジネスの基礎ができていないと感じることはあります。それは、彼らの課題でもあるでしょう。しかし、「こうでなくてはならない」、「こういう知識を持っていなくてはならない」という型に押し込むのではなく、育ちたいという彼ら自身のエネルギーを引き出すといった人材育成の原点を彼らから気付かされました。
*募集中* ITソリューション塾【第18期】
2015年2月4日(水)より開講するITソリューション塾【第18期】の募集を開始致しました。既に、定員80名に対して半分ほどのお申し込み、参加意向のご連絡を頂きました。ありがとうございました。
第18期では、テクノロジーやビジネスに関する最新のトレンドに加え、提案やビジネス戦略・新規事業開発などについても考えてゆこうと思っています。また、アジャイル開発でSIビジネスをリメイクした実践事例、クラウド時代のセキュリティとガバナンスについては、それぞれの現場の第一線で活躍される講師をお招きし、生々しくそのノウハウをご紹介頂く予定です。
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拙著「システムインテグレーション崩壊」が、「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書大賞」にノミネーションされました。お読み頂きました皆さんに感謝致します。
「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
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