「テクノロジーに任せられることは、徹底して任せ、人間にしかできないことは何かを追求し、テクノロジーと人間が協働して最大限の効果を引き出す。」
2020年もまもなく師走を迎える今、ITは、それを扱うことの難しさから解放され、「協働」という言葉がふさわしい時代になったことを実感しています。
2010年前後から爆発的に普及したクラウド・コンピューティングは、コンピューティング資源の調達のあり方を「所有」から「使用」へと変えました。これは、コンピューティング・コストの価格破壊をもたらし、IT利用の裾野は大きく広げました。また、モバイルやソーシャル、ビッグデータやアナリティクスなど、利用形態や技術にも様々なイノベーションが生まれ、ITは日常生活やビジネスの常識を大きく変えてゆきました。
また、かつてITは、専門の技術や大金を持った特権階級しか扱えなかったのですが、このようなイノベーションの積み重ねにより、ITは、だれでも使える公共財へと位置づけを変えてゆきました。言葉を変えれば、「ITの民主化」が実現したのです。ITの民主化は、さらに数多くの参入者を巻き込んで、そのエコシステムを拡大していったのです。
ITがもたらしたイノベーションの中でも特に大きかったのは、人工知能の普及でした。これまで、ITを利用するコストは下がっても使える人たちは、そのリテラシーを持つ人たちに限られていたのです。しかし、人工知能は、私たちが日常使う言葉で対話するように、あるいは、こちらの意図することを先回りして、ITの利用を助けてくれるようになったのです。人工知能は、ITの難しさを隠蔽し、ITのもたらす価値や便宜を「専門家」の手を煩わすことなく、誰もがすぐに使える状況を作り出したのです。ITは、ますます身近で密接なパートナーとして、私たちの日常やビジネスに深く組み込まれていったのです。
また、人工知能は、ロボットや自律走行車を身近なものにしました。肉体的負担を強いられる労働や危険を伴う仕事は、ロボットに置き換えられ、人々の仕事は、それを計画し、うまく使いこなす仕事へとシフトしてゆきました。また、少子高齢化が進む我が国では、若い働き手や運転手がいなくても、ロボットが作業や運転を代替してくれるようになり、安全で快適な暮らしが実現されつつあります。また、農業や水産業などの第一次産業もITの活用が急速に進み、過疎化が進む地方にも産業基盤の再生がすすみつつあります。
製造業では、ドイツに始まる「インダストリー4.0」が、スマート工場の実現を加速しました。工場内の様々な設備やロボット、そこに組み込まれたセンサーは、人工知能によって制御され、少ない労働力でも多品種少量生産を低コストでこなすことができるようになりました。言うなれば、工場がひとつの自律制御されたロボットとして機能するようになったのです。これによって、人件費の地域格差が解消され、消費地とのアクセスや原材料の市況を常に見据えて、その時々の適地適量、最適コストでの生産体制が実現されたのです。
また、あらゆる情報やビジネス・プロセスがデジタル化したことで、情報の伝達や再利用、あるいは、再加工がすぐにできるようになりました。そのため、経営や業務のスピードは加速し、市場の変化に即応できる体質を手に入れたのです。
また、働く場所の制約は少なくなり、人それぞれの多様なライフスタイルに併せてワークスタイルを選択できるようになり、働きやすさを犠牲にすることなく、仕事としてのパフォーマンスを追求することができるようになったのです。
一方で、単純作業ばかりでなく、知的労働の多くが、ITに置き換わってゆきました。その結果、人は、より創造的で未来志向な業務、つまりは、戦略や企画、ビジネス・モデル、デザインといった仕事を期待されるようになりました。また、人と人とのつながり、つまりは、ハイタッチな人間関係をこれまでにも増して大切にされるようになり、テクノロジーと人間の新しい協働関係が模索されるようになったのです。
2020年の未来は、このようになっているかも知れません。たぶん、この多くは実現されているでしょう。このような時代にSI事業者やITベンダーは、どのような役割を果たしているのでしょうか。間違えなく、これまでのやり方が通用することはありません。私たちは、次のような未来に対応しなければならないのです。
まず、ITインフラの大半は、パブリック・クラウドで構築されるようになります。業務アプリケーションの多くは、SaaS(アプリケーションを提供するクラウドサービス)を使うようになります。PCは、もはや過去のものとなり、クラウドに自分専用のプライベート・スペースを持つことは当たり前になります。スマートフォンやタブレット、ウェアラブルだけではなく、新しいデバイスも出現し、そのプライベート・スペースをいつでも、どこからでも使えるようになります。
システムの開発は、人工知能やPaaS(アプリケーションの開発実行環境を提供するクラウドサービス)に支えられ、開発工数は激減し短期間で開発できるようになります。これにより、業務の実践に関わる人が、直接開発に関わることも増え、ビジネスとシステムのゴールの一致、動くシステムでの検証と対応が即座に行えるようになります。
システム運用は、SDI(システム資源が全て仮想化され、ソフトウェア的な設定だけで構築できるシステム基盤)の進展と人工知能によって、自動化・自律化があたりまえになり、運用エンジニアによるオペレーションは不要となります。このような仕組みを構築し、これを使いこなすための企画や設計、そして、その検証といった業務、すなわち、システム・デザイナーやアドミニストレーターに役割を移してゆくことになるでしょう。
そのための備えは、できているでしょうか。このブログでは、そのための取り組みを継続してまとめて考えてゆこうと思います。
【急募】12月8日(月)午後半日 研修「クラウド概説」を開催します。
この研修は、クラウドの構築や開発、運用といった「クラウドを使う」ための実践ノウハウを学ぶ研修の一貫として、クラウドやこれを支える仮想化などの技術を体系的に整理することを目的としています。
また、参加される方には、クラウドや仮想化についてのパワーポイント資料をロイヤリティ・フリーで提供致します。社内の勉強会やお客様への提案にご活用頂けます。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
対象者
- ユーザー企業の企画にか関わる方
- ユーザー企業の情報システムに関わる技術者
- ITベンダーの経営者や企画にに関わる方
- ITベンダーのクラウドを活用した提案に関わる技術者
前提条件
- 特になし
コース目的・概要
- クラウドとは何か、およびクラウドがこれまでのIT利用の常識とどのような違いがあるかを体系的に説明できる
内容
第1日目
1. クラウドの常識
・クラウド・コンピューティングの価値と歴史的背景
・クラウド・コンピューティングの定義とその意味
・クラウド・サービスのメリットとデメリット
2.クラウド利用の企画書を作る上で押さえておくべきポイント
・投資について
・予算について
・組織の役割について
・人材について
「最新ITトレンドとビジネス戦略【2014年10月版】(182ページ)」を公開しました!
毎月公開しています最新ITトレンドについてのプレゼンテーションです。以下のテーマでまとめられています。
- クラウド・コンピューティングで変わるITの常識
- モバイルとウェアラブル
- 仮想化とSDI (Software Defined Infrastructure)
- IoT (Internet of Things) とビッグデータ
- スマートマシン
- これからのITビジネス戦略
今月は、仮想化とSDIについてプレゼンテーションを一新し、解説文書を追記致しました。
よろしければこちらをご覧下さい。
「ITトレンド」を解説するブログを始めました!毎日更新しています。
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