「うちの営業、わかっちゃいないんですかねぇ。クラウド・サービスを始めたんですけど、全然、案件とれないんですよ。なんとか、教育してもらえないでしょうか・・・」
あるSI事業者の役員の方から、こんなご相談をいただきました。
「申し訳ありませんが、教育しても売れるようになんかならないと思いますよ。」
失礼ながら、そんなことを申し上げました。
こちらの会社も例に漏れず、受託開発の受注は好調なのだそうです。しかし、二次請けの仕事も多く、利益率は低迷しています。そんな中、将来を見据えて、大手クラウド・サービス・プロバイダーのサービスを代理店販売し、独自のサービスをその上に作り、さあ、営業に売ってこいということで、新規ビジネスの展開を始めたのですが、いっこうに売れないのだそうです。
「営業に、そのサービスを売るモチベーションがあるのでしょうか。」
そんなことを申し上げました。
この会社の営業の業績評価は、売上と利益です。特に、売上に対する評価に重みを置いているそうです。そういう営業にとって、クラウド・サービスを売るモチベーションはありません。金融関係のお客様が多いこの会社は、受注をさばけないくらい仕事の依頼があるそうです。つまり、売上の少ないクラウド・サービスなど売らなくても、予算を十分に達成できるわけです。
また、そのクラウド・サービスは、ある業務アプリケーションを提供するSaaSです。そうなると、これまで相手にしていた大手SI事業者やユーザー企業の情報システム部門には売れません。エンドユーザーに売り込まなければならないのです。これまで、そういう経験をしてこなかった営業にそれを求めてもモチベーションが生まれるはずはないのです。
さらに、いろいろと話を聞いてみると、もっと本質的な問題があることが分かりました。
このサービスは、ある特定のお客様向けに開発したのだそうです。なかなかできも良く、ちょうど新しいサービス・ビジネスの模索されていた新規事業の責任者が、ならば、これをベースにサービス・ビジネスとして展開しようと考えたのだそうです。
しかし、よくよく話を聞けば、その“特定”のお客様にとっては、「よくできている」とのご評価を頂いているものの、“その他大勢”のお客様のニーズを十分に調査し、サービスを作ったわけではなく、「このお客様でご評価かいだいたのであれば、他でもご評価いだけるはず」との勝手な論理で、サービス提供を始めたのだそうです。しかし、結局売れたのは、最初のお客様だけだそうです。
“特定”のお客様にとっては、ありがたい話でしょう。安い料金でこれだけのサービスを利用できたわけです。お客様も大満足ではないでしょうか。しかし、提供した側にとっては、大きな負債を抱えてしまったようなものです。利用者は、“特定”のお客様だけですが、お客様がついてしまっている以上、辞めるわけにはゆきません。そんな事情もあって、営業にハッパをかけているのだそうですが、マーケット・ニーズを十分に把握しないままに、こちらの勝手な思い込みのままに作ったサービスが、そうそう売れるはずもないのは、火を見るより明らかです。
クラウド・サービスに限りませんが、デザインのないサービスを売るのは大変なことです。ここでいうデザインとは、売るための仕掛け、あるいは、売るための全体計画を持たないままに、どんなに立派な商品を作ったとしても、簡単に売れないと言うことです。
サービスを営業に売らしたいのであれば、そのサービスが売れれば、5年分の売上金額と利益を営業の評価にする、あるいは、別途、サービスの契約件数を業績評価基準として与え、売上に加え、こちらも達成しなければ目標達成とは認めないと言った明確な動機付けを与えるなどの制度設計が必要です。
また、“特定”のお客様ではなく、それを参考にしつつも、どのようなお客様にご購入頂きたいかを明確にして、“特定”のお客様の特殊事情と売ろうとしているお客様の汎用的ニーズを切り分けた機能設計や実装を行わなければ、そう簡単に売れるはずはないのです。
また、市場が変わるわけですから、そこにどうアクセスするかのマーケティング活動やプロモーション・プランも組み立てる必要があります。そういうものまで、営業の自助努力にたよっているようでは、ビジネスとして成立させることは難しいでしょう。
こういう、ビジネス全体のデザインがないままに、「クラウド・サービスが売れないのは営業がわかっていないからだ」などと言っていること自体、ご本人が分かっていらっしゃらないように思えてしまいます。
人月積算のビジネスは、売上は上がっても利益を上げられないビジネスです。しかし、これは麻薬みたいなもので、売上に引きづられ、しなければならないことを先送りしてしまうことにもなりかねません。
何が大切か、どうしなければならないのか、ありとキリギリスではありませんが、こういう時期だからこそ、しっかり先を見据えたビジネス・デザインが大切なのではないでしょうか。
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工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。