「お願いしている新規事業を立ち上げるコンサルなんですが、一旦打ち切らせていただきたいんです。いま、いろいろと案件が増えてきて、それをこなさなければなりません。プロジェクトのメンバーがそっちに時間をかけなくてはならず、とても手が回らないんですよ。」
ある中堅のSI事業者の社長からこのような話がありました。できの悪い私の仕事をうまく断るための「大人の対応」だったのかもしれません。でも、いろいろと話を聞いてみると今年に入って受注も増え、仕事が増えてきていることは確かなようでした。
「これまで伸び悩んでいましたから、稼げる時に稼いでおきたいんですよ。新規事業のプロジェクトに関わっているメンバーはみんな優秀な連中なので、現場に回したいんです。余裕ができたら、また相談させてください。」
新規事業に成功した企業の多くは、最初から正しい戦略を持っていたわけではありません。むしろ、成功した企業の多くは、当初の戦略は、ことごとく失敗しています。
彼等が成功したのは、当初の戦略が失敗してもまだ資金が残っていて、戦略の転換や試行錯誤を繰り返す余裕があったからなのです。また、当初の戦略にこだわることなく、様々な試みを許す経営者の理解と度量があったからでもあります。
先週のブログでも申し上げましたが、「意図的戦略」から始め、「創造的戦略」を吸収し、「意図的戦略」を作り替える柔軟さが必要なのです。
これまでの人月単価の積算を前提としたSI事業がいずれ稼げなくなることは明らかです。この会社でも、エンジニアの稼働率は上がっては来たようですが、単金や利益率は、むしろ下がっているそうです。その延長線上に何があるかは、言うまでもありません。
だからこそ資金に余裕がある内に新規事業戦略への資金的、人的投資を行う必要があるのです。資金が回らなくなったら、失敗覚悟の試行錯誤などできなくなるのです。
下の図をご覧ください。
この図にもあるように、未来の成長のために今の利益を投資することが理にかなっていることは言うまでもありません。しかし、今の業績は将来の成長を約束するものではありません。
次の図のように導入から衰退の曲線を継続的に重ね合わせることが成長できる企業の条件といえるでしょう。
だからといって、むやみに人や資金を投入してもリスクは高まるだけです。少数精鋭でチームを組み、6か月くらいのサイクルで施策を試み、試行錯誤を繰り返しながら実証してゆくことが大切です。
短すぎても効果は見えません。しかし、何年もかけていてはリスクを大きくするだけです。6か月程度が妥当かもしれません。それでも結果の兆しが見えなければ、別のことを試してみるべきかもしれません。
もうひとつ大切なことは、トレンドの深層を掴むことです。喧伝されるキーワードに惑わされるのではなく、そのキーワードが生まれてきた背景にある流れや力を知ることです。キーワードに対応した戦略ではなく、キーワードを生みだす力の底流を読み取り、その流れに即した戦略を建てることが必要です。
ここにふたつのチャートを用意しました。まずは、ITトレンドを生みだす力の深層構造です。
ITトレンドをドライブする大きな力は、「高速化」と「自動化」です。このドライバーが大規模化を支えることになります。この動きを加速させるのが「オープン」です。オープンはソフトウェアに留まらず、データやハードウェアにも及んでいます。自動化と高速化、そこから生まれる大規模化、生産性向上と精度向上は、オープンの潮流に支えられています。
次のチャートは、情報システム資産についてのユーザー企業の意識の変遷です。
かつてはハード・ソフトの資産は所有するものであり、自主開発・委託開発が前提でした。
しかし、ソフトウエア・パッケージの普及はライセンス・使用権を所有することへと遷り、SI(一括請負)型の開発がウェイトを占めるようになりました。ユーザー企業は、これにより自らのリスクをSI事業者に転嫁できるようになりました。その結果、ユーザー企業は開発や運用に関わる実践的なノウハウを失いました。一方で、SI事業者は、ユーザー企業の情報システムを囲い込むことができ、両者の相互依存関係が形作られていったのです。
しかし、クラウドの出現は、この関係を大きく変えようとしています。ユーザー企業にとって、本来必要なことは「使える」ことであり「所有する」ことではありません。必要なものがサービスとして「使える」のであれば、「所有する」という手段にこだわる必要はないのです。この当たり前の事実を満たしてくれるものがクラウドなのです。
このふたつのチャートは、ITビジネスのトレンドの底流に流れる深層構造のごく一面を整理したものに過ぎません。
(この例の他にも、「コレ一枚シリーズ」として思いつくままにFacebookページに随時公開していますので、よろしければご覧ください。もし、ご興味があれば、「いいね!」をお願いします m(_ _)m )。
「事業収益は今すぐ、成長は気長に!」ではうまくゆくはずはありません。「成長のために今すぐ、事業収益の続くうちに!」。
この決断は、経営者にしかできないことなのです。
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