営業の3Kとは、「帰れない、きりがない、気が休まらない」。「そうだよなぁ」と納得してしまう営業も多いのでは。
現役時代、朝7時過ぎにはオフィース、夜は10時、11時は当たり前、終電が間に合わないことも多く、タクシー帰りは日課。土日もどちらかは、オフィースに。それが当たり前だと思っていたし、そうしなければ仕事が片づかない。そんな営業生活を13年続けていた。
今考えると、何とも要領の悪い仕事をしていたのだなあと思うけれども、それが当たり前だと思っていたんですね。たまに早く帰ると、なんだか悪いことでもしているような、後ろ髪を引かれる思いでした。 いつも何かに追いかけられているみたいで、夢の中にも仕事が出てくる。「あっ!まだあの書類ができていない」なんて、夜中に突然目が覚めることも。
ほんとうに、よくやっていたと思う。
もう、10年以上前の話し。IBMをやめる半年前、初めての長期休暇。10日間仕事を休み、中国の西域へ旅をした。上海に入り、飛行機で新疆ウイグル自治区のウルムチへ。さらに、敦煌、西安と大股またぎではあったけど、シルクロードの要衝を歩いた。帰国の翌日、今度は、2泊3日の香港コンベンション。コンベンションとは、前年度の営業目標を100%達成した人へのご褒美旅行で1000人以上の大ツアー。
そんなこんなで、2週間仕事を開けてしまった。帰国後、溜まった仕事を片付けようと、連日の徹夜、泊まり込み。カロリーメイトとカフェインの錠剤で一週間。若かったんですね。
久々の日曜日、やっと休みを取った。近所を歩いていたら突然、胸に激痛!胃を悪くしていたので、胃潰瘍にでももなったのか。それとも心臓・・・?とにかく、座っても、寝転がっても収まらない。周りの人に救急車を呼んでもらった。ところが、病院へ着く頃には、痛みはすっかり消えている。もう帰ろうかと思ったけれど、検査しますということで、見てもらったら胆石ができて、それが胆道を通り抜けるときの激痛だったようだ。胆石は、コレステロールの塊。食事は、毎回店屋物に揚げ物。それが理由だったのかもしれない。
さらに10日間の入院となってしまった。
慣れないことはしないことだなぁと思った。ただ、改めて今考えてみると、こんな仕事人生でいいのだろうかと、そのとき何かがプツッと切れたのかもしれない。いろいろあったが、翌年の1月、私は、晴れて会社人生を卒業することになった。
さて、その後のいきさつについては、いずれ書くとして、この当時の自分の仕事のやり方は、まさに営業の3Kそのものだった。とにかく、いつもいつも何かに追いかけられていた。数字は、3ヶ月毎に重くのしかかってくるし、目標達成100%は普通の営業であることの証。それ以下は、普通ではない。ある人曰く、「数字が人格」の時代だった。
IBMも今でこそ変わったようだが、当時はもうひとつの3Kがあった。“経験と勘と根性”である。営業は、人を相手にする商売。計画的、科学的ということが、どうもなじまない。結局は、先輩との師弟関係で仕事のイロハを学び、経験で勘や根性を養うことが、営業力をつけると言うことだった。あとは、生まれながらセンスや才能が、営業の実力を決める。
ご存じの方も多いと思うが、IBMは、研修や教育には、多大な時間とコストをかけていた。それだけ昔は収益率が高くて、経営的にも余裕があったからだとも思うが、新入社員は、営業で1年、SEで1年半、その間は、一人前とは認められず、研修漬けの日々を過ごす。
確かにこの研修で学んだことも多い。しかし、営業活動のセオリーを体系的に学んだわけではなかった。私のクラスは、大半が途中入社組。営業経験のある人も多く、そのようなことにあまり興味はなかったかもしれないが、新卒の私にとっては、未だ何をしていいのかわからないままに、本当に不安だった。
もちろん「ロジカル・セリング・プロセス」など、営業活動の基本中の基本みたいなところは教えられたが、今思うと、けっこうおおぐくりな話しである。研修の本命は、ロールプレイング。営業現場を模擬体験させ、「営業とは」を気付かせる。卒業研修に、マーケティング・スクールというものがあったが、これは実にきつかった。教官が、お客様に扮し、アンチマン、国産大好きキーマン、経営者などとなって、難題を浴びせかける。およそ1週間の合宿研修で、毎日深夜まで“お客様”からの宿題に答える準備をするのだが、そんな簡単に答えが出せるような宿題など出してはくれない。中には、たまりかねて、合宿しているホテルから遁走するものもいた。私の時も一人か二人いたなぁ。しかし、これを卒業すれば、はれて“オン・クオータ”。つまり、ノルマを差し上げますと言うことで、一人前と認められる。
究極経験の凝縮版というものだったのでしょうか。おかげで、このスクールを越えられたささやかな自信と自負。営業と言う仕事は“根性”が大切だという刷り込みが、そのときできあがったようですね。
この常識を覆されたというか、目から鱗で驚いたのが、某外資系SIerが行っていた「営業活動プロセス」を整理して、それを管理するという営業マネージメント・スタイル。私がIBMを卒業した後、IBMでも同様の取り組みが行われていると聞いた。いろいろと調べてみると、なるほどよく考えられている。よく考えられたと言うより、よく整理されていると言うべきかもしれない。
「理想的な営業マンを描き、その営業活動を進捗に応じて仕事の手順を記述する。それを進捗の評価や次のアクション・プランの指標にする」という考え。つまり、今どこまで作業が進んだか、次に何をすべきかの手順があらかじめ文書化されている。それと見比べながら、進捗を評価し、自分のアクション・プランを組み立ててゆくという方法。
おいおい、何の事やらと思われる方も多いだろう。でも、これがこのプログの本題。これから、いろいろと説明しますから、ご興味があればどうぞおつきあいください。
ただ、これだけは、最初にお伝えしておきたい。それは、「営業は、決して3K(経験と勘と根性)だけの仕事ではない」と言うこと。
確かに、どんな仕事でも3Kは必要だとおもう。しかし、規範や道標があれば、3Kはもっと要領よく鍛えられるはず。生まれながらのセンスや才能もあった方がいいに決まっている。しかし、だれもが10点満点なんてありえない。自分に下駄を履かせ、スタートを5点、6点にできれば、どんなに楽だろう。これが、「営業活動プロセス」を知ることの意義だと思っている。
今日の最期に、なぜ「let’s make your style = 自分のスタイルを作ろう」かについて、お応えしておく。
「 自分のスタイル」を作ると言うことと「営業活動プロセス」などという仕事の原理原則論とは、まったく反対のことのように受け取られるかもしれないが、そんなことはない。
将棋に定石があるからといって、誰もが同じ将棋をするわけではない。名人ともなれば、それぞれに他人にはまねのできないその人ならではの棋風が備わっている。それが勝負の趨勢を左右する。
将棋に限らずどんなゲームにも勝つための定石というものがある。「営業活動プロセス」とは、そんなものだと思えばいいだろう。それを使いこなすのは、人それぞれ。自分の得手不得手と相談しながら自分のスタイルを見つけてゆく。それが見つかれば、仕事は楽しくなり、成果も上がる。
「さあ、自分にあったスタイルで楽しく仕事をしましょう!」
そんな思いから、このタイトルを選んだ。