「大変魅力的なシステムですね。ぜひ検討させて頂きます。あらためて御連絡を差し上げます。今日は、暑い中有り難うございました。」
このような社交辞令は、明らかに興味がないとのメッセージだ。
あるベンチャー企業をお手伝いしていた頃のはなしである。同行したその会社の営業担当者は、「感触良かったですね!」と大喜び。そうじゃないんだよと教えてあげるのだが、いまひとつ納得いかないようだ。しかし、こんなお客様に限って、連絡をもらうことはない。こちらから連絡しても、今検討中である、まだ尚早であるからと、先へ進まない。彼も何度か同じ体験をするうちに、そういうモノかと分かってきたようだ。
新規顧客の開拓は、労多くして実り少ない仕事である。それでも営業にとっては、大切な仕事であり、時に会社の存亡を左右する。さて、どうすれば売れるようになるのだろうかと悩み模索している営業関係者も少ないだろう。
そこで、ちょっと提案をしたいのが、「売り込まない」営業である。
お客様にしてみれば、何か買わされるのではないかという恐怖感に満ちあふれている。興味があってアポイントを受け入れたにせよ、そう簡単に騙されないぞというフィルターがかかっているのが普通だ。ましてや、真剣に何らかのシステムを検討しているのなら、あらかじめいろいろと調べ、冷静に判断しようと身構えているだろう。
そんなところに「我が社のXXXは、既に多くのお客様にご導入頂いているもので、数々の優れた機能を実装しています。まず、・・・」となると、ほら来たぞと、お客様の防衛システムにスイッチが入る。
お客様の防衛システムもいろいろだ。いろいろな質問を駆使して打ち落とせるかどうかを試みる攻撃型、だまって質問もせずだた聞き流し、後でネットや競合他社から話を聞いて調べてやろういうステルス型。「ほんとうにいいお話を聞かせていだきました」といかにも満足という顔をし、当たり障りのない質問をして、まずは情報だけ引き出してお引き取りを頂こうとする欺瞞工作型である。
どちらにしても、このような防衛システムにスイッチを入れないことが、最初の訪問では肝要である。そのためには、まずは「売り込まない」ことをこころがけよう。最初の訪問で見極めようとはせず、二回目以降の訪問とセットで考えて見るといいだろう。
最初の訪問では、お客様の仕事の流れや抱えている課題を聞くことに徹し、一切自社の製品やサービスの話をしない。お客様がどのように在庫を管理しているのか、伝票処理の流れやアルバイト店員のタイムシフトの管理方法はどのように行っているのかなど、お客様の仕事やそこでの課題をできるだけ教えてもらうといいだろう。もし、お客様に課題があり解決したいという思いがあるならば、教えてくれる可能性は高い。このような話が引き出せないようならば、もう見込みがないとあきらめるべきだろう。
商品の紹介をもとめられても、「まずはお客様のことについて教えて頂けないでしょうか。その上で、私どもの製品をどのように使えば、最も効果が出せるのか、改めて提案させてください。」といって、製品の説明や売り込みは一切行わないこと。
また、自分の商品に関わりのない話でもとにかく聞くことで、お客様にも気付きがあり、みなさんの仕事のチャンスを広げることになる。
そして、それを持ち帰り整理して、自分たちにできることできないことを明確にして、ドキュメントにまとめ上げ、改めてお客様を訪問する。
きっとそのときには、お客様の「防衛モード」を「相談モード」に切り替わっているだろう。ビジネス・チャンスは確実に高まる。
新規顧客開拓に取り組まれ、ご苦労されている営業のみなさん。騙されたと思って、試してみてください。きっと仕事の流れが変わりますよ。