四ッ谷界隈でも蝉の鳴き声が騒がしくなりました。先日の大阪ほどではありませんが、四ッ谷の土手沿いに連なる桜並木からステレオ・サラウンドで響く鳴き声は、短い一生の証を主張するかのように必至で声を上げています。
さて、今回の「間違え探し」に多くの方からご回答を頂き有り難うございました。それぞれに的を射たご回答です。それでは、私なりの「間違え」を整理してご紹介したいと思います。
ポイントは、お客様の立場についての想像力、配慮の欠如です。
■ 間違え1:個人的立場と社会的立場の違いについて、想像力、配慮が欠如
山田執行役員と吉田部長の個人的人脈を利用して、狙い定めたキーパーソンにアクセスすることは、慎重を要することではありますが、効果的なアプローチであったと言えます。研修でもご紹介したことですが、このような個人的な人脈を探ることも営業活動の一環として重要です。しかし、それは、あくまできっかけを手に入れたに過ぎません。そのことが、すなわちビジネスとしての成功をもたらすという保証は何もありません。
山田執行役員にしてみれば、友人の紹介である以上、断りにくい訳ですし、友人として吉田部長の顔を立ててやろうという気遣いもあったでしょう。しかし、そのこととビジネスとの関係は、別の話です。
あなたは、会話の中で、「吉田部長のアジア技研様でもお使い頂いており、大変ご評価頂いております。」と発言しています。アジア技研は、東洋テクノ工業の下請け企業に過ぎず、その規模もまったく異なります。例え友人の会社であっても、ビジネス的に見れば、ビジネス規模も小さい企業であるアジア技研で使われているシステムは、何のリファレンスにもなりません。それを引き合いに出して実績を主張しても、それは興味の対象外であり、場合によっては、「あなたは、なにか勘違いをされていませんか?」という気持ちになることが危惧されます。
個人的立場はきっかけ作りには有効でも、ビジネスとしてその先に駒を進めるためには、ビジネスとしての冷静な状況判断が必要です。その点をが間違えのひとつです。
■ 間違え2:問題点の指摘が執拗
あなたは、お客様について可能な範囲で徹底的に調べ、お客様が抱えているであろう問題をかなり明確にすることができました。しかし、それを執拗にお客様にぶつけることはいかがなモノでしょうか。
あなたは、「いま御社では、XXXという問題を抱えていらっしゃるようです。このような問題は、御社の経営にとって、大変憂慮すべき問題ではないかと思います。」と話を切り出しています。しかし、山田執行役員は、経営に関わる立場にあり、あなたのにわか仕込みで仕入れた程度の問題点は、十分に承知されているはずと見るべきです。それにもかかわらず、問題点を執拗に説明するあなたに、自分の恥部をえぐられる不快感、あるいは、屈辱を与えた可能性があります。
コメントにお寄せ頂いたご回答に「問題提示はこちらからするのではなく、先方に○○君ココが問題なのだよ!と言わせる質問をして、それに対する答えを資料として提示したほうがより効果的で信頼も得られます。」とありましたが、私もまさにそうだと思います。
そもそも「問題」という言葉、大変ネガティブな印象を与えます。細かなことかもしれませんが、「お客様の問題」を「お客様の課題」と置き換えるだけで、解決しようとしているテーマという意味となり、前向きな印象を与えます。
お客様の課題や状況を可能な限り事前に調べておくことは、ぜひとも必要なことです。しかし、それで全て分かったつもりになるのではなく、あくまで限られた情報の中で自分が想定した仮説に過ぎないことを謙虚にわきまえておくべきです。
「外聞ではございますが、いま御社では、XXXという課題に取り組まれていると伺っております。やはり、いろいろとご苦労されているのでしょうか?」というような切り出しならば、山田執行役員もその事実や自分の意見をコメントしやすかったのではないでしょうか。
「御社には問題があります」と大上段から切り込まれてしまえば、相手は何も言えなくなります。あなたもまた、自分の立てた仮説を検証する手だてを失います。
「課題」とはお客様がどう認識されているかと言うことであって、あなたがそれを押し売りするべきものではありません。その当たりの謙虚さが欠如していたことがもうひとつの問題と言えるでしょう。
■ 間違え3:最初の訪問で自社製品を売り込んでいる
ソリューションの起点は、お客様の課題を把握することにあります。このケースでは、お客様の課題は、「もう十分に分かっています。あなたの必要な解決策は、これです。」と言い切っているようなものです。
「間違え2」でも指摘したとおり、お客様の課題を確認しようと言う謙虚な態度がありません。これでは、お客様の認識する真の課題を確認することができません。
あなたが、仮説を提示しそれを検証しようとするアプローチは、お客様の真の課題に迫る有効な手段です。今回の訪問は、経営者でありシステムの責任者から、お客様の抱える課題を探り出し、そのことを十分に理解できたことに感謝を示すところで留めておくべきだったでしょう。
山田執行役員にしてみれば、自社の課題解決のために真剣に話を聞き、理解を示してくれたことにいやな思いはないでしょうし、吉田部長からの依頼に十分に報いたという満足感も生まれるはずです。
コメント頂いたご回答に、“「次回、こういったことを話す機会をいただきたい。もし可能ならぜひご担当の方も同席を・・・」といった切り口で、二回目に色々説明をすべきではなかったのでしょうか。”とありましたが、まさにそうすべきであったと思います。
「本日お話を伺い、御社の課題を整理させていだくことができました。有り難うございました。御社の課題を解決できる方法がないか、よく検討させていだき、ぜひ後日改めてご説明の機会を頂戴できればと思います。そのときは、少しシステムよりの話も差し上げたく、ご担当の方にもご同席いだければ幸いです。」とでも言えば、完璧です。
いかがでしたか。おわかりになりましたか。