「諸君!名刺で仕事をするな」という本をご存じでしょうか。1984年、週刊朝日の名編集長であった扇谷正造氏の名著です。この本の序文に、次のようなことが書かれています。
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肩書きとか会社名などというものは、いわば風袋*で、風袋をとったところに、人間の価値がでてくる。ビジネスマンの勝負は、だから、ほんとうは「定年で会社を辞めてから」ともいえるかも知れない。
吉川英治氏のことばに、”四十初惑”というのがある。四十不惑でなくて初惑である。二十代三十代は成功も失敗も、いわば人生経験にすぎない。四十になって始めて自分に何ができるか、何が向いているか真剣に迷い、考え、五十立志で人生の勝負をきめるというのであるが、日本人の平均寿命が七十三、四歳になったこのごろでは、四十歳というのは、ビジネスマンの一つの転機の目処かも知れない。
そして、その時の決心の土台となるものは、彼が、それまで名刺で仕事をして来たか、そうでなかったか、にかかわっている。
*「風袋」とは、包みや容器のこと
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1995年に日本アイ・ビー・エムを退職して早々、自分の仕事を売り込むために企業トップへのアポイントメントを試みました。IBMで養った(?)図々しさもあったと思いますが、何ら臆することなく、「ネットコマースの斎藤と申します。」と面会のお願いをしていました。面会の目的も明確に伝え、きっと話を聞いてくれるだろうという自信もありました。しかし、そう簡単にアポイントメントを取ることは出来なかったのです。
なぜだろうと、自分では釈然としません。幸いにもご面会いただいた方に、それとなく聞いてみると。「IBMと言われたら話を聞こうという気にもなりますが、あなたの会社の名前では、そういう気持ちにはなりませんよ」と率直にお話を頂き、ショックを受けると共に、改めてIBMという会社の看板の大きさを思い知らされました。
自分としては、中身で勝負、お客様との個人的な信頼関係が大切、看板など自分には無縁と思っていたのです。しかし、それは自分の奢り、非常識であったことを痛感しました。
研修でも、「お客様に会社の名前ではなく、個人の名前で呼ばれる営業になりたい。」、「個人として、お客様に信頼してもらえる営業になりたい。」という話を伺います。
大きな看板が無くなり、自分の名前だけで仕事をするようになり、改めてこの大切さを実感しています。
営業は、どうしても数字に縛られます。「数字が人格」と言われているIBM営業として仕事をしてきた人間としては、その厳しさは並大抵のものではありませんでした。そんな厳しさのなかでも、結局は、お客様にご納得いただかなければ、数字を達成することなど出来ません。この両者の軋轢にどう対処するかが、営業という仕事の難しさであり、また、知恵の出しどころとも言えるかも知れません。
研修の冒頭で、参加者に必ずこんな質問をさせていだきます。
「皆さんのソリューションは、誰のためですか?」
最初は、何を馬鹿なこととをと思っていらっしゃる方に、
「営業予算(ノルマ)を達成しなければならないという、自分の課題解決のためのソリューションにはなっていませんか?本当にお客様の課題を解決するソリューションになっていますか?」
皆さんは、自信を持って「お客様の課題解決をいつも考えています」と言い切れるでしょうか。
名刺で仕事をしないとは、にお客様の側に立ち、お客様の抱える課題を一緒になってやっつける同士であり、戦友となることです。同士に名刺も看板もいりません。お互いに命を張って、同じ敵に立ち向かう仲間に肩書きなどいらないはずです。
簡単なことではありません。しかし、そんな関係をお客様と築くことが出来れば、どんなに幸せなことでしょうか。
「会社の名前ではなく、個人の名前で呼ばれる営業」とは、きっとこういうことを言うのだと思います。
IBMの先輩達もこうやってお客様との関係を築き、その積み重ねが、IBMという看板の信頼へとつながっていったのだと思います。名刺や看板が先にあったわけではないのです。
IBMを辞めて、もう14年が経ちました。しかし、わたしには、未だその模索が続いています。
■ 研修のご案内 ■ ———–
ソリューション営業プロフェッショナル養成講座が、下記日程にて開催されます。
- 標準コース : 3月5日(木)、6日(金) 2日間 東京
- 管理者コース: 3月10日(火)、11日(水) 2日間 東京
今回からは、今までの研修で頂戴した皆様からのご意見を反映し、より解りやすく、よ実践的な内容にリニューアルして、講義をさせていただこうと準備をしています。
また、「是非、自分の上司を参加させたい」という、既受講者の方!「管理者コース」を開催いたします。是非このコースをご案内下さい。
- お申し込みは、こちらから。
- パンフレットは、こちらからダウンロード出来ます。
多くの皆様のご参加を楽しみにしています。