「クラウドの定義:産地偽装に騙されないために」でも書いたように、「クラウド」という言葉が、その本質とはかけ離れ、キャッチフレーズとして世の中を闊歩している。
例えば、データセンター・サービス。仮想化や運用の自動化、プロビジョニングへの対応がなくても、ネットワークを介して使うから「クラウド」であるという。
ASPも同じ。既存のパッケージ・ソフトウェアを顧客ごとに立ち上げたシステムに導入し、ネットワークを介してサービスを提供する。シングル・インスタンスやマルチ・テナントというようなSaaSに求められる要件を備えていない。それでも「クラウド」である。
「ソリューション」が、「プロダクト」より、高級な感じ・・・というノリと同じように、その本質を考えないままに「クラウド」という言葉が、キャッチフレーズとして使われている。
ソリーション・ベンダーは、そろそろ本質を正しく受け入れ、責任ある行動をとるべきではないか。ユーザーも、この現実に気づいている。
それを知らないのか、あるいは知っていても、思考を停止して無視しているのか、それは分らないが、そろそろプロとしての責任を果たすべきだろう。そうし なければ、「クラウド」のもたらす本当のパラダイムの変化から自ら乗り遅れてしまう。いや、それだけではない、「クラウドは、日本の企業には任せられな い。」とユーザーにそっぽを向かれてしまうだろう。
先日、米国セールスフォース社が、自らのクラウド・サービスであるforce.comを、国内大手のソリューション・ベンダーにOEMとして提供するとの発表があった。そこには、NECや富士通などのサーバー・メーカーも含まれている。
時代の流れだとはいえ、自身の稼ぎ頭のひとつであるサーバー・ビジネスを縮小させることに取り組まざるを得ない彼らは、まさに今の日本のIT業界の現実 を体現している。つまり、お客様にとって魅力的なクラウド・ビジネスを自分達が提供できないからであり、仕方なく米国のクラウド・サービス・プロバイダー と組したと見られてもしかたがないだろう。
ちょっと穿った見方とのご批判は覚悟の上。ただ、それくらい危機感を持つべきなのである。それだけ、クラウドは、ITビジネスの潮流を大きく変えようとしていることに、もっと真摯に向き合うべきだと、私は考えている。
「クラウド」は、システム資源の「所有から使用」へのパラダイムシフトだといわれている。しかし、それは表面的なことに過ぎない。むしろその結果として、ITビジネスの常識が、大きく変わることに気づく必要があるだろう。そのいくつかを、思いつくままにいくつか書き出してみると・・・
1.システム資源のグロバールかつシームレスな最適配置
2.システム開発や運用のグローバルな再編
3.情報システム部門の役割縮小とユーザー部門の発言力拡大
4.CO2削減のための「クラウド・シフト」圧力
5.クライアント・デバイスの多様化に伴う、システム利用の爆発的拡大
・・・
ところで、クラウド・ビジネスを理解するうえで、もうひとつの重要なパラダイムの変化についても触れておこう。それは、「ハードウェア重視への回帰」である。
かつて情報システム・ビジネスは、ハードウェア・ビジネスであった。IBMの営業として働いていた頃、メインフレームやその端末は、重要な収入源であり、売上げの8割近くを占めていた。
しかし、ダウンサイジングの流れの中で、ハードウェア・ビジネスは儲からなくなった。だからこれを縮小し、サービス・ビジネスへの転換を図っていった。多くのハードウェア・メーカーが、サービス事業者への転換を図っていった。
IBMも例に漏れず、現在は、その売上げの8割が、サービスからの収入となった。これは、IBMに限ったことではない。多くのハードウェア・メーカーが、事業転換を図ったのである。しかし、その過程で生き残れずに消え去っていった企業も少なくない。
さて、今はどうか。実は、形を変えたハードウェア・ビジネスが、今のクラウド・ビジネスではないかと私は考えている。
クラウドの魅力は何かと言えば、多くのソリューション・ベンダーは、「コスト」の削減であるという。しかし、コストを削減するためには、膨大なサーバー資源を保有することが前提となる。
UCバークレーの論文「Above the Clouds」によると、「1000台クラスの中規模データセンターと、5万台クラスのデータセンターを比較すると、大規模データセンターのほうが7倍も効率がよい」との調査結果がある。つまり、規模とコストが比例するということだ。
グーグルは、300万台のサーバーを保有しているといわれている。では、国内企業で、この規模、すなわち、コストで立ち向かえる企業はあるのだろうか。
ハードウェアが、再び儲うけを生み出すようになったのである。これはハードウェア資源のレンタル・ビジネスである。かつての商売の仕方とは違うが、ハードウェアを商品とするビジネスであることに変わりはない。つまり新しい形の「ハードウェア・ビジネス」が、米国の大手クラウド企業のビジネスといえるだろう。「ハードウェア重視への回帰」とは、そういう意味である。
つまり、クラウド・ビジネスの売りをコスト削減とする限りにおいては、日本のIT企業は、ハードウェア・ビジネスへの転換を図る必要がある。しかし、それは容易なことではないことは、言うまでもない。
となるとスピード、つまり「時間」をクラウドで売るということになるのか。それとも、国内であることの「安心」を売ることになるのか。
キャッチフレーズやバズワードの類を頭ごなしに否定するつもりもない。少なくとも、世の中に新しい動きの到来を広く知らしめる効果はあった。
しかし、その役目は十分に果たした。そろそろ「クラウド」の本質を真剣に考えるべきである。そして、「クラウド」の美しき幻想である「コスト削減」は、自分達ではできないことを正直に伝え、「時間」や「安心」などの「コスト」以外の自分達の価値を、お客しさまに真摯に売り込むべき時期が来たのではないかと思う。
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