IT業界の今年を振り返れば、クラウドに明け、クラウドで暮れた一年だった。猫も杓子もクラウドである。なんだか、この言葉を使わなければ、時代に取り残されたような気持ちになる。
景気が低迷を続ける中、何とかお客さまの関心を惹くために、その価値を斟酌することもなく、ただ目新しいからという理由だけで、このキーワードを乱発するソリューション・ベンダーも少なくない。
また、ユーザー側も、一層のコスト削減を迫られ、自身のリストラも危ぶまれるなか、クラウドに可能性を求めた。
まさに、「クラウド強迫神経症」とでも言うべき空気が、このIT業界に漂っていた。
しかし、その神通力もそろそろ切れ掛かっている。「何だろう?」の好奇心から、「どうしよう?」の現実論へと、クラウドを取り巻く意識が、大きく変わり始めている。
もはや「クラウドとは何か?」の期間は終わった。これからは、「クラウドをどう使えばいいのか?」を考える時期にさしかかっている。
だからこそ、改めてクラウドの本質を冷静に見極め、産地偽装と本物のクラウドを見分ける必要がある。その上で、何が価値で、何がリスクかを公平に見極め、自分達にもっともふさわしい使い方を選択する。その駒は、そろそろ出揃い始めたといってもいいだろう。
では、どのような使い方があるのか、そして、それがとのような効果を生み出すのか。簡単に整理してみようと思う。
まず、クラウドとは何かについて、共通の認識を持っておいたほうがいい。とにかく、いろいろな人が、いろいろな定義をしている。そんな中、米国商務省の国 立標準技術局(NIST:National Institute of Standards and Technology)が、「クラウドコンピューティングの定義(The NIST Definition of Cloud Computing)」を公表している。これは、世の中の意見をうまく取りまとめた定義になっているように思う。
以前のブログに日本語の解釈を載せた。この解釈で使用した文書は、2009年の6月に公開されたものである。10月にも新たなリリースが出ているが、大きくは変わっていない。つまり、そろそろ定義が、落ち着き始めているともいえる。
では、どのような使い方が、効果的なのか、5つの可能性を考えてみることにしよう。
1.開発・テスト環境
大手企業の場合、約半数のサーバーが開発やテストのために導入されているといわれている。稼働率も低い。これをクラウドという形で集約できれば、大幅なコスト削減が図れるものと期待できる。
サーバーの仮想化とどう違うかということになるが、クラウドにあって、サーバーの仮想化にないものを考えると話が早い。NISTの定義に従うと、「オンデマンド・セルフサービス」と「システム資源のプール」ということになる。
開発・テストが必要になったとき、人手を介さずに、かつ必要量のサーバー資源をダイナミックに割り当てることができる仕組みである。
この仕組みが備わっていることにより、開発・テスト環境の構築は、大幅に短縮され、それに伴う、設備投資や運用管理に伴うコストを大幅に低減できることが期待される。
大企業であれば、これをエンタープライズ・クラウド(企業内クラウド)とすることも考えられる。しかし、中小企業には、現実的ではない。従って、パブリック・クラウド(インターネットを介した公開型クラウド・サービス)が、現実的だ。
また、開発・テスト用途であれば、セキュリティ・リスクも比較的少ない。その意味からも、パブリック・クラウドは、現実的である。
もし、Windows Serverを使用している企業であれば、Windows Azure Platformは、検討に値する。なんといっても、オンプレミスと同じ環境を実現でき、Visual Studioに対応しているわけだから、使い勝手がいい。
このように、開発・テスト環境として利用するのが、もっともリスクが少なく、コスト効果を短期に引き出すことができるのではないかと考えられる。
2.ピーク性の高いアプリケーション
基幹業務系のアプリケーションは、ピークの予測が比較的容易であり、またその範囲も限られている。しかし、Webでのキャンペーンやオンライン販売などは、そのピークが予想できないことに加え、そのピークと定常時のギャップが、相当に大きなものになる場合がある。
このようなタイプのアプリケーションは、クラウド向きといえるだろう。最低限のコストからはじめ、ダイナミックにシステム資源の割り当てを増減できる。
オンプレミスとの組み合わせにより、このようなシステム環境を実現することも可能だろう。つまり、平時は社内システムを、負荷が大きくなりそうなときには、クラウドを使うという組み合わせだ。
Windows Azure Platformは、そのあたりを念頭に置き、「シームレス・コンピューティング」環境を実現しようという戦略のようだ。
(ところで、何度もAzureを引き合いに出すが、断っておくが、私はマイクロソフトの回し者ではありません(笑)。ただ、Azureの戦略は、これからのクラウドの使い方や可能性をよく研究して組みたてられたことが伺えます。その意味で、大いに参考になりますね。)
3.クラウドの課題を補完するサービス
コストの安さで勝負するためには、大量のサーバー群を保有することが、ひとつの条件となる。しかし、このようなサービスを提供できる企業は、限られている。とするならば、他の価値を見出さなければ、売るに売れない、買うにも魅力がない。
その切り口が、「クラウドの課題を補完するサービス」である。
例えば、Google Appsを使えば、サーバーの所有に伴う一時費用や運用負担が軽減される。しかも、オフィース・アプリケーションであれば、可用性も基幹業務システムほど には必要ない。しかし、社内の機密情報やメールアドレスに付随する個人情報をGoogleに預けるには不安がある。そこで、個人認証は、社内のサーバーで すべて行い、社内で認証した結果だけを Google Appsに送りそこで認証。機密情報は暗号化して、社内のサーバーに残し、リンク情報だけをメールで送る。そうすれば、クラウドの良さを活かしつつ、その課題を解決することができる。
他にも、コンプライアンスやデータの保全性への不安も払拭できないものがある。ならば、その課題を解決するために、地域や業界でサーバーを運用して、サー ビスを提供することも意味があるだろう。コストは高くなっても、人や設備に依存することがなくなれば、ユーザー企業のメリットも大きいはず。
このように、クラウドの課題を正しく評価したうえで、それを補完することができれば、そのサービスは、ユーザーに受け入れられるだろう。
4.クラウド・ブローカー
クラウドによるサービスが多様化する中、ユーザーは、その選択や組み合わせに苦労することになるだろう。そこで、ユーザーにとって最適な組み合わせを提案し、それを構築、提供する事業者が必要になる。このようなサービス事業者を「クラウド・ブローカー」と呼ぶそうである。
つまり、システム・インテグレーターのクラウド版ということになるだろう。
ここに「クラウドの課題を補完する仕組み」も組み入れ、サービスとしての付加価値を高め、差別化を図ってゆくことも可能になる。
ただ、今までのSIと大きく異なるところは、システム機器販売や環境構築の割合が、大幅や減ること。そして、システム技術力の価値が、相対的に小さくなることである。
つまり、業務プロセスやアプリケーションにかかわる課題の整理、企画・提案といった、より上流に関わることができる能力が、求められるようになる。
5.デバイスの多様化を意識したアプリケーション・サービス
クラウドの重要な特徴のひとつが、マルチデバイスである。Java Scriptが、サクサク動くブラウザーが搭載されていれば、それはすべてクラウド端末になりうることは、以前のブログで書いたとおりである。
PCの年間出荷台数は、3億台、これに対して、携帯電話の出荷台数は、PCの4倍に当たる12億台。うち、iPhoneなどのスマートフォンは、1億5千万台程度である。
携帯電話の普及、特にスマートフォンの成長率は、PCや他の携帯電話を大きく上回っている。このような状況を考えると、クラウド・サービスの対象をPCに限定してしまう必要はないわけで、むしろ携帯やスマートフォンに向けたサービスを積極的に取り組むべきかもしれない。
それは、かならずしもコンシュマーを対象とするものではない。最近iPhoneを使い始めたが、その機能や使い勝手の良さは、驚くばかりである。ネットワーク・サービスを利用する上でのPCの利用頻度が大幅に減ったことは確かである。
法人をお客様としている多くのIT企業は、意外とこのあたりの感性が低いようだ。真剣に研究してみる価値があると思うのだが、いかがだろう。
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さて、思いつくままにいろいろと書き連ねてみたが、何かご参考になっただろうか。まだまだ、いろいろな切り口はあるだろう。是非そのあたりは、正月のお屠蘇気分に浸りつつ、少し常識を逸脱して、考えて見られてはいかがだろう。思わぬ発想が生まれてくるかもしれない。
ひとつ、最後に申し上げておきたいことがある。
IT業界の不況は、世の中の経済指標が上向き始めたとしても、軌を一にすることはないだろう。その背景には、ITの投資判断基準が、大きく変わり始めたことがある。
こういう時代の節目を感じ取り、新たなビジネスの突破口を切り開く力を世の中や会社に求めたところで、ただ失望感を味わうだけである。
自分自身を磨き、その能力を高めてゆくこと以外に道はないように思う。「自分力」こそが、これからのIT業界で生き残る唯一の武器となる。
世の中が変わらないから、会社が動かないからを言い訳に、時代の流れを静観していても、むなしい時間を過ごすだけである。「いつでも、こんな会社辞めてやる!」といえる自信を持つこと。そんな自分力が、結果として組織を動かし、世の中を変える力となるという、「自分力」起点の発想を持つことが必要ではないか。
経営者や管理者は、そんなチャンスを部下に与え続ける事であろう。それが、結果として、新たなビジネスの可能性を生み出すことになる。また、人は、自分の成長の場としての「会社」に魅力を感じる。優秀な中堅社員が辞めてゆく企業は、総じてその魅力に欠けている。
自分が成長したいと思う「社員」、その期待に応える「会社」という、相思相愛の関係を築くことが、この時代を乗り切り、新たなパラダイムへと駒を進める原動力となる。
そんな思いからはじめた「ITソリューション塾」も、来年1月から第3期がスタートする。既に申し込みも集まり始めているが、そのコメントを見ると、彼らの志の高さが、ひしひしと伝わってくる。「会社が受講料を出してくれないから自腹で参加したい」という人もいる。
改めて、この取り組みを始めた意義を実感している。
僭越なことを書いてしまった。ただ、自分自身への戒めでもあり、ご容赦願いたい。そして、また来年もお付き合い頂ければ幸いです。
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この「ITソリューション塾」は、ITの最新動向やITビジネスにかかわる最新の知識を分り易く、体系的に整理し、提案活動の武器にしていただこうという企画です。
例えば、「クラウド」というキーワード。知らない方はいらっしゃらないと思います。しかし・・・
「クラウドと仮想化の違いを教えてください。」とお客様から聞かれて即答できなければ、信用失墜です?
あるいは・・・
- iPhoneは、世界最初のモバイル・クラウド端末と言うことですが、それはなぜですか?
- クラウドを使うとグリーンITを推進することになるとの事ですが、それはなぜですか?
- Windows Azureの発表がありましたが、システム開発や運用は、どう変わるのですか?
こんな、お客さまのご相談に答えることができれば、お客さまの信頼もますます高まるはずです。
クラウドばかりではありません。国際会計基準、ネットワーク・セキュリティなど、ITのトレンドは、実に急速に動いています。
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