このブログでも度々書いていることでもあるが、不況になってますます「営業力強化」が叫ばれている。
しかし、その実態は、掛け声であり、あるべき論であり、精神論が多い。営業力を強化して、どうしたいのか。いや、それ以前の問題として、大きな時代の節目の中で、ビジネスをどうしようとしているのか。そのために、どのような営業としての役割や能力を期待しているのか。その戦略がないままに、営業力強化という思いだけが先走りしてる議論も少なくないように思う。
先日、あるソリューション・ベンダーの人材育成担当者と会話したときのこと。彼は、営業に必要なスキルの一覧を示しながら、「わが社に欠けているのは、このような能力なんですよ」と説明してくれた。
そこで、こんな質問を投げかけてみた。
「御社では、クラウド・ビジネスの強化を進めようと、新しい事業戦略を発表されたようですね。また、いろいろなサービス事業拡大を柱とした事業改革も進められていると聞いています。モノをビジネスの中核に据えられてきた御社にとっては、大きな変革だと思うのですが、これから営業にどのような役割や行動を期待されているのでしょうか?」
そこが描ききれていないというのが、彼の答えであった。
営業の能力というとプレゼンテーション能力や交渉能力などの「スキル」の側面に重きをおかれるようだが、けっしてそれだけではない。ITの最新動向や自社製品、業界業種の業務内容やプロセスといった「知識」の側面。そして、どのように案件を発掘し、受注につなげてゆくかという仕事の手順である「プロセス」の側面。この3つの能力の育成を考えなくてはならないだろう。しかし、それをバランスよく(?)研修したところで、営業力が強化されるわけではない。
研修を生業とするものが、自分で自分の首を絞めるようなことを言うようだが、研修だけでは、営業力の強化など出来るはずがない。
確かに、研修に出れば、知識やスキルを高めることが出来るだろう。また、気づきもある。しかし、何よりも大切なのは、そこで学んだことを使って、成果が上がったという実践での実感である。
手に入れた武器が、見事に目的にかなった成果を上げてくれる。成果があがるという実感は、成長の喜びである。成長の喜びがあればこそ、ますます人はその能力を高めようと、自発的に努力する。
この成長のサイクルを作ることが、真の営業力強化である。
研修とは、この営業力強化のひとつのプロセスであり、手段である。しかし、手段をいくら積み上げても、その先にある目的や営業としてのあるべき姿が見えなければ、それを学ぶ者にとっては、張り合いがない。いったい、おれは何のためにこんなことをやっているのだろうかと。
理想のあるべき姿と現実との間にギャップがあるのは仕方がない。ただ、向かうべき目標があるからこそ、人は、学ぶことに意味を見いだすことができる。そして、学んだひとつひとつが、成果として実感できれば、ますます意欲は高まる。
私は、研修の冒頭で、営業のあるべき姿を定義し、参加される方と共有するように心がけている。つまり、これから学ぶことが、営業という“あなた”の仕事にとって、どのような意味を持っているかを自覚してもらうためである。
しかし、研修が終わり、高いモチベーションを携えて自分の会社に戻ると、そのあるべき姿への期待は、脆くも崩れ去ってしまうことも多いようだ。再び今まで通りの日常に引き戻され、研修という「楽しいひとときの思い出」だけが残る。
「思い」がなければ、何事も始まらない。しかし、それを本当の力にかえてゆくためには、「戦略」が必要である。それを会社に期待できないのなら、自分でその「戦略」を描けばいい。特に、中堅中小の企業にとっては、そのような現場の「戦略」こそ、ビジネスの背骨となる。
自分たちのビジネスは、いまこの方向に向かおうとしている。したがって、このような力が必要だ。営業は、その中でこんな仕事をしてもらわなければならない。だから、こんな能力を身につけさせたい。
件の研修担当者は、「今、模索しています」と私に話していた。
しかし、「戦略」を模索しているのならいいのだが、手段としての能力だけを何とかすればいいという考えをそのままに「戦略を考えるべきかどうか」を模索しているとすれば、残念な話である。
*タイトルに誤字がありましたので訂正いたしました。ご教示いただきました方、有難うございました*