2011年、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、新たな年を迎え、営業として、まず思うことは、「今年は何で商売をしようか?」ということであろう。景気が回復基調にあるとはいえ、未だ不透明感の高い我国の経済。IT投資にも今ひとつ弾みがつかない。このような状況にあっても、仕事をとってこなければならないのが営業である。
そんな営業の方へ、あるいは、経営者のみなさんに、今年の営業戦略を考える参考としていただければと、5つの切り口を考えてみた。私なりの思い入れもあり、偏りもある。そのことをご承知の上で、ご覧頂きたい。そして、ご批判を頂戴できればと願っている。
なお、具体的な「売り物」については、各社各様の商品やサービスがあり、明示的に示すことは避けた。下記の切り口を参考に、自分達の商品やサービスに当てはめて、考えていただきたい。
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1.「コスト削減」一辺倒から「リスクの回避」と「変化への柔軟性」へと要件が拡大する
リーマン・ショック以降、多くの企業は、コスト削減を至上命題として、全てに優先して取り組んできた。IT予算もこの影響を受け、新規開発の凍結、運用や保守に関わる人件費の削減が積極的に進められた。また、この間、大手企業では、M&Aや事業の統廃合が進められ、経営の効率化を加速した。
2010年後半より、国際的な景気指標の改善とともに、事業戦略の見直しが進み、これに伴うIT予算の再配分が進められようとしている。その結果、これまでの「コスト削減」一辺倒の考えを改め、景気の変動や国際的なビジネスの拡大に伴う「リスクの回避」と「変化への柔軟性」へと要件を拡大しようとしている。このような変化に対応し、ITへの期待も従来とはことなるものとなりつつある。
例えば、金融各社では、M&Aや事業の統廃合に伴うシステムの統廃合と刷新が進められている。これは、単なる事業構造の変化への対応という側面だけではない。低コストでのシステム開発や運用ができることに加え、変化・変更への柔軟性を兼ね備えたシステムを作り上げようという動きである。この取り組みにより、短期的にはIT人材の需要拡大が期待される。
しかし、この需要拡大は、単純に人件費単価を押し上げる要因にはならない。人材需要の二極化である。一方の極は、業務やシステム・アーキテクチャーに精通したコンサルタントやPMなどの上流に対応できるエンジニアである。もう一方は、単純な開発、保守リソースであり、オフショアもその選択肢となる。これにより、上流に対応できるエンジニアは、その数も少なく高額でも必要とされるが、、単純な開発、保守リソースとしての人件費単価は、オフショアとの競合が前提であり、頭が押さえられているだけでなく、より一層の引き下げ圧力が高まり、「需要が増えても儲からない」構造ができあがっている。
また、需要拡大そのものも一時的なもので、中長期的に見れば、人材、機材共に需要低減の圧力が高まるものと考えられる。例えば、仮想化やプライベート・クラウドの利用に伴うITシステムの利用効率向上は、IT機器の購入やライセンス契約を抑制する。運用の自動化やパブリック・クラウドの利用は、運用に関わる人材の需要低減をもたらす。
また、アプリケーション開発においても、既存システム資産を容易に捨てることはできないため、これを活かしつつ新しいシステムとの連携を図ることやパブリック・クラウドとオンプレミスを連携させるために、SOA/ESBに対応した開発が求められるようになるだろう。
これらは共に、コスト削減だけではなく、事業環境の変化・変更への柔軟性確保、そして、事業リスク回避の要件を含んだ取り組みと言える。
2.企業システムにおけるモバイル・デバイス利用が拡大、そのプラットフォームとしてHTML5のデファクト化がすすむ
パーソナル・デバイスとして、スマートフォンやタブレットへの関心が高まった2010年。2011年は、その本格的な需要拡大と企業での利用に注目が集まるだろう。
この変化を象徴する動きのひとつが、SAPによるサイベースの買収である。サイベースというとデータベース製品を提供する企業というイメージが強いが、実は、モバイル・デバイスに関連した製品やサービスに強みを持っている。つまり、企業の基幹業務システムとして、その地位を築いてきたSAPのERPシステムとサイベースのモバイル・サービスや製品を結びつけた需要拡大に対応することを狙っている。
また、HTML5/Ajaxの動きもこれを加速することになるだろう。昨年の10月に行なわれたPDC10で、マイクロソフトは、Silverlightへの比重を下げ、HTML5への対応を積極的に行なうことを表明している。また、Flashを擁するアドビもまた、同じ頃に行なわれた自社のイベントであるMAX2010で、HTML5への積極的な対応を表明している。
「スマートフォンやタブレットなどの能力や機能には制約が多く、単純にPCに置換えることはできない。」という意見もある。確かにその通りだ。しかし、情報システムを「作成」と「利用」という機能に分けて考えると、閲覧や応答などの「利用」だけであれば、スマートフォンやタブレットは、既に十分な能力を備えている。また、AndroidやiOSに見られるHTML5への積極的な対応、3Gやこれに続くLTEなどの高速モバイル・ネットワークは、ユーザビリティをますます向上させることになるだろう。
実際の企業システムの活用シーンを考えると、閲覧や応答と言った「利用」が圧倒的に多い。この現実を考えると、企業システムのクライアントとしてもスマートフォンやタブレットなどのモバイル・デバイスが、一層普及するであろうと予想される。
3.フレームワークと仮想化の進展により、企業システムとしてのクラウド利用が加速する
システム開発の生産性を向上させる手段として、フレームワークの利用は、ひとつの有効な手段である。しかし、コード数の肥大化やパフォーマンス・チューニングの問題もあり、その利用には、制約が課せられていた。しかし、開発・実行環境としてのクラウド・サービスであるPaaSの普及や機器の性能向上が、このような制約を解消してくれる可能性がある。
まず、PaaSであるが、システム資源の調達は、オンデマンド+セルフ・サービスで数分・数十分というきわめて短期間で可能であり、また、ダイナミックな資源調達を可能とするプロビジョニングにも対応している。言い換えれば、「キャパシティ・プランを必要としないシステム調達」を可能にした。
加えて、企業システムと互換性を高めたPaaSの出現である。例えば、.Netフレームワークに対応したWindows Azure Platforme、JavaのSpring Frameworkに対応したvmforceやGoogle App Engine for Businessなどは、企業システムで普及しているフレームワークへの対応を進め、企業システムの取り込みを図ろうとしている。また、Webアプリケーションのフレームワークとして評価の高いRuby on RailsもPaaSやIaaSとの組み合わせにおいて、今後普及することが予想される。
また、機器の性能向上については、プロセッサー性能の向上に加え、DRAM-SSD-磁気ストレージといったストレージの階層化が普及し、プログラム実行環境の高速化が進められている。
このようなフレームワーク利用環境の改善とPaaSの進化は、OSを意識した開発を不要とする。OSの隠蔽化である。加えて、システム資源の仮想化は、物理システムをも隠蔽する。つまり、OSや物理システムを意識しないシステム開発・実行の環境が整うことになる。また、RAD(Rapid Application Development)製品の性能向上も注目に値する。RADは、OSや物理システムだけではなく、言語、ミドルウェアも隠蔽し、業務手順を記述すれば、クロスプラットフォームに対応したシステム開発が行える。こうなると、システム技術的スキルのニーズ低下や保守の内製化も容易になるだろう。
このような変化は、オンプレミスとパブリック・クラウド(PaaSやIaaS)の境目を無くした単一プラットフォームとしての企業システム環境=ハイブリッド・クラウドが実現する。
この変化に対応して、プライベート、パブリック共に、クラウドの需要は、拡大するだろう。
4.運用の自動化への関心が高まり、ITILの適用とRBAの利用が拡大する
サーバー仮想化の課題のひとつに「仮想マシンのスプロール(sprawl)現象」がある。スプロールとは、”無秩序な拡大”を意味する言葉である。
仮想化を利用したシステムの集約は、物理システム資産を削減し、コスト削減に貢献することが期待される。しかし、その一方で、仮想化は、サーバーの調達を簡単なものにし、無用な仮想マシンをスプロールしてしまい、結果として、運用負担の増加となる可能性がある。従って、運用の標準化と仮想マシンの調達についてのワークフローの整備は、不可欠なものとなるだろう。
また、仮想マシンの拡大は、物理マシンとの混在とあいまって複雑化し、運用管理負担の増大をもたらすことになる。こうなると、もはや人手による運用管理は、かなりの困難を極めることになるだろう。運用管理ツールの統合、運用ワークフローや運用プロセスの監視・管理などのオーケストレーション機能の導入が、不可欠なものになるだろう。「仮想化はしたが、運用管理コストが下がらない」。この事態を回避するためには、運用管理の標準化と自動化を進める以外に方法はない。そう考えると、ITIL(運用管理の標準化)やRBA(Run Book Automation=運用管理プロセスの自動化)への需要が高まるだろう。
5.グローバル調達を前提としたプロジェクト管理やアプリケーション・ノウハウの必要性が高まる
大手ソリューション・ベンダーは、オフショア開発の失敗を乗り越え、うまく使うノウハウを確実に蓄積してきている。その結果、開発や保守に伴う人件費の基準は、これが前提となっており、かつてのように、中堅・中小のソリューション・ベンダーは、人件費の安さを武器にすることができなくなってきている。
加えて、リーマンショック以降の大手による中堅中小開発会社の買収により、グループ内製を優先する動きが拡大している。また、クラウドによるリソースの調達は、人件費や案件単価の頭を押さえつけている。こうなると、開発や保守のための人材提供やシステム基盤の構築などのインフラ需要は、ビジネスとしてのうまみを失いつつある。
オフショア開発の拡大やクラウドへのシステム資源の移行は、もはや避けて通れないとすれば、この新しいビジネス環境の変革に対応するしかない。そのためには、グローバル調達を前提としたプロジェクト管理のためのスキルや、インフラだけではなく、より上位のアプリケーション・ノウハウ、また、SOA/ESBやEAIなどのシステム間連携に関わるスキルが、今まで以上に求められるようになるだろう。
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以上の5つに加え、ソーシャル・ネットワークやERP/BIについても、注目している。
ソーシャル・ネットワークについては、マーケティングやプロモーションといった側面ばかりでなく、企業内の情報利用やビジネス・コミュニケーションのあり方に大きな影響を与えることになるだろう。また、IFRSの強制適用が間近に迫る中、ERP/BIへの企業の関心は、否が応でも対応が求められることになる。この2点については、また改めて書き起こしてみようと思う。
さて、このような変化に、どう対応してゆくかである。引き続き、私なりの考えを、このブログで紹介してゆこうと思う。どうぞ、今年もよろしくお願いいたします。
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