「うちには、これといえる強みがありません・・・」、「なかなか、大きな案件がとれないんです・・・」。
会食の席で、ある中堅SI事業者の経営者から、嘆息混じり、こんな話を聞ききました。このような嘆きは、この会社ばかりではなく、リーマン・ショツク以降、よく耳にするようになりました。しかし、いったいどこに問題があるのでしょうか。もちろん、会社によって事情は違いますが、共通する部分も少なくないような気がします。
今日は、そんな企業の課題を解決する方策について、考えてみようと思います。
1.「お客さまから提供される仕事への関心」ではなく、「お客さまへの関心」へ
お客さまからの要望に確実に応えてゆく。その誠実さと実力を兼ね備えている企業は、お客さまの期待に応え、その信頼も厚いようです。
しかし、その信頼は、過去の実績の延長線上にある仕事に限られている場合が、少なくありません。つまり、お客さまの期待の範囲は、はじめから限られている。そして、提案する側も、それに併せた内容に絞り込んで内容を作っています。
このような関係を続けていると、結果として、お客さまは、彼らの会社を全体として見ることがなくなります。つまり、今までの実績と担当者の提案の範囲で「彼らができること」を最初から割り切り、自分たちの需要を満たしてくれるかどうかだけを値踏みして、仕事を依頼するようになります。
自分のお客さまとの関係で、以下に心当たりがあれば、まさに、そういう関係と言えるでしょう。
- 担当者は知っているが、その上司や決定権限者とは面識がない。
- 組織体制とその役割、組織内の人間関係を知らない。
- お客さまの事業戦略を知らない。
お客さまに潤沢な需要があれば、このような関係は、必ずしも大きな問題にはなりません。他社と棲み分けても、安定して仕事量を確保することができます。
しかし、リーマン・ショックをきっかけとした需要の低迷は、今まで同様の棲み分けを許さなくなってしまいました。競合の常態化と厳しい価格競争に晒されています。さらに、オフショアの普及は、単金競争の相手を大手システム・ベンダーにまで拡大させ、ますます、その厳しさを増しています。
このような変化に対応するためには、いままでの実績にとらわれることなく、新たな顧客や業務領域へチャンスを広げる以外に方法はありません。そのためには、お客さまから提供される仕事に期待し、それを待つのではなく、お客さまの仕事そのものを、お客さまと一緒になって創り出す取り組みを進めてゆくべきです。
これまでのように、お客さまから自分たちに提供される仕事に関心を持つのではなく、お客さまの経営や施策、事業戦略と言った、システム需要を生み出す本来の要因に着目することが大切です。
決った仕事をもらうために待っているのではなく、その仕事そのものを創り出すことに関与する。そうすれば、当然、ビジネスを優位なポジションで展開できるわけです。決った仕事を示され、いついつから、いくらでできますかと言われ、価格競争に晒されるのではなく、仕事そのものをお客さまと一緒に創り出し、ビジネスのイニシアティブをとることを目指すべきではないでしょうか。
このような対応を行なうためには、今まで以上に、お客さまについての広範かつ徹底した理解が必要です。そして、より上位の意志決定者へと関係を広げてゆき、その変化を聞き取る力を持つ必要があるでしょう。
従来のように、お客さまから提供される仕事に関心を持ち、それに応える提案だけではなく、お客さまの経営や業務など、お客さまの置かれている状況、意志決定者の課題やニーズに関心を持ち、それをどのようにシステムで解決するかを提案する。結果として、ビジネスの主導権を確保することができます。また、解決策を示されるわけですから、お客さまとの信頼を一層深めると共に、競合他社に対して、有利な立ち位置を確保できるようになるはずです。
2.「自分たちに何ができるか」ではなく、「お客さまは何がしてほしいか」へ
予め自分たちにできることを限定してしまい、その範囲でお客さまの需要を探るだけでは、ビジネス・チャンスは限られてしまいます。お客さまは、決して、貴方の会社ができる範囲で仕事をして欲しいのではなく、自分の課題を解決したいのです。
このようなお客さまの期待に応えるためには、自分たちができることをいったん棚上げし、お客さまの困っていること、してほしいことは何かを、まずは追求することです。上記でも述べた「お客さまへの関心」も、これを考える上で大切な基盤となります。
その上で、お客さまがしてほしいことを、お客さまに成り代わって整理し、それを提示する。その次に、そこで自分たちができること、できないことを仕分けし、そのコントロールも含めて提示してはどうでしょう。
「自分にできること」に範囲を絞って、お客さまが提供してくれる案件の獲得に全力を尽くす。これでは、自ら競合の渦中に飛び込むようなものです。
競合を回避し、むしろ競合をコントロールする立場に立ち、ビジネスの主導権を握るために、「お客さまは何がしてほしいか」を追求し、その視点から提案を考えてゆくべきではないかと思います。
3.「一般論としての強み」ではなく、「自分たちならではの強み」へ
「自分たちには、これといった強みがない」という言葉。確かに、IBMやHP、アクセンチュアやオラクルなどと技術力や商品力で比較すれば、多くの中小SI事業者やシステム・ベンダーは、彼らに太刀打ちできないように思えてしまいます。
しかし、このような視点での競合優位を意識しては、はじめから、勝負をあきらめるようなもので、結局は価格で勝負するか、彼らの下請けとしての地位に甘んじるしかありません。ならば、彼らとは異なる視点で、自分たちにしかできない競合優位を考えてみてはいかがでしょうか。それは、お客さまのシステムや業務の現場を理解しているという強みです。
受託開発に多くを依存するSI事業者は、お客さまの現場に入り、開発や保守に参画しています。そのため、現場の「困った」や「してほしいこと」は、自分のこととして、受け止めているはずです。これを整理し、体系化して、わかりやすく表現してみてはどうでしょうか。お客さまは、大いに助かるはずです。そして、それについての解決策を提示するのです。ただし、自分たちにできるかどうかは、別の話。まずは、あるべき姿を示すことです。そして、その内容をお客さまと合意し、次に、自分たちができることを示す、あるいは、できないことは、他社を紹介するという考えもあります。とにかく、大切なことは、お客さまの「困った」を解消することなのですから、これは間違えなく、お客さまも喜んで頂けるはずです。これ示せることもまた、ひとつの強みと考えてみてはいかがでしょうか。
特定のサブ・システムとSI事業者の特定の担当者が、相互依存関係にあり、それぞれに切り離せない関係担っている現実。これは、一定期間の業務量は確保されるでしょう。しかし、システムの統廃合や刷新が、広がりを見せる昨今、そのサブ・システムが、不要になれば、業務がなくなるという脆弱さを併せ持っています。
このサブ・システムと人との依存関係を断ち切り、その背景にあるスキルやノウハウをうまく標準化し、サービスや製品にすることができれば、これは大きな強みとなはずです。このような強みは、現場に深く関わっているからこその強みです。また、しっかりとした実績とスキルに裏打ちされたものです。大手企業には、容易にまねのできないものになるはずです。
ある特定のお客さまについて、このような取り組みを進めてゆくと、多くの点で他のお客さまの「困った」や「してほしいこと」と共通していることに気付く場合があります。ならば、それを整理し、他の部門やお客さまに提案する材料としてみてはどうでしょうか。これは、紛れもない、「強み」になるはずです。これは、必ずしも新たな強みを一から創造することや育成することではありません。既存のスキルやノウハウを整理し直し、それを「見える化」する取り組みなのです。
どんなすばらしい強みが潜在的にあっても、それを見えるものにしなければ、武器には使えません。だからこそ、このような取り組みを通じて、自らの競合優位を、言葉として、図表として、絵として、明らかにする必要があります。そして、見える化された自らの強みは、提案する人の自覚と自信をも引き出してくれるはずです。
「うちには、これといえる強みがありません・・・」、「なかなか、大きな案件がとれないんです・・・」と嘆く前に、まずは、こんな取り組みをされてみては、いかがでしょう?
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