「プロジェクトが予定通りいかなくなりそうで、気が重いんです。」
入社三年目の彼女は、営業としてがんばっている。まだまだ発展途上ながら、意欲だけは誰にも負けないという気概。今回のことも、真摯にお客様に向き合っているからこそ、自分で何とかしなければと、思い悩んでいるようだった。
そんな彼女の相談に、「お客様に正直に言っちゃいなさい」と伝えた。
「この案件は、すでに受注したものだよね。だったら、お客様もこれを成功させるしかないんじゃないかなぁ。確かに売り込むときは、駆け引きの相手だったかもしれないけど、今となっては同じ仕事の同士じゃないか。お客様に同士として正直に現状を伝えること。そして、一緒になって解決に協力してほしいことを伝えてみてはどうだろう。まずはそれが最初じゃないだろうか。」
「もちろん、現状を伝えるだけでは、お客さんだって、”いったいどういうことだ” となるだろう。だから、どうしたいか、どうすべきかをきちっと考え、その解決策とともにお客様に相談すること。そして、もう一つ大切なことがある・・・」
そして、次のように続けた。
「あなた自身が、なんとしてでもやり抜く覚悟であることを、心の言葉でしっかりと語りかけること。その覚悟を合わせて伝えることができなければ相手の協力を引き出すことなんてできっこない。できる?」
彼女の目に、決意が光っていた。
「完全無欠のプロジェクトなんか、ありえないよ。トラブルなんて、大なり小なり必ずある。それはお客様だって知っている。大切なことは、トラブルと向き合う姿勢だと思う。トラブルから逃げず、真剣に考え、なんとしてでもやり抜く。その姿勢を示し、行動を起こすこと。だからといって、すべてが解決するという保証はない。しかし、お客様の協力を得ることができれば、成功の確率もぐっとあがるはず。」
「もうひとつ大切なことがある。それは、自分で何でもやってしまおうと思わないこと。お客様は、あなた個人に、このプロジェクトを依頼したわけじゃないよね。あなたは、プロデューサーとして、会社の代表者としての役割を担っていると考えるべきだ。だから、どんどん社内に働きかけ、組織の知恵を引き出すことだと思う。社内への売り込みもまた、あなたの大切な仕事だと心得ておくべきだよ。」
そして、こういう話もした。
「解決策を探るとき、注意すべきは、自分たちにできることを前提に考えないこと。何ができるかではなく、何をすべきかを考える。つまり、あるべき姿というか、事態に対処する最適解を作ること。そして、それを実現する筋道を次に描く。その順番を間違えないようにね。」
彼女は、次のように答えてくれた。
「自分でなんとかしなきゃって、考えていました。それじゃあだめなんですね。大切なことは自分のことじゃなく、お客様のことなんですね。お客様のために何をすべきか。そして、自分だけで何とかしない。そうですよね。私みたいな若造にできるわけないですよね。」
気になったので、次のように補足した。
「勘違いしてほしくないことがある。あなたはこのプロジェクトにおける会社の代表であり、プロデューサーであり、その点においては、若造かベテランかは関係ない。それはプロとしての責任だ。その点においては、他人に頼るのではなく、自分の責任として全うすることだと思う。しかし、自分だけですべてが解決できないことも事実。大切なことは、なんとしても解決すること。だから、社内の知恵、社外の協力、つまり、解決にベストな布陣をあなたが描き、その人たちの協力を引き出し、それをとりまとめる。それがあなたの役割なんだと思う。あなたは成功の請負人だ。あなたの役割と周りの役割、そのことをしっかりとわきまえなくちゃいけない。」
営業という仕事をしていると、お客様にいいことを伝えたい、そうやって信用してもらおうと思ってしまう。そして、ポジティブトークがつい先行してしまう。しかし、それでは結果として、お客様に、うさんくささや不信感を与えてしまうことにもなりかねない。
ポジティブなことを伝えることは簡単だが、ネガティブなことを伝えることには、勇気がいる、エネルギーがいる。だからこそ、相手の心に深く突き刺さる。それが、お客様の成功であり、幸せを考えての言葉ならば、お客様も真摯に受け止めてくれるはずだ。
彼女は、きっとこのトラブルを収集するだろ。そして、自らの手で成長の実感をかみしめることになるだろう。
ネガティブトークを誠実にお客様に伝えること。その勇気が、お客様との絆を強めることになる。大変なことである、勇気のいることである、苦しいことである。だから成長の糧となる。そんな気持ちで向き合ってみてはどうだろう。そんな気持ちで向き合えば、みんなが振り向いてくれるはずだ。