「新規事業を考えろと言われても、そう簡単に儲かるビジネスなんて思いつきませんよ。いったい何から手をつければいいのか・・・」
こんな愚痴とも、相談ともつかない話を伺いました。彼は、四月から、新しい組織の責任者を任され、社長からこのミッションが託されたそうです。
この会社は、あるERPパッケージ・ソフトウェアの販売、導入には定評がある会社です。しかし、大手企業での導入は一巡し、同じ商品を扱う参入企業も増えたことから競合が厳しくなり、例え受注できても利益率は、どんどん下がる傾向にあるそうです。
同席したメンバーからこんなアイデアが示されました。
「これまでのお客様を深掘りして、適用範囲を拡げ、追加の仕事を増やしてゆくというのはどうでしょう。」
「これまで、お客様の関連会社にはアプローチしてこなかったので、そういうところに話を持って行くのはいいかもしれませんね。」
「中小企業にも使えるようにテンプレートを整備して、導入のコストを下げて、売りやすくすると言うのは、どうでしょうか。」
このようなやり取りを聞きながら、少し口をはさませて頂きました。
「なるほど、皆さんのおっしゃっていることは、確かに売上増加に貢献するかもしれません。でも、それって、皆さんに期待されていることでしょうか。それは、そのパッケージを担当している事業部が、当然やるべきことであって、皆さんの役割ではないと思いますよ。」 「皆さんの役割は、これまでにお付き合いのないお客様を、新しいサービスや商品で開拓することじゃないんでしょうか。」
自分たちが扱っている「モノ」にこだわり、その延長線上で考えれば、どうしてもこんな議論に陥ってしまいます。
「こう考えてみてはいかがでしょうか。皆さんは、この製品については、たいへん多くの導入実績をお持ちですよね。そして、ERPに関するノウハウも相当に持っていらっしゃるはずです。そこで、この製品とノウハウを切り離して考えてみませんか。」 「今扱っている製品は棚に上げ、これまで蓄積したノウハウをビジネスにすることを考えてはどうでしょうか。」 「例えば、中堅あるいは中小なら、今の商品は高すぎて導入をためらうはずです。ならば、オープン・ソースのERPを担ぎ、そのサポートを皆さん自身が保証してはどうでしょう。それをAmazonなど、実績のあるクラウドサービスで動かし、その運用も一括して引き受けてあげればどうですか。そのノウハウは全てあるはずです。」 「既存のお客様でも、費用の面で関連会社には導入できないというところがあったんじゃないでしょうか。ならば、そういうところの取りこぼしもなくなる可能性がありますよね。新規ばかりでなく、既存のお客様からのビジネス拡大にも貢献できるはずです。」
「モノ」にこだわるあまりに発想を縮めていないでしょうか。「モノ」と「ノウハウ」あるいは、「モノ」と「スキル」を一体と考えず、個別の価値と考えてはどうでしょうか。
こんな例もあります。
その企業は、品質の高いシステムの開発には定評がありました。そのための開発標準や手順は、しっかりと整備されています。しかし、SIの案件単価は下がり、利益率も下がる中、新規事業についての相談を受けました。そこで、こんな話をしました。
「自分たちの開発標準を商品にしてはどうですか。つまり、そういう開発を内製化したいというお客様にスキル・トランスファーするビジネスです。」
自分で自分の首を絞めるような話ですが、お客様が求めているのなら、需要はあるわけです。しかも、こちらに売り物があるわけですから、ビジネスは成立します。
SIに固執するなら早晩ビジネスは厳しくなるのは目に見えています。ならば、SIとノウハウを切り離し、それを商品化するという発想を持てば、新たなビジネスになるはずです。
内製化と言ってもお客様のエンジニアの絶対数は少なく、全てを内部でまかなうことはできません。だから、内製化を支援すれば、そのノウハウがお客様の標準となり、結果として、スキルを提供した会社に優先的に仕事をお願いすることになるはずです。
新規事業と言っても、全く何もないところから考えることは、容易なことではありません。しかし、今のビジネスを「モノ」と「ノウハウ」に因数分解し、「ノウハウ」を起点に新しいビジネスを考えるならば、現実的な答えが見えてくるかもしれません。
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