202X年、八ヶ岳南麓に広がる雄大な自然の中に、「8MATO(やまと)ベース」が静かに佇んでいる。ここでは、かつて行われていたシステム開発とは一線を画す、AIエージェントを活かしたシステム開発が行われている。
プロローグ:かつての開発現場
かつてのシステム開発現場では、エンジニアたちが夜遅くまでコードを書き、手作業でテストや運用管理業務に追われていた。オフィス内に響くキーボードの音、うずたかく積み上げられたバインダーの山、進捗会議や上司への報告、そしてリリース前の徹夜作業…。これらは、かつての日常であり、今では遠い記憶と化している。
第1章:アイデアの誕生と覚醒
プロダクトオーナーの藤崎は、次世代のシステム開発プラットフォーム「Tsunagu」を構想するにあたり、これまでとは違う新たな道を模索していた。そこで、彼は最新のAIアシスタント「イマジン」と対話を始めた。
「イマジン、ユーザーが求めるシステム開発プラットフォームのあるべき姿について、知見を貸してくれ。」
イマジンは、豊富な市場データと過去の事例、最新の技術動向を瞬時に解析し、直感的なインターフェース、リアルタイムコミュニケーション、さらにはAIがユーザーの行動を先読みして開発を支援する仕組みを提案した。アイデア出しや技術的な裏取り、システムの概要、詳細な機能要件、非機能要件、制約条件、想定されるリスク、システム構成図やデータフロー図などを瞬く間に描き上げ、実際に動作するデジタル・モックアップを作成した。かつては、これらに何日、いや何ヶ月も費やしていた。
藤原は、世界中にいる関係者一同を招集し、モックアップを前に、改善点や新たなアイデアなどについて議論することにした。彼らは、イマジンが提示するドキュメントやモックアップをリアルタイムで共有しながら、意見を述べ合うことができる。イマジンも、この議論に参加し、出てきた意見をもとにドキュメントやモックアップをすぐに作り直す。そんな作業を繰り返し、最初にリリースするサービスのイメージを確定させることができた。
第2章:アジャイルな開発サイクルの進化
かつてのアジャイル開発では、人間のエンジニアたちが週単位でタスクを分担し、各自の作業を手動で進めながら、朝のスタンドアップミーティングで情報を共有していた。しかし、いまは、システム開発の主体は人間ではなく、複数の高度なAIエージェントたちが自律的に連携しながら作業を進める、いわば「AIチーム」による全く新しい開発サイクルへと進化した。人間はこのAIチームの活動を常に監視し、検証する役割に徹するのみとなる。
1.自律AIチームによる常時稼働
リアルタイムモニタリングと自律運用
従来の朝一番のスタンドアップミーティングは、もはや不要となった。代わりに、AIエージェントたち(「コーディウス」、「イマジン」、「セントリー」、「オプティマ」など)が、24時間体制でお互いのタスク進捗やシステム状態をリアルタイムに共有しながら、分単位、あるいは時間単位のマイクロスプリントで作業を進める。各エージェントは、担当領域に応じた役割(コード生成、テスト実行、デプロイメント、セキュリティチェックなど)を自律的に遂行し、AI間の連携でプロジェクト全体の最適化を図る。
2.分刻みのマイクロスプリントによる動的タスク管理
瞬時のタスク計画と割り当て
人間が集まって議論することなく、AIエージェントは過去のデータ、リアルタイムの状況、そして市場の変動情報を解析し、タスクの優先順位を自動で決定。新たなタスクや変更要求が発生すると、その都度、数分単位でスプリントプランが自動更新され、最適なエージェントに即座にタスクが割り当てられる。これにより、計画と実行のギャップがほぼゼロとなり、迅速な対応が可能となった。
3.AI同士による自動コード生成と共同編集
瞬時のコードドラフト生成
AIエージェント「コーディウス」が、各機能の仕様に基づいて即座に初期コードのドラフトを生成する。生成されたコードは、他のエージェントと連携しながら、最適化や拡張が必要な箇所が自動的に検出され、リアルタイムで修正提案が行われる。
共同編集プロセス
複数のAIエージェントが同時にコードベース上で動作し、各エージェントの専門分野(例:アルゴリズム最適化、セキュリティ強化、UI改善など)が統合され、まるで一つの生きたシステムとして機能する。これにより、従来の人間による手作業の修正や調整が不要となり、開発速度が飛躍的に向上する。
4.シームレスな自動テスト&フィードバックループ
自動テストの即時実行
生成されたコードは、その場で自動テストパイプラインに投入され、ユニットテスト、統合テスト、セキュリティチェックがほぼリアルタイムで実行される。テスト結果は、AIエージェント「セントリー」や「オプティマ」によって瞬時に解析され、問題があればその場で修正案が提示され、必要な変更が自動反映される。
分単位のフィードバック
エラーの検出から修正完了までが、従来の週単位から分単位へと短縮。これにより、短時間での高頻度な繰り返し作業が可能となり、システム全体の品質と安定性が大幅に向上し、リリース前のリスクが最小化される。
5.人間は監視と検証の役割に徹する
監視ダッシュボードによる状況把握
人間の担当者は、専用の監視ダッシュボードを通じて、AIエージェントチームの動向やプロジェクト全体の進捗、テスト結果、セキュリティ状態などをリアルタイムで確認する。
検証と最終判断
各マイクロスプリントの成果物や自動生成されたコードは、人間の専門家によって検証され、必要に応じた微調整や最終的な承認が行われる。人間は、クリエイティブな意思決定や倫理的判断、そして突発的な状況に対する柔軟な対応を担い、AIチームが安全かつ効果的に稼働していることを保証する。
このように、アジャイルな開発サイクルは、もはや人間が直接コードを書いたり作業を行ったりするのではなく、複数のAIエージェントが自律的に連携し、開発、テスト、デプロイメントを分単位で実行するものへと進化している。人間は、その監視と検証を通じて、最終的な品質保証と戦略的な意思決定に専念することで、革新的なシステム開発の未来を切り拓くことができる。
第3章:本番リリースとその驚くべき転換
数週間にわたるリアルタイムのマイクロスプリントを経て、藤崎とそのチームは遂に「Tsunagu」の本番リリース日を迎えた。リリースは、クラウド上のコンテナオーケストレーションシステムによって、瞬時に世界中へ展開された。リリース直前、AIエージェント「セントリー」がシステム全体の最終チェックを実施し、かつて人間が手作業で行っていた運用管理業務を完全に自動化した。
「全システム、グリーンです。リリース開始を宣言します。」
セントリーのアナウンスがバーチャル会議室に響くと、チームはその変革のスピードと正確さに驚嘆した。新サービス「Tsunagu」は、ユーザーの期待に応える形でスムーズに稼働し、初日から数多くの好評を獲得した。
第4章:進化し続ける運用と新たな日常
本番リリース後も、「Tsunagu」はAIエージェントの絶え間ない監視のもと、日々進化を続けている。かつては人間が手作業でログ解析やシステム監視、障害対応を行っていたが、今では監視エージェント「オプティマ」が24時間体制でシステムを守る。異常を検知すると、即座に自動リカバリプロセスが起動し、システムは常に最適な状態を維持する。
さらに、ユーザーからのフィードバックは瞬時にAIアシスタント「イマジン」に伝達され、次のマイクロスプリントの改善案として迅速に反映される。運用中に蓄積されるログやユーザー行動のデータは、クラウド上のデータレイクに集約され、将来のニーズを予測するための貴重な学習資源となっている。
エピローグ:未来への航海と変革への驚嘆
ある静かな夕刻、藤崎は8MATOベース内のモニタリングダッシュボードを見つめ、過去の記憶にふけった。
「ほんの数年前、我々は夜遅くまでコードを書き、手作業で運用管理に追われた…。今では、AIの力でこれらの工程が数分、あるいは瞬時に完了するなんて、あの苦労が嘘のようだ。」
その一言には、過去の苦労と劇的な変革への驚き、そして未来への大きな期待が込められていた。
「Tsunagu」によって、かつて人間がすべてを担っていた開発と運用の世界が、AIの革新によって、これまでとはまったく違う姿に変わった。プロダクト・オーナーとユーザー、そしてエンジニアたちをつなぐ新しいスタイルのエコシステムであり、常に変化と進化を続ける新たな開発現場を描き出してくれたとも言えるだろう。
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皆さんは、この物語をどのように受け止めましたか。あり得ない、突飛だ、滑稽だと感じられたでしょうか。それとも、あり得る話しだと思われたでしょうか。
もちろん今の段階で、このようなことはできません。しかし、いまから2年ほど前の2022年11月に登場したChatGPTは、AIと人間との日常使う言葉での対話を実現しました。そして、日常言語で何をしたいかを伝えれば、プログラム・コードを書いてくれる道を開きました。これをきっかけとした生成AIの急速な技術発展とシステム開発への応用は、いまやここに描いた未来図を実現する道筋を確実に示しているように見えます。
このような世界の到来がいつになるかは私にもよく分かりません。ただ、技術的な観点だけから考えれば、5年もすれば、できてしまうのではないかと思います。もちろん、このような世界を受け入れ、活かすのは人間ですから、容易に受け入れられない人たちは少なからずいるでしょう。そう考えると、このような未来が当たり前になるまでに、10年くらいはかかるかもしれません。
「何年後にこうなるか」は予測できないとしても、このような未来図が描く世界の到来は間違えありません。ならばそんな時代に備えるべきは、当然です。
また、この未来図でも描いたように、クラウド、アジャイル、DevOpsは前提になります。AI駆動開発はこのようなモダン開発との組合せで、その効果を存分に発揮します。
これを丁寧に言えば、「AIでコード補完をしてくれるコードエディター」を使えば、ウォーターフォール開発での生産性は上がります。しかし、それは「プログラムを、QCDを守って作り納品する」ことが目的の場合でしか有効ではありません。その先にあること、すなわち「いち早くビジネスの成果を手に入れる」「変化に俊敏に対処する」ということが、これまでにも増して求められる時代では、もはやモダン開発以外の選択肢はありません。AI駆動開発がここに加わることで、ますますこの目的を極めることができます。そう考えれば、この未来図が描く世界を目指す動機があるわけで、突拍子のない話しではないのです。
レガシー開発のままで、AIを活用し「コード補完で生産性が上がります」というのは、とても陳腐な位置づけになってしまいます。例えば、人間の飛脚が手紙(テキストメッセージ)を運ぶというビジネス・モデルを変えることなく、自分の足で走ることから自転車やバイクを使う、さらにはGPSを持たせて、いま飛脚がどこにいるかを分かるようにするといった話しと同じです。そんなことをしなくても、テキストメッセージならメールやSNSで十分ですし、その方が、安くて早くて確実なわけで、飛脚に頼る必要はありません。
「ウォーターフォール開発のままでAIを使うこと」は「飛脚に自転車を使わせGPSを持たせること」と同じで、滑稽極まりない話です。
いまのやり方が、これから何年続くのだろうかと思いを巡らしても意味はありません。いずれにしても飛脚など使わない世の中になるわけです。ITベンダーやSI事業者は、この前提に立ってAI & モダン開発に移行するためのシナリオを描く必要があります。
残念ながら「自分がいるうちはいままでのやり方を変えたくない」と、このシナリオに抵抗する人はいると思います。特に、自分の過去の栄光や今の役割が失われてしまうことに危機感を持つ中高年の人たちはすくなくなでしょう。そういう人たちが、このようなことを口にすることはなくても、沈黙の抵抗勢力となるかもしれません。特に、そういう人たちが、管理職であり、経営者であるとすれば、極めてやっかいです。表向きは「AI時代の到来をビジネスの変革のきっかけにしよう」と言うかも知れませんが、「急ぐ必要ない」「慎重に進めよう」「まずは世の中の動きを見極めよう」と抵抗するかも知れません。
手遅れにならないうちに、この未来図の現実を真摯に受け止め、次のシナリオを描き、実践することを決心すべきだと思います。
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