私は、最新のITトレンドやビジネス戦略について、人に伝えることを生業にしています。ITソリューション塾は、そんな私のやっていることを凝縮した研修パッケージで、毎週2時間×11週で、最新トレンドとビジネス戦略を学びます。
講師には、トップレベルの実践者にも務めて頂き、彼らが向きあう生々しい「いま」と、実務や実践のノウハウや勘所、そして教訓を伝えてもらっています。
「分かりやすく本質を伝える」
講義を行う上でのモットーです。そのためには、ものごとから枝と幹を切り分けて、「幹」がなにか、つまり本質が何かを説明することを心がけています。
「分かりやすく」のために心がけていることは、「たとえ話」です。なじみのある日常のものごとやできごとに例えることを心がけています。両者に共通するところに本質があります。身近な出来事をたとえ話は、本質を理解する上で、とても効果的です。
例えば、「AIエージェント」とは、「ポケットに入った有能な専属秘書」です。自分のこれまでの行動やこれからの計画を全て把握し、思考様式も理解し、先回りして、世話を焼いてくれる頼れる存在。何をしたいかの目標を伝えるだけで、自分に代わって一切の作業をこなし、時には試行錯誤して、確実に目標を達成してくれます」というようなものです。
ものごとの本質が分かれば、自分たちの「あるべき姿」を描きやすくなります。その「あるべき姿」が決まれば、自分たちにふさわしい、具体的なHow Toつまり手段を見つけることが容易になります。
手段は、状況に応じて様々なバリエーションがあります。そんな中から、自分の状況に最適な手段を選ぶことは容易なことではありません。また、手段の巧拙が過度に意識されてしまい、それをすることが目的化してしまうリスクも高まります。結果として、目指すべき「あるべき姿」を見失うことにもなりかねません。だからこそ、「枝葉」を徹底してそぎ落として、「幹」すなわち、「本質」を素っ裸にすることで、原理原則を知り、「あるべき姿」とそこに至る「手段」を分けて考えられるように心がけています。
もちろん、手段についても、本質の理解に役立つのであれば、積極的に紹介しています。例えば、クラウドの本質の1つとして重要なキーワードに、「IaC(Infrastructure as Code)」があります。ITインフラストラクチャの構築・管理・プロビジョニングを自動化するための手法です。従来の手動による設定作業の代わりに、インフラの構成や設定をコードとして記述し、それを実行することでインフラを構築・管理することができます。これにより、ITインフラの構築や運用を自動化でき、効率化やヒューマンエラーの回避、変更管理にともなう課題を回避することができます。
そんなIaCが何かを具体的に「感じてもらう」ために、ITインフラの構築を実演しているのが、このチャートです。
生成AI(この時は、ChatGPT-4o)を使い、「Azure上でIaCツールであるAnsibleを使い、仮想マシンを立ち上げるためのコード」を書かせました。このような設定を何時間も掛けて手作業で行っているエンジニアにとっては、ほんの数十秒で同様のことができてしまう実演に、驚かれるようです。このデモによってIaCとは何かを直感的に理解できます。また、これに生成AIを使うと、いまの自分が仕事が置き換えられてしまう「いま」の現実に驚き、強烈な印象として、記憶に留めてくれるはずです。
しかし、講義や研修にできることは、ここまでです。学んだことを成果につなげるには、本人が実践するかどうかです。
残念な話しを紹介しましょう。ある地方IT企業の団体で、話をさせて頂いたときのことです。その話しを聞いた人たちから、次のようなコメントを頂きました。
「とても分かりやすい話で、腹落ちしました。」
翌年、ある講演で、前年に話しを聞いて頂いた方にお目にかかりました。その後の進展を伺ったところ、「なかなかできなくて」というお話でした。そんな体験を幾度となくしています。
話しを「理解できた」としても、多くの人はここで留まっています。これを成果に結びつけたければ、とにかくやってみて感じることです。「体験による実感」なくして、実践には結びつきません。
先のIaCの実演を見て、「すげ〜」と驚いてそのままの人がいる一方で、講義を聞きながらその場でやってみる人もいます。このようなマインドセット、あるいは行動習慣があればこそ、実践知が育まれ、使える知識となるのです。
ITソリューション塾の講師にアジャイル開発やDevOpsの実践者がいます。並の実践者ではありません。多くの企業で事業の立ち上げを成功させ、世界的な人材育成プログラムや資格認定制度の制定にも関わり、世界中で読まれる書籍の著者でもあります。
「やってみなければわかりません。」
彼は、そう言って次のようなたとえ話をしてくれます。
「芋虫が見る世界と蝶が見る世界はまるで違うはずです。蝶が芋虫に、自分の見ていること、感じていることを説明してもきっと伝わりません。蝶になって、はじめて、蝶の語ることが、体験を通じて、実感として分かります。アジャイル開発やDevOpsを、本当の意味で理解するにはそれしかありません。」
別の話ですが、次のような質問を頂くことがあります。
「うちの会社の幹部は、頭が固くて、いままでのやり方を変えることが、なかなかできません。どうすれば、彼らを変えられるのでしょうか。」
私は、次のように答えています。
「まずは、あなたができることから、始めてください」
自分だけで、あるいは、自分の組織やチームで、できることがあるはずです。自らできることを実践し、その成果を見せればいいのです。
批判もあるし、しばらくは人事評価も下がるかも知れません。しかし、正しいとであれば、成果が伴います。そして、共感者も次第に増えていきます。その数が一定の閾値を超えたとき、組織全体が動き始めます。このような行動が、「彼らを変える」最も現実的で有効の手段です。
ある企業で、社長も含む経営幹部の会議があり、DXについての話をしたことがあります。先方の会議室に伺って、話をしたのですが、受付で持ち込むPCの機種とシリアル番号のチェックを求められました。
実は、この会社には以前にも伺ったことがあり、その時は始業前で受付が不在でした。そこで守衛室を経由して入館したのですが、その時はPCのチェックはありませんでした。
何のための「PCチェック」なのでしょうか。しかも、まったく徹底されていません。チェックし、記録に残した情報は、どのように管理され、使われているのでしょうか。
ここからは推測ですが、この建物は、もともとはデータセンターでした。いまはオフィスとして使われています。データセンターの当時は、PCを外部から持ち込むという行為が特別だった時代で、セキュリティの観点から、このようなルールが必要だったのかも知れません。しかし、もはや意味をなくした過去のルールが、見直されることなく、疑問にも持たれず、そのまま続いてきたのでしょう。ついでながら、スマホやタブレットのチェックはありませんでした。
そんな「御社での実体験」を経営幹部の前で話したら、苦笑いされました。変革とは、このような「もはや意味のないことを洗い出して辞めること」から始める必要がありますと伝えました。
デジタルが当たり前の時代になって、意味のないこと、不便と感じること、おかしいと感じることを辞めることから始めなくてはなりません。そうやって、いまの時代にふさわしい仕事のやり方を追求することです。その手段として、デジタルを使えば、「はやく、やすく、うまく」できます。ましてやお客様のDXに貢献しますなどと言っているのなら、まずは、そんな自分たちの取り組みから始めるべきでしょう。その実感とノウハウこそが、お客様が一番求めていることではないのかと伝えると、誰もが深く頷いていました。
それから半年ほど経って、再びその会社を訪れたとき、このルールはそのままでした。ついでながら、この企業のホームページには、いまも「お客様のDXの実践を支えます」と書かれています。
実践して感じることから始める
考えるのはその後です。頭で考えて答えを出すのではなく、行動して感じて、そこから考える。テクノロジーの進歩が早く、将来の予測できない時代で、新しいことや変革に取り組もうとするのなら、このようなやり方が最善ではないかと思います。
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