営業は儲けようとしてはいけない
営業が何よりも大切にしなくてはならないことは、次の一点に尽きるでしょう。
「いかなる状況にあっても、必ず数字を達成すること」
景気が悪くなった、お客様の業績が悪くなった、担当者が替わってしまった。できない理由は、いくらでもあります。そんな状況にあっても、知恵を絞り、人のつながりを拡げ、新たな解決策を見つけて、何としてでも数字を達成する。そんな数字への執着心こそが、営業という仕事の根源です。
私が、新卒で入社して間もない頃に、当時の上司に言われたことがいまも頭に残っています。
「営業の人格は数字だ」
けだし名言だと思います。どんなに人としていいヤツでも、数字を達成できない営業は、営業としての人格は、低いということです。営業という仕事の本質を思い知らされました。
だからと言って、何をしてもいいのかということにはなりません。30年近い営業人生の中で、私は次の3つを見つけることができました。
- 営業は、儲けようとしてはいけない。お客様に儲かってもらいましょう。
- 営業は、説得してはいけない。お客様の「あるべき姿」を語りましょう。
- 営業は、お願いしてはいけない。お客様からお願いされるようになりましょう。
営業は、儲けようとしてはいけない。お客様に儲かってもらいましょう。
お客様はあなたの商材を買いたいわけではありません。自分の課題を解決したいだけです。自社の商材は一旦棚上げして、お客様が儲かるための「最善」は何かを徹底して追求することです。結果として、その案件がなくなっても、お客様との信頼関係は深まり、必ず次の機会には、ご相談を頂けます。そんなお客様が沢山いれば、案件には困ることはありません。
営業は、説得してはいけない。お客様の「あるべき姿」を語りましょう。
人は誰しも他人に指図されたくはありません。こうすべきだ、ああすべきだなんて、言われるとうんざりします。たから、お客様が、「こうなりたい」というイメージ、つまり「あるべき姿」を想い描き、それを伝えるのです。そこに、お客様の想いと一致させることができれば、お客様は自らそこへ向かって動き出します。結果として、お客様は、あなたの案件獲得に尽力してくれます。あなたを信頼し、自分たちの夢を託してくれます。
営業は、お願いしてはいけない。お客様からお願いされるようになりましょう。
説明や交渉のスキルがあっても、知識が無ければ使いものになりません。相談され、お願いされることもありません。製品やサービスの差別化だけで、お客様を魅了することは、容易なことではありません。お客様の課題解決や「あるべき姿」に行き着く筋道を示す教師になることです。それができれば、営業からお願いしなくても、お客様からお願いされるようになります。
これができれば、売り込む必要はありません。案件は向こうからやって来ます。数字は、結果としてついてきます。これができるようになるための土台が、知識力です。
営業力は知識力
日頃お世話になり、信頼している教師や医者に、「こうしなさい」と言われたならば、言われたとおりにしようとするはずです。それは、自分にはない知識を持ち、自分ためを思っての発言だからです。
- お客様が知らないことを教えてあげる
- お客様が悩んでいることに解決の筋道を示してあげる
- お客様と一緒に考えて最善策へと導いてあげる
営業もまたお客様の教師として、この役割を果たせば、お客様も従ってくれます。
お客様に取っての最善に自社が関わることができなくても、それを正直に伝えるべきです。これができてこそ信頼関係が築かれます。この絆があれば、例えこの案件が取れなくても、必ずまた相談してもらえます。そんなお客様が沢山いれば、案件は、向こうからやって来ます。結果として、数字はついてきます。
自社の製品やサービスについての知識、業界や顧客についての知識、テクノロジーやビジネスについての知識など、幅広い知識、すなわち常識や教養が営業力の本質です。営業力を鍛えたければそんな知識力を磨き、つねに最新状態にアップデートしておくことです。
提案書を作るにも、お客様との対話や交渉をするにも知識がなければ、中身のないものになってしまいます。プレゼンテーション・スキルや交渉術を磨いたとしても中身がなければ、輝かせるものはありません。
では、知識はどのようにすれば身につけることができるのでしょうか。それは、営業という仕事にプライドを持つことです。
- お客様の成功のためなら何でもするという覚悟。
- 与えられた数値目標を絶対に達成するという信念。
- 自分やっていること、あるいは扱っている製品やサービスが大好きだという想い。
このような気持ちや意識を持つことがプライドです。砕けた言い方をすれば、「おまんまを頂くために、最高の仕事をする!」との覚悟を持つことです。
プライドが、知識への貪欲さの源泉です。「成功者がやっている学習法」や「こんな学びの習慣を身につけよう」など、ライフ・ハック的な情報が巷にあふれていますが、学ぶことへの貪欲さなくして、このようなものは何の役にも立ちません。
プライドが、関心や好奇心を生みだします。新しい言葉が現れれば、「これはなんだろう?」と興味をかき立てます。そんな貪欲さこそ、知識力を高める源泉です。
「これは、仕事には役に立たたないだろう、関係ないな!」なんて考えることはありません。役に立つかどうかは、それを知らなければ、分かりません。表面的な解説や、通り一遍の解釈、思いこみで切り捨てしまうと、ますます情報が入らなります。そんな習慣が、知識を手に入れる入口を狭めてしまいます。そんな縮小均衡の悪循環を絶つには、圧倒的な知識で、お客様の教師になるとのプライドを育むことです。
多くの「営業研修」の内容を見ると、営業プロセススや交渉力、提案書の書き方やプレゼンテーションといったお決まりのアイテムが並びます。確かに、知識をうまく使うためにはこのようなスキルは必要です。しかし、知識がなければ、そんなスキルも使いようがありません。
「営業だから技術的なことを知っている必要はない」と決めつけてはいないでしょうか。それは、エンジニアやコンサルの役目だと割り切ってはいませんか。お客様を正しい方向に導き、お客様の成功を願うのであれば、営業はお客様の良き教師や医師であるべきです。実装はエンジニアに任せても、営業には、お客様の「あるべき姿」を示し、道筋を照らす役割があります。そのために必要なのは幅広い常識や教養であり、それを駆使してお客様の良き相談相手になれば、案件は向こうからやって来ます。
共創でビジネス・チャンスを手に入れたければ知識力を磨け
最近「共創」という言葉をよく目にします。「共創」とは、お客様と一緒に新しい価値を創り出す取り組みです。つまり、業務の知識を持つお客様とITの知識を持つ営業が、お客様と徹底して対話し、新しいビジネスの可能性を探り、ビジネス・チャンスを生みだすことです。「知識力」が無ければ、「共創」はできません。
他社も同じ製品やサービスを扱い、オリジナルな商材であっても、お客様から見れば、一長一短です。また、「DX」だとか「変革」だとかという言葉が、盛んに使われるようになり、お客様も何をすればいいのか分かりません。
そんなお客様に、「あなたの課題やテーマを教えて下さい。そうすれば、最適なソリューションを提供します」なんて言おうものなら、あなたの信頼はガタ落ちです。「課題やテーマが分からないから、教えて下さい、一緒に考えて下さい」という期待に応えなければ、案件獲得はできません。
これからますますコンサルやエンジニアと営業の境目が曖昧になります。お客様の教師として、お客様の「あるべき姿」を示し、そこに至る筋道を示せなくては、案件が獲得できない時代になろうとしているのです。
エンジニアの価値や効率を高めるのも営業の知識力に因るところは少なくありません。例えば、ある大手SI事業者で、エンジニアの稼働率が高すぎて提案活動に支障をきたしていることが問題になっていました。調べてみると、営業がお客様の話を理解できず、お客様からの話があれば直ぐにエンジニアを連れてゆくので、エンジニアの稼働率が上がっていることが分かったのです。また、行ってみるとそのエンジニアの専門外であったり、そもそも技術的な議論以前の話しであったりすることも多く、エンジニアの稼働率は上げていました。営業に知識がないのでお客様とまともに話ができない、ビジネス・チャンスをものにできない典型のような話しです。
製品情報や技術情報の提供、見積や契約などの営業事務はネットが代替してくれるようになります。ちょっとした相談事であれば、生成AIが気の利いたアドバイスをしてくれるようになるでしょう。そこに営業の役割はありません。
営業は、お客様の成功のために、持てる知識を駆使して、何をすべきかを考え、お客様の未来をデザインし、お客様ととことん語り合い、答えを一緒に作り上げてゆくことが役割となります。知識力無くして、そんなことはできません。
営業の自信は知識力が与えてくれる
自信は、信頼の土台です。その自信の源泉は知識力です。
- どんな質問をされても、その意図を正しく理解できる。
- 相手の問いに的確に答えられる。
- 分からないことは分からないとはっきり言える(何が分からないのかさえ分からないというのでは、話になりません)。
自信とは、こういう態度をとれることです。お客様は、そんな営業に相談したいと思います。教えて欲しいと思います。そういう関係を築くことができれば、売り込みやお願いは必要ありません。向こうから相談されるようになります。
そのためには、冒頭でも述べたように、儲けようと思わないことです。自分たちの商材を一旦棚上げし、お客様の課題を解決するには、お客様のやりたいことを実現するには、どうすることが最善の策なのかを、徹底して考え抜くことです。そして、お客様と議論することです。当然、自社の製品知識だけでは、その答えは得られません。広く世の中の常識から答えを導くしかありません。
お客様は、あなたの会社の製品やサービスを使いたいのではありません。自分の課題を解決したいのです。そんなお客様の気持ちに真正面から向きあい答えを出すことこが、お客様からの信頼を勝ち取る唯一の方法です。その結果として、自社の商材が売れなかったとしてもたいしたことではありません。
自信を持って、堂々と自分の考えをお客様にぶつけ、徹底して議論する。そんなお客様とこんな関係を築ければ、案件に困ることはなくなります。沢山のお客様とこんな関係を築ければ、案件に困ることはなくなります。これこそが最強の営業の「あるべき姿」だと思います。
【まもなく受付終了】次期・ITソリューション塾・第44期
次期・ITソリューション塾・第44期(2023年10月4日[水]開講)の募集をまもなく締め切ります。参加をご希望の方は、至急ご連絡ください。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、1年も経たずにで、IT界隈の常識が一気に塗り替えられました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せています。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きな転換点を迎えています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
以上のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 期間:2023年10月4日(水)〜最終回12月13日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日)18:30-20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 特別補講 *講師選任中*
詳しくはこちらをご覧下さい。
書籍案内 【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版
ITのいまの常識がこの1冊で手に入る,ロングセラーの最新版
「クラウドとかAIとかだって説明できないのに,メタバースだとかWeb3.0だとか,もう意味がわからない」
「ITの常識力が必要だ! と言われても,どうやって身につければいいの?」
「DXに取り組めと言われても,これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに,何が違うのかわからない」
こんな自分を憂い,何とかしなければと,焦っている方も多いはず。
そんなあなたの不安を解消するために,ITの「時流」と「本質」を1冊にまとめました! 「そもそもデジタル化,DXってどういう意味?」といった基礎の基礎からはじめ,「クラウド」「5G」などもはや知らないでは済まされないトピック,さらには「NFT」「Web3.0」といった最先端の話題までをしっかり解説。また改訂4版では,サイバー攻撃の猛威やリモートワークの拡大に伴い関心が高まる「セキュリティ」について,新たな章を設けわかりやすく解説しています。技術の背景や価値,そのつながりまで,コレ1冊で総づかみ!
【特典1】掲載の図版はすべてPowerPointデータでダウンロード,ロイヤリティフリーで利用できます。社内の企画書やお客様への提案書,研修教材などにご活用ください!
【特典2】本書で扱うには少々専門的な,ITインフラやシステム開発に関わるキーワードについての解説も,PDFでダウンロードできます!
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。