「最近、新しい技術が目白押しで、ついていけません。」
IT企業に勤める、50歳くらいの管理職の方が、こんな話しをされていました。謙遜でおっしゃったのかもしれませんが、私には、本音に聞こえました。
経験が乏しく、知識も浅い新入社員が、「ついていけない」と嘆く気持ちは、仕方がないと思います。ただ、彼らの言葉には、「何とかしたい!どうすればいいでしょうか?」という問いかけが含まれています。しかし、件の管理職の言葉には、諦めのような悲哀を感じてしまいした。
ITに限った話しではありませんが、これまでに変化のなかった時代はありません。これからもまた変化し続けるでしょうし、新しいことは生まれ続けます。それに「ついていけない」と感じるのは、自然なことだと思います。
しかし、この現実に、「何とかしたい」ともがくのか、「どうしようもない」と諦めるのかは、大きな違いです。もし、後者であるならば、もはやビジネスの現場で役割を果たしていくことは、難しいと悟るべきでしょう。
新しいことなんか分からなくても、課長になった、部長になった、という支えで生きられるかも知れません。しかし、課長や部長は、その会社の中だけで通用するものです。その会社に長くいたからという理由が大半でしょう。外に出てしまったら何の役にも立ちません。
100年人生のいまの時代には、会社が自分の一生を面倒見てくれることは、望めません。いまの会社で定年を迎え、あとはのんびり好きなことをやりますよ!という身分であれば、難しく考えることもないと思います。しかし、もうひと頑張りしなくてはならないと考えている人にとっては、いま自分の知識やスキルを謙虚に受け止める勇気を持たなければ、一生の後悔が残ると思います。
冗談のような話しですが、以前、IT企業に勤める50代の部長さんから、転職のご相談を請けたことがあります。その方に次のような質問をしました。
「ご自身の得意分野、あるいは、専門分野は、何ですか」
すると彼は次のように答えました。
「管理職です」
いやいや、そんなことではなくて、業界の知見とか、得意とする技術分野とか、どこに行っても通用する専門スキルとか、そんな話を聞きたかったわけですが、そういうものはないと言うことでした。
「あの有名な〇〇〇プロジェクトを成功させたのは私です。」
「〇〇〇プロジェクト」が、有名なのは、この方の中での評価でしかありません。それをマネージャーとしてやり抜いたというのは、自分の人生の金字塔なのかも知れませんが、世間に通用する評価にはなりません。
「困難が予想された〇〇〇プロジェクトを成功させるために、これまでとは違うプロジェクト管理の独自メソッドを考え、さらに、その後の実践で検証して、完成度を高めることができました。」
そんな話なら、大いに惹かれますが、「やりました」という体験を自分のバリューだと考えているとすれば、世間を知らなすぎるように思います。
「体験」は感覚であり思い出です。そんな体験から教訓を得て、普遍的な規則や法則、特徴を見つけ一般化、普遍化したものが「経験」です。その経験を使って、ものごとの進め方を整理して、他の人が確実に成果をあげられるように形式化したもの、つまり「手順やマニュアル」として、誰もが使えるカタチにしたのがメソッドです。
メソッドまで昇華させることは容易なことではありませんが、せめて経験にまで高めなければ、世間に通用するバリューにはなりません。
「〇〇〇プロジェクトを成功させた」は、「体験」です。同じ状況に遭遇することは二度とありませんから、その体験を「経験」へと高めていなければ、それは本人のバリューにはなりません。
また、冒頭の「新しい技術についていけない」というのも、「以前はついていく努力をしていたけど、いまはそれを辞めました」ということなら、いまの自分の職業分野での人生を放棄していることになります。
「世間の変化が速くて、複雑化しているから、いまの常識に追いつけない」という人もいます。「追いつけない」のではなく、「追いつこうとしない」のではありませんか。これは、「理由の付け替え」です。世間の常識から後れをとっている理由を、自分ではなく世間に付け替えているだけのことです。
「世間の変化が速くて、複雑化しているから、いまの常識に追いつけない」というのは、誰も同じです。だからこそ、少しでも何とかしようと、必死になります。それでも時代の変化に太刀打ちはできないわけで、だからこそ何とかしようとくらいつきます。そんなイタチごっこを私たちは続けています。それができなくなったときは、ビジネスマンとしての「あがり」なのかもしれません。
そういう時は、誰にでもやがては訪れます。それをいつにするのかは、自分で決めるしかありません。しかし、「あがっている」のに、そんなことはないと受け入れられない人もいます。自分の得意分野/専門分野を「管理職です」と答えてしまうのも、このような背景があるのかも知れません。
ただ、「管理職」としての経験を活かし、「心理的安全性の実践的スキルを身につけました」や「メンタルに悩みを抱える人たちに対処するノウハウを磨きました」、「営業目標の達成のための営業プロセス管理モデルを確立しました」ということなら、それは素晴らしいバリューです。
ビジネスマンだけが人生の全てはありません。いろいろな人生の選択肢があります。それを見つけるためにも、自分の「いま」を、勇気を持って、素直に、そして少し厳しく受け止めて、自分が何者かを棚卸しするのは、年齢を問わず必要なことだと思います。特に、次のステージを考えなければならない50代前後の人たちは、そろそろ真剣に、向きあうべきかもしれません。
自分の人生は、自分にしかデザインできません。そのためにも、まずは自分を客観的に、そして正直に受け止めることが最初だと思います。過去の栄光やいまの会社の役職でなく、社会の基準で、自分を自分で評価してみることです。
そのためには、次のような行動が、役に立つと思います。
- 【つながり】会社の同僚やお客様以外に沢山の人のつながりを持つこと
- 【独学】会社用意した研修だけではなく、本を読み、自腹で研修に参加すること
- 【アウトプット】自分の考えや学んだことをプログや勉強会の場で発信し、世間に晒して、他人の評価を得ること
会社というひとつの価値観や常識を共有する世界から、多様な価値観や常識、ロールモデルに接し、自分の視野を広げることです。そして、「自分のいま」を世間という高い視野から、捉え直してみることです。
いろいろと試してみることも大切です。ChatGPTが話題になっているのなら、実際に使ってみることです。DXが大騒ぎなら、DX本を何冊も読むことです。あの人の話がためになると聞いたならYouTubeでその人の話を聞いたり、講演に参加したりするのもいいでしょう。
とにかく、頭の中だけで答えを出すのではなく、自らの行動と体験を通じ、世間の常識を感じることが、自分を客観的に評価する前提になるように思います。
「これまで会社のために頑張ってきたのだから、会社もそれに報いてくれて当然だ。」
もう、そんな時代ではありません。「会社人」として頑張ってきた「報い」は、その会社でしか通用しない課長や部長、役員という肩書きでしかありません。次のステージでの選択肢は、限られたものになるでしょう。一方で、会社というフィールドで「社会人」として、世間にも通用する価値を磨いてきたのなら、その選択肢は、自分の意志でいろいろと作り、選ぶことができます。
別にビジネスマンだけが人生の全てはありません。いろいろな選択肢があります。それを見つけるためにも、まずは自分を棚卸しする機会を持つことは、必要だと思います。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第44期
次期・ITソリューション塾・第44期(2023年10月4日[水]開講)の募集を始めました。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、1年も経たずにで、IT界隈の常識が一気に塗り替えられました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せています。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きな転換点を迎えています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
以上のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 期間:2023年10月4日(水)〜最終回12月13日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日)18:30-20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
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詳しくはこちらをご覧下さい。
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【特典2】本書で扱うには少々専門的な,ITインフラやシステム開発に関わるキーワードについての解説も,PDFでダウンロードできます!
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。