日本人は、学ぶ意欲があるのに何かの障害があるわけでもなく、「学ばないぞ」と主体的に選んでいるわけでもなく、「なんとなく」学んででいない。
「リスキリングは経営課題・著者:小林祐児科/新光社新書・2023」の一節です。著者は、その理由として、次のように述べています。
実際に日本の現場で目にするのは、キャリアの主導権を会社に握られつつも、「なんだかんだ、そこそこ楽しく」働いている多くの会社員の姿です。すごく楽しんでいるわけではないけれど、とはいえ居酒屋で愚痴っていれば解消するくらいの不満しかかかえていない。業務命令移動やジョブ・ローテーションも「飽きが来ない」「新しい人との出会いがある」「成長できる」ものとして捉えている人も多いのです。−中略−「学ばなさ」を考えるにあたって目を向けるべきは、強調されがちな「受け身な態度」ではなく、この「中途半端さ」そのものです。(同書・98ページ)
著者は、データを駆使して、この解釈を裏付けています。とても腑に落ちる解釈だと思います。
この本を読む前から、私は、新入社員研修で、次のような話をしています。
あなたたちは、いままだ「ただ飯」を喰らっているだけです。会社の業績に何ら貢献していないのに、給料だけをもらっている。だからこそ、このままではまずい、はやく仕事を覚えて、まともに仕事ができるようになりたい。そういう想いがあるからこそ、いまこうして、学ぶことへの意欲を持っています。しかし、2〜3年もすると、積極的に学ばなくても、経験の蓄積もあって、そこそこ仕事ができるようになるし、それを楽しめるようにもなります。そうなると、これに満足して、自ら学ばなくなってしまう人もいます。
こういう生き方も人生の選択肢ですから、ダメだと言うつもりはありません。ただ人生の選択肢を増やしたい、キャリアを伸ばしていきたいと考えるなら、どのような状況にあっても学ぶことを辞めてはいけません。
学び続けるための3つの力
私は、彼らに、学び続けるために、次の3つの力を養うことをすすめています。
独学力
企業研修への投資は、新入社員のときの研修と役職者になるときの研修に重点的に配分されます。それ以外は、会社が与えてくれる学びの機会に頼ることができません。特に、ITに関わる仕事をしていると、求められる知識やスキルは、めまぐるしく変わります。会社は、それを丁寧にフォローしてくれません。与えられる学びに空白の時間が生まれます。その時に独学しなければ、どんどんと時代に取り残されてしまいます。そうならないためには、本を読む、社外の研修や勉強会に参加するなど、自分で積極的な学びの機会を作るしかありません。それができるかどうかで、社会的な格差は大きく広がります。
つながり力
自分の価値は他人が決めるものです。自分ではどうしようもありません。他人との関わりをもつことで、自分価値が築かれてゆきます。社会には、多様な価値観があります。沢山の人とつながることで、価値観の多様さを知り、様々な視点で自分が評価され、自分の社会における評価も見えてくるものです。
同質の価値観が支配する社内だけでは、このような多様な評価の視点を持つことはできません。自分の会社以外にも沢山のつながりをもち、会社の基準ではなく、社会の基準で自分を評価する機会を積極的に作ることです。会社のそこそこの基準ではなく、社会の高度な基準でいつも自分を評価することで、自分の物足りなさや未熟を感じつづけることができます。そうすれば、学び続けることの意欲も維持されます。
アウトプット力
「人は教えることによって、最もよく学ぶ」
ストア派の哲人セネカの有名な言葉です。アウトプット力を鍛えれば、インプット力もまた鍛えられます。個人的な経験ですが、講義や講演の度に、あるいは、こうやってブログを書こうとすると、自分の知識の不足や理解の曖昧さに気付かされます。人にわかりやすく伝えようとすればするほど、自分の知識の不足や体系的な整理ができていないことを思い知らされます。だから、アウトプットの機会を増やすほどに、その何倍ものインプットと思考が必要であり、これこそが学びのブースターとなるのです。
新しいテーマにチャレンジすれば、あるいは、専門家ではない人たちにむけてアウトプットしようとすれば、そのハードルは高く、インプットは増え、新しいことを考えなくてはなりません。
「伝えることで満足するな、伝わることで満足せよ。」
私の大切にしている言葉です。自分の頭から外に出すことで、他人の評価にさらされ、相手に伝わらなければ、評価は得られません。アウトプットをしようとすれば、自己満足の知識や言葉ではなく、世の中で使える、評価される知識や言葉に磨きをかけることに、自ずと迫られるのです。
「やる気スイッチ」の入れ方
上記のような行動を起こすための「やる気スイッチ」は、どうすれば入るのでしょうか。
「やる気スイッチ」を入れるには、まずは始めること、そして、続けることです。
ある大学の心理学の先生に「やる気スイッチ」の入れ方を尋ねたら、こんな答えが返ってきました。「カタチから入れ」ということです。
私は、新入社員研修で、毎朝1時間、自分のために時間を作るようにすすめています。何をするにも、まずは時間をつくらなければ、何もできないからです。何をするかを先に考えるのではなく、まずは、毎朝1時間の習慣を作ること勧めています。出社前に会社の近くのカフェで過ごす。リモートワークなら、朝食の前に机に向かう。やり方は、人それぞれですが、とにかく仕事のための時間ではなく、「自分のための時間」を作ることです。
毎朝、歯を磨かなければ気持ち悪いと感じるでしょうし、出そうになくてもトイレに座らなければ、落ち着かないと感じるのと同じです。そんな習慣を身につけるには、幾ばくかの「やり続ける」努力は必要です。ただ、何を学ぶべきかを考えてから行動するよりも、ずっと容易に始めることができるはずです。
時間があれば、何かをやらなくてはなりません。そこで、自分が興味のあること、ワクワクすることに取り組めばいいのです。学びの成果は、そこに掛けた時間と相関します。だからこそ、頑張って、無理して、興味のないことをやるのではなく、やりたいことをやれば、長続きします。それを続けてゆくうちに、結果として、決心が固まります。
私が20代前半の頃、毎日早朝から夜遅くまで仕事をしていました。時には徹夜し、土日も出社することは当たり前の時代でした。当時流行したCMに「24時間戦えますか?」というのがありましたが、私は胸を張って「もう、やっています」と言える生活をしていました。
その頃の私は、仕事はまともにできず、先輩にはついていけず、何とかしなくてはと焦っていました。そこで、仕事が始まる前、つまり、先輩達に「これをやっておけ」と言われ、忙しくなる前に、なんとかして学びの時間を作ろうと決めました。
当時は、IBMに務めていたので、製品マニアルを読む、新聞や雑誌を読む、本を読む、とにかく、何とかしなければとの焦りから、そんな時間を持つ習慣が身につきました。その習慣は、いまでも続いています。学ぶ内容は変わりましたが、その時間は、人生の財産になりました。
そんな時代を賛美するつもりはありません。この習慣を手に入れたきっかけをご紹介したに過ぎません。皆さんも、是非、きっかけを見つけてもらえればと願っています。。
歳のせいもあり、いまは日の出前に目が覚めます。おかげで毎朝2〜3時間は、学びの時間になりました。まったく頑張っていないし、努力していません。歯を磨くように、トイレに座るように、この時間を過ごしています。こういうのが、「やる気スイッチ」が、入っている状態と言えるのでしょう。
ChatGPTが登場し、数ヶ月で世界は大きく動きました。特にIT業界に与える影響は、ビジネスのあり方そのものを変えてしまう勢いです。このような、大きな、そして急激な変化は、よくあるわけではありません。しかし、このような変化が起きる兆候は、何年も前からありました。それに気付いていた人は、「ついに来たか」と驚きつつも歓喜し、どう活かせばいいのかと、楽しみながら向きあっています。一方、このような変化に気がついていなかった人たちにしてみれば、青天の霹靂です。いや、この変化の意味そのものに、いまだ気がついていない人もいるでしょう。
人も企業も成長のチャンスは、変化を積極的に受け入れて、それを味方に付けることです。学びは、そんな変化を受け入れ、楽しみ、活かすためにも欠かすことができません。
「なんとなく学んでいない」
これもまた人生の選択です。しかし、いま起きつつあるドラスティックな変化に対処して、自分のキャリアを向上させたいと望むのであれば、「なんとなく学ばない」は、もはや適切な選択にはなりません。
「なんとなく学んでいない」
もしそうであるのなら、そんな自分を素直に受け入れることから始めてはどうでしょう。そして、何を学ぶかではなく、まずはカタチ(時間を作る)から始めることです。私がそうであったように、それは、大きな人生の財産になります。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第43期(5/17開講)
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、ここ数ヶ月で、IT界隈の常識が一気に塗り替えられた気がします。スマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せているようです。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きく動こうとしています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
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そんな皆さんには、きっとお役に立つはずです。
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【募集開始】新入社員のための「1日研修/1万円」・最新ITトレンドとソリューション営業
最新ITトレンド研修
社会人として必要なデジタル・リテラシーを手に入れる
ChatGPTなどの生成AIは、ビジネスのあり方を大きく変えようとしています。クラウドはもはや前提となり、ゼロトラスト・セキュリティやサーバーレスを避けることはできません。アジャイル開発やDevOps、マイクロ・サービスやコンテナは、DXとともに当たり前に語られるようになりました。
そんな、いまの常識を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くし、不安をいだいている新入社員も少なくないようです。
そんな彼らに、いまの常識を、体系的にわかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと、この研修を企画しました。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
ソリューション営業研修
デジタルが前提の社会に対応できる営業の役割や仕事の進め方を学ぶ
コロナ禍をきっかけに、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。営業のやり方は、これまでのままでは、うまくいきません。案件のきっかけをつかむには、そして、クローズに持ち込むには、お客様の課題に的確に切り込み、いまの時代にふさわしい解決策を提示し、最適解を教えられる営業になる必要があります。
お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけではなく、お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業に求められる能力です。そんな営業になるための基本を学びます。
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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。