「営業力を磨きたい!」
営業であれば、このようなことを考えているひとは多いはずだ。では、どうすれば、営業力を磨くことができるのだろうか。
営業力の本質は「知識力」
私はそう考えている。自社の製品やサービスについての知識、業界や顧客についての知識、テクノロジーやビジネスについての知識など、幅広い知識、すなわち常識や教養が営業力の本質だ。営業力を鍛えたければ、そんな知識を積み上げ、最新状態にアップデートしておくことだ。その重要性は、ますます高まっていくだろう。
そのために、次の3つを心がけるといいだろう。
- お客様の成功のためなら何でもするという覚悟(もちろん、倫理的に正しいことでなくてはならない)。
- 与えられた数値目標を絶対に達成するという信念。
- 自分やっていること、あるいは扱っている製品やサービスが大好きだという想い。
言わば自分の仕事に対するプライドを持つことだ。言葉を換えれば、「これでお金をもらっている」という自覚であり自負である。
プライドがあれば、そのプライドを満たすために必要な知識を貪欲に求めるだろう。その好奇心や執着心が、知識を身につける原動力となる。「学び方」についてのハウツー本やライフハック的なネットの記事を読んでも、学ぶことへの強い動機付けがなければ、それを実践しても長続きはしないだろう。
プライドがなければ、関心や好奇心が生まれない。新しい言葉が現れても「これは仕事には関係なさそうだ」とか、「難しそうだから」と省エネ機能を発動させて切り捨ててしまう。プライドがあればこそ、気になったら、とにかく調べてみるようになるだろう。そんなことの繰り返しが、知識を増やす。
役に立つかどうかは、それを知らなければ分からない。理解する前に表面的な綴りや人の評判、通り一遍の解釈で切り捨てしまうと、「知てるつもり」になってしまって、それで満足してしまい、知識のつながりが、絶たれてしまう。知識は、様々なものやことと関連付けることで、「理解」に至る。「理解」するとは、既知のことと結びつけることだ。例えば、難しい話しでも、自分にとって身近な事柄と結びつけた「たとえ話」を聞くと、「そういうことか」と納得するのは、このような理由からだ。
また、人は知っていることしか知ろうとしない。例えば、IT営業の研修で、「ARM(アーム/会社名)を知っているひとは手を挙げてください」と質問すると、手を挙げる人が少ないことに驚くことがある。当然、「ARM」に関連した情報も入ってこない。例えば、普段使っているスマホに搭載されているプロセッサーのほぼ全てがARMであること、スパコンの富岳に158,000個ものARMのプロセッサーが搭載されていること、IoTのためのプロセッサーの多くがARMであること、最新のMac BookのプロセッサーがARMであること、ARMの親会社がソフトバンクであることなども知らない。ITに関わる仕事をしている人間ならば、知っていておかしくないはずの知識なのに、「知らない」つまり情報を引っかけるインデックスないために、情報が入らないのだ。そんな繰り返しが知識の範囲を狭め、ますます知識が身につかない。そんな縮小均衡の悪循環を生みだしてしまう。
「情報の感度を高めたい」というならば、そのためのインデックスを増やすことだ。まずは、「知っていること」を増やすことだ。そうすれば、結果として情報の感度は高まる。
知っていることを増やすとは、いろいろな情報をむさぼるように集めることではない。むしろ、自分の専門を徹底して深めることだろう。例えば、営業であれば、営業という仕事を極めようとすることであり、担当するお客様やその業界、自分たちの取り扱っている製品やその背景にある技術、その動向などである。
自分の専門を深めるほどに、どうしても関連するまわりの情報が必要になり、情報の入口が拡がっていく。自ずと、「知っていること」が増え、情報の感度が高まる。
世間の「営業研修」では、交渉力や提案書の書き方、プレゼンテーションの方法といったお決まりのアイテムが並ぶ。確かに、知識をうまく使うためにはこのようなスキルは必要だ。しかし、その前提となる知識がなければ、使いようがない。プレゼンテーションがうまくても、中身が陳腐であれば、相手を惹き付けることはできない。だから、知識を増やさなければ、営業力は磨かれることはない。
また知識は、アップデートされなくてはならない。例えば、かつて「クラウド」とセットで考えるべきは「仮想化」だった。しかし、いまは「クラウド」とともに語られることばは「コンテナ」であり「マイクロサービス」、あるいは「サーバーレス」といった言葉だろう。かつて、ブロックチェーンは「Bit Coin」や「仮想通貨」だったが、いまなら、「Web3」、「DAO」、「DeFi」、「NFT」だろう。
お客様を正しい方向に導き、お客様の成功を願うのであれば、営業は、お客様の良き教師であるべきだ。実装はエンジニアに任せても、営業にはその筋道を作る役割がある。そのために必要なのは幅広い知識であり、それを駆使してお客様の良き相談相手となることだ。
最近「共創」という言葉をよく目にするが、これを案件にするためには、知識力を武器にしなければならない。つまり、業務の知識を持つお客様とITの知識を持つ営業が徹底して対話し、どうすればお客さまの価値を高められるかを探り、その方策を見出すこと。自ずとITの需要が生まれ、案件が生まれる。
DXについても同様だ。DXとは何をすることかを、業務の現場や経営者に教え、対話して、ITの需要を喚起する。IT部門を相手にした工数や物販のビジネスの伸び代が期待できないのだから、業務や経営での改革を促し、ITの需要を喚起し、営業の数字を作ることが、DX案件であろう。
また、エンジニアの価値や効率を高めるのも営業の知識力に因るところは大きい。例えば、ある大手SI事業者で、エンジニアの稼働率が高すぎて提案活動に支障をきたしていることが問題になっていた。調べてみると、営業がお客様の話を理解できず、お客様からの話があれば直ぐにエンジニアを連れてゆくので、エンジニアの稼働率が上がっていることが分かった。また、行ってみるとそのエンジニアの専門外であったり、そもそも技術的な議論以前の話しであったりすることも多く、これが、エンジニアの稼働率は上げ、生産性を落としていることも分かった。知識がないのでお客様とまともに話ができない、ビジネス・チャンスをものにできない典型のような話しだ。
製品情報や技術情報の提供、見積や契約などの営業事務はネットが代替してくれるようになる。そこに営業の役割はなくなってゆく。営業は、お客様の成功のために持てる知識を駆使して、お客様の未来をデザインし、お客様ととことん語り合い、答えを一緒に作ることが役割となってゆくだろう。そうやって、事業の現場から、ITのニーズを引き出す役割を担うという自覚こそが、営業のプライドだ。
「どうすれば、プライドを持てるようになるでしょうか。」
そんな疑問を持つ人もいるかもしれない。そう考えてしまうことこそプライドを持っていない証拠であろう。プライドは他人から与えられ、教えられるものではない。プライドがないのなら、まずは必至で仕事に打ち込むことだ。考えるのではなく、行動することだ。カタチから始めることだ。そうすれば、きっと営業という仕事がどのようなものかが見えてくる。そうすれば、プライドも高まっていくだろう。
【最終回】9月7日・新入社員のための「1日研修/一万円」
最終回・9月7日(水)募集中
社会人として必要なデジタル・リテラシーを学ぶ
ビジネスの現場では、当たり前に、デジタルやDXといった言葉が、飛び交っています。クラウドやAIなどは、ビジネスの前提として、使われるようになりました。アジャイル開発やDevOps、ゼロトラストや5Gといった言葉も、語られる機会が増えました。
そんな、当たり前を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くして、不安をいだいている新入社員も少なくないと聞いています。
そんな彼らに、いまのITやデジタルの常識を、体系的にわかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうというものです。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。