「提案力を身につけさせたい」
こんな話しをSI事業者の経営者から伺うことがあります。
お客様の求めるものが工数や製品からサービスへと変わり、意志決定者も情報システム部門から事業部門へとシフトしています。
情報システム部門にしか営業チャネルを持たない企業は、既存システムの保守や機能追加が大半を占め、新しい、そして大きな仕事を得ることができないでいます。そして、そのほとんどが「安い仕事」であり、頑張った割には儲けが少ないという現実を抱えています。
大手IT企業の下請けとなると、自分で案件をコントロールできないもどかしさもあります。幸いにも仕事はあるが、お客様のコスト削減要求をまるまる引き受けさせられることも多く、自らの努力による利益の拡大は難しいといったこともあるでしょう。
いまは稼働率が上がり、売上と利益が伸びている企業は少なくありません。しかし、その多くは「新しく自分たちで仕事を開拓した」からではなく「IT需要が上向いている」からであり、受身の業績向上です。景気は浮き沈みがあるので、このままのはずはありません。たぶん、ウクライナ戦争に端を発した世界経済の動きを考えれば、景気の低迷は避けられないでしょう。
このような状況を打開するには、新しいことを提案し、情報システム部門だけではなく、事業部門にもアプローチできる「提案力を身につけさせたい」となります。これは至極まっとうな考えではあるのですが、それでいまの課題が解決することはありません。
それ以前にやるべきことは、業績評価基準を変えることではないでしょうか。
例えば、AWSやAzureなどをベースに構築や開発、運用の需要を増やそうとすると、短期的には売上や利益の減少が伴います。多くのお客様が未だオンプレの現状であるとすれば、クラウドへの移行は技術的な問題以上に、情報システムの役割や存在意義、あるいは、彼らのアイデンティティにも関わることであり、この感情的課題をも解決しなければなりません。言うなれば、土着信仰の原住民をキリスト教に改宗させる必要があるわけで、これは価値観や生き方の問題であって、容易なことではありません。
そういうことをも乗り越えて、クラウドへの移行を進めても短期的な売上と利益は減少します。加えて運用は自動化され、開発のための方法もより生産性の高い手段へと移行するので、工数需要も減少します。大きな収益の支えとなっていた5年毎のリース更改に伴う需要も消滅することになります。
一方で、営業の業績評価基準が売上と利益であるとすれば、彼らが頑張れば頑張るほど、自分の業績の評価が下がり、出世から見放され給与やボーナスに関わる査定が下がることになります。これでは、提案力を身につけたいというモチベーションは生まれません。
「これからはクラウドやサービスのビジネスを伸ばしてゆかなければならない」
経営者は檄を飛ばすわけですが、業績評価基準は旧態依然のままです。言葉では「これからのあるべき未来」を語り、評価は「終わりつつある過去」のやり方を変えようとしません。このダブルスタンダードが現場の不信を増長し、さらにモチベーションを下げてしまいます。このような状況で提案力など身につくはずはありません。
スキルの向上や新たなスキルの獲得は、それがなくては生きてゆけないという生存欲求と不可分です。つまり、クラウドやサービスを売らなければ、自分は出世できないし、給与やボーナスが減ってしまうと言うので「ヤバイ、なんとか提案力を身につけなくては」という内発的動機付けがあってこそ身につくものです。そこに取り組まずに、論理的思考力、ドキュメンテーション力、対話力などのスキルを向上させようとしても、実践で使えば自分の生存が脅かされるわけで、身につくはずはありません。
このような研修に唯一価値があるとすれば、「息抜き」でしょう。会社のお金で、しかも公認で日常の仕事から離れて、いつもと違う脳みそを使います。そんな頭の遠足を楽しむことができることです。
「クラウドを売るための実践的なスキルを身につけさせたい。クラウドについての基本的な常識は教えたので、案件を引き出すコツや対話の方法、提案書の作り方など、実践的な能力を付けさせたいので、研修をお願いしたい。」
こんな相談を請けたことがあります。「クラウドについての基本的な常識」と聞いて、すこし突っ込んでみたくなりました。例えば、サーバーレスやFaaS、コンテナやマイクロサービスなどの最近の「常識」について聞いて見ると、初めて聞く言葉だといいます。さらに聞けば、既存のオンプレのマシンを仮想化し、IaaSへ移管するための工数を稼ごうという話しのようです。元々物理的なマシン販売や構築が売上に占めている割合は少ないので、クラウドへ移行しても、開発や運用は変わらないから、移行に伴う工数が新たな収益源となるので、「クラウドを売る」ビジネスをすすめてゆきたいというのです。
物理マシンとクラウドとではアーキテクチャーが変わってしまいます。例え同じ機能を実現できても、スループットやセキュリティ、アベイラビリティなどの非機能要件が同じようにはいかないこともご存じないようでした。お客様にとっては、何ら付加価値が生まれず、むしろ未知のリスクを抱え込むことになります。そこをどう解決するかを示さなくてはなりません。
そもそも、クラウドの本来の役割は、お客様のビジネス・スピードを加速することです。そうなると、開発や運用も含めて、それぞれのスピードを加速しなければ、全体のスループットはあがりません。つまり、アジャイル開発やDevOpsとクラウドは一体の取り組みとして考え、内製化も視野に入れなければ顧客価値は実現しません。そのためには、クラウド・サービスについての広範な知識とクラウド各社のサービスに精通していなければならず、それを使いこなす技術力も求められますが、既存のオンプレを前提にした技術力でなんとかなると考えているようでした。
短期的な売上や利益の減少も覚悟しなければなりません。クラウドを売るとは、自分たちの収益構造を変えてしまおうという取り組みです。当然、現場を動かすためには業績評価基準を変えなければ、戦略と行動を一致させることはできません。
このような「クラウドについての基本的な常識」をご存じないようでした。
提案力を強化するためには、自らの提案力を伸ばさなくては「ヤバイ」という現場の状況を作り出すことが最初です。それは、ITの新しい常識を正しく理解し、事業構造を転換してゆくことでもあります。そして、それに合わせた業績評価基準を作り、言行一致を実現しなければなりません。これは、経営者の役割であり営業現場の役割ではありません。
「営業の意識が足りない。スキルも不足している。」
だからうまくいかないというのは、経営者の常識と自覚の欠如でしょう。こんなことをしていては、優秀な人材は会社を離れていきます。事業の成長どころか、生き残りさえ難しくなってしまいます。
「難しいのは、新しい考えになじむことではなく、古い考えから抜け出すことだ。」
経済学者ケインズの言葉にあるように、これが一番難しいことです。自らの世界観を改めるよりも、現実を調整し自分たちに都合のいいように変えてしまうほうが楽だからです。つまり、事業構造に手を付けずに、現場の営業で何とかしようというのは、あきらかに間違っています。
現実に真摯に向き合わなくてはなりません。世の中は思っている以上に急速に変わってしまうことは、誰もが実感していることではないでしょうか。それを見越して、業績評価のやり方を変えることが、提案力を身につけるために、まずは取り組むべきことだと思います。
【募集開始】新入社員のための「1日研修/一万円」
社会人として必要なデジタル・リテラシーを学ぶ
ビジネスの現場では、当たり前に、デジタルやDXといった言葉が、飛び交っています。クラウドやAIなどは、ビジネスの前提として、使われるようになりました。アジャイル開発やDevOps、ゼロトラストや5Gといった言葉も、語られる機会が増えました。
そんな、当たり前を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くして、不安をいだいている新入社員も少なくないと聞いています。
そんな彼らに、いまのITやデジタルの常識を、体系的にわかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうというものです。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
デジタルが前提の社会に対応できる営業の役割や仕事の進め方を学ぶ
コロナ禍で、ビジネス環境が大きく変わってしまい、営業のやり方は、これまでのままでは、うまくいきません。案件のきっかけをつかむには、そして、クローズに持ち込むには、お客様の課題に的確に切り込み、いまの時代にふさわしい解決策を提示し、最適解を教えることができる営業になることが、これまでにも増して求められています。
お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけではなく、お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業に求められる能力です。そんな営業の基本を学びます。
未来を担う若い人たちに道を示す
新入社員以外の若手にも参加してもらいたいと思い、3年目以降の人たちの参加費も低額に抑えました。改めて、いまの自分とこれからを考える機会にして下さい。また、人材育成のご担当者様にとっては、研修のノウハウを学ぶ機会となるはずです。教材は全て差し上げますので、自社のプログラムを開発するための参考にしてください。