DXの難しさの理由は、既存事業が存在することです。実績を重ねた既存事業を変えることへの様々な抵抗が、DX実践の足かせになっています。
しかし、デジタルを前提に圧倒的なスピードを武器に、業界の枠を越えて、新たな競争原理を持ち込むデジタル・ネイティブ企業と同じ土俵で競合しなければなりません。そのためには、自らもデジタルを前提に既存事業のビジネス・モデルやビジネス・プロセスを作り直すしかありません。そんな事業や経営の変革が、DXです。
前回のブログで、このようなことを述べましたが、そんな取り組みを進めるには、1つの前提があります。それは、デジタル化ができていなければ、DXは実践できないことです。
DXは、上記にも述べたとおりですが、デジタル技術を駆使することだけではなく、事業の目的や経営のあり方を再定義し、あるいは、組織の振る舞いや従業員の考え方や行動様式、つまり企業の文化や風土をも変え、「ビジネスを変革」しなくてはなりません。しかし、そのためには、前提として、「デジタル化」は必須です。
日本語では、「デジタル化」は、ひとつの単語ですが、英語では、2つの単語で、使い分けられています。
ひとつは、「デジタイゼーション(digitization)」です。デジタル技術を利用してビジネス・プロセスを変換し、効率化やコストの削減、あるいは付加価値を向上させる場合に使われます。
もうひとつは、「デジタライゼーション(digitalization)」です。デジタル技術を利用してビジネス・モデルを変革し、新たな利益や価値を生みだす場合に使われます。
これら2つのデジタル化は、どちらが優れているかとか、どちらが先進的かなどで、比較すべきではありません。どちらも、必要な「デジタル化」です。ただ、前者は、「既存の改善」であり、企業活動の効率を高め、持続的な成長を支えるためのデジタル化です。一方後者は、「既存の破壊」であり、新たな顧客価値を創出し、圧倒的な差別化や競争優位を生みだすためのデジタル化です。
前者であれば、既存あるいは現状を基準に、「コストを30パーセント削減する」や「10日間の納期を5日間へ短縮する」といった目標値を設定し、そのための手段を考えます。一方後者は、「やってみなければ分からない」ので、試行錯誤を繰り返し、正解を探さなくてはなりません。
前者は、既存を前提に目標を設定して、取り組むことができますが、後者は、既存を逸脱し、新しいやり方を発見しなくてはなりません。
例えば、前者であれば、売上や利益などの目標を明確に定め、そこに至る課題を洗い出し、解決策を明確にして、計画を立て、その成果を数字で管理しなくてはなりません。後者であれば、自社に留まらない人のつながりを生むために「出島」を作り、好奇心と遊び心で、失敗を許容でき、試行錯誤を繰り返すことができる組織でなくてはなりません。定める目標も、顧客の支持や新たな市場の開拓などとなります。
どちらか一方ではなく、両者に取り組まなくてはなりません。
こういう「デジタル化」の前提なくして、DXを実践することはできません。つまり、「DXを実践する」とは、「ビジネスの変革」という、DXの「あるべき姿」を目指すしつつも、先ずその前提となるデジタル化の取り組みを積み上げてゆくことです。
例えば、ZoomやTeamsなどのWeb会議ツールは導入してリモートワークはできるようにはなったが、決済には紙の書類と捺印が必要なので、出社しなければならいというのは、「デジタイゼーション」さえできていないということです。このようなことでは、デジタル・ネイティブ企業のスピードに、到底及びません。
また、AIを駆使してインターネット上で新しい事業を始めたとしても、既存事業の変革とは無関係な独立、個別の事業であるとすれば、「デジタライゼーション」にはなりません。
Web会議ツールの導入やAIを駆使した独立事業に取り組むことに意味がないとか、価値がないとか言っているわけではありません。その先にあるDXを見据えた長い道のりの途中なのだとの自覚が、必要なのだと思います。
私は、SI事業者やITベンダーは、お客様のDXに直接関与することはできないと考えています。なぜから、DXは事業戦略、経営戦略であり、企業の文化や風土の変革ですから、外部の人間にできることではありません。お客様自身、すなわち経営者やその下で働く従業員が、自ら取り組まなければ、できることではありません。
だとすれば、SI事業者やITベンダーにできることは、デジタイゼーションやデジタライゼーションを支援することまでです。つまり、お客様のDX実践の基盤を固めることに貢献することではないでしょう。
「お客様のDXの実践を支援する」あるいは、「お客様のDX実践のパートナーになる」といった言葉をSI事業者やITベンダーのホームページでよく見かけますが、その真意のほどは、どうなのでしょうか。
私は、東日本大震災の後、ボランティアで何度も被災地に足を運びました。そして、「自分たちは支援者であって当事者ではない」という意識が大切だと気づきました。ボランティアの役割は、被災者が自らの意志で復興に努力し、自律することを手助けすることです。彼らにその自覚と意欲がなければ、ボランティアによる支援活動は、うまく機能しませんでした。
ボランティアの中には、俺たちが教えてやるから、こうしろ、ああしろと、迫る人たちもいました。まるで当事者です。そういうボランティアが受け入れられることはなく、地元の反発もありました。
一方で、自らの意志で復興に取り組む人たちは、ボランティアの力もうまく使い、震災をバネにして大きく成長した人たちもいます。
もちろん、SI事業者やITベンダーは、ボランティアではありません。ビジネスとして、商品やサービスを提供して、数字を上げなくてはなりません。ただ、それは、お客様自身が、事業を成功させ、業績を改善させようとの意欲と行動が前提です。ましてやビジネスの変革となれば、お客様の会社全体が、ビジョンを共有し、努力しなければなりません。そんな取り組みを支援するという立場であることを意識しておく必要があります。
SI事業者やITベンダーのDX事業、あるいはDX戦略とは、DXのあるべき姿を訴求し、お客様自らの意志で行動するために必要な支援を提供することでしょう。デジタイゼーションさええままならない企業には、そのための業務改革を助け、便利なツールを提供することかも知れません。デジタライゼーションで新しい事業に取り組む企業であれば、お客様の内製チームを技術力で支援することかもしれません。そうやって、お客様に応じた対応が必要なのだと思います。「DXとはかくあるべし」を押しつけることではありません。お客様自身が自らの意志で取り組むDX実践のための土台を固めることなのだと思います。
「この製品やサービスを使えば、DXが実現します」などと言うことは、恥ずかしいと思うべきです。DXのあるべき姿やお客様の現実を、客様と対話し、議論して、共有すべきです。製品やサービスの機能や性能を語るだけではなく、まさにこのようなDXの本質に向きあってこそ、真に「お客様のDXの実践を支援する」や「お客様のDX実践のパートナーになる」ことが、できるのだと思います。
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社会人として必要なデジタル・リテラシーを学ぶ
ビジネスの現場では、当たり前に、デジタルやDXといった言葉が、飛び交っています。クラウドやAIなどは、ビジネスの前提として、使われるようになりました。アジャイル開発やDevOps、ゼロトラストや5Gといった言葉も、語られる機会が増えました。
そんな、当たり前を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くして、不安をいだいている新入社員も少なくないと聞いています。
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コロナ禍で、ビジネス環境が大きく変わってしまい、営業のやり方は、これまでのままでは、うまくいきません。案件のきっかけをつかむには、そして、クローズに持ち込むには、お客様の課題に的確に切り込み、いまの時代にふさわしい解決策を提示し、最適解を教えることができる営業になることが、これまでにも増して求められています。
お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけではなく、お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業に求められる能力です。そんな営業の基本を学びます。
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