世の中がデジタル・トランスフォーメーションへ突き進む中、SIビジネスは、この時代にふさわしい対応を模索してゆかなければなりません。特に心得るべきは、お客様の課題やニーズを先取りし、お客様の未来を具体的に描き、お客様の取り組みを主導できなくてはなりません。そして、お客様と対等に議論し、お客様の「あるべき姿」を見つけ出し、お客様の事業の成果と自分たちのビジネスの成果を一致させなくてはなりません。
ITベンダーは、ITのプロとして、最新の技術を活かす方策も求められます。
- これまでできなかったことができるようになる
- これまで想像もできなかった劇的な改善が見込まれる
- これまでにはなかった新しい価値が生まれる
こんな可能性をお客様の事業に組み込む知恵が出せてこそ、お客様の良き相談相手となり、パートナーとして受け入れてもらえるのです。
そのためには、技術の機能や性能を伝えることではなく、このように使えば、業績が改善できる、あるいは、事業の成果を生みだすことができるというユースケースをわかりやすく伝えられなくてはなりません。
お客様が求めているのは、技術を使うことではありません。お客様と共に描いた「あるべき姿」を実現することです。だから常に社内外に広く目を向け優れた技術やノウハウを目利きし、それらを組み合わせることで、お客様の価値を最大にすることに全力を尽くさなくてはなりません。
もし、次のような対応をしているのであれば、これは大いに反省すべきです。
- 自分たちの「できること」でしか解決策を示そうとしない。
- 機能や性能については説明できるが経営や事業の成果にどのような貢献ができるのか説明できない。
- これからのテクノロジーやその可能性について分かりやすく説明できない。
- お客様が新しい方法論や見積を求めても旧来のやり方で提案しようとする。
- 新しい方法論やテクノロジーの適用を求めると保証できない、実績がない、時期尚早などのネガティブ・ワードで翻意を迫る。
新しいことへ取り組もうとするわけですから、何が成果なのかは分かりません。これまでのやり方がそのまま使えるとも限りません。だから研究や検討もしっかりと行う必要はあります。
しかし、何が正解か分からないわけですから、ある程度で踏ん切りを付けて、さっさとやってみることです。やってみて、確かめて、失敗から反省し、改善してゆく、そんなプロセスなくして、お客様の事業の成果につながる手立てを見つけることはできません。
また、やってみることで、思わぬ気付きも得られます。そのことが、新たなノウハウとなって、自分たちの価値を高めてゆきます。
そんなときに、ここに挙げたような応対をしているようでは、やがてお客様から愛想を尽かされてしまいます。
「挑戦に成功の保証はないが、成長の保証はある。」
そんな言葉を目にしたことがありますが、それを「きれいごと」と一蹴するか、「そうかもしれない」とやってみるかによって、お客様の態度も変わるはずです。それよりもなによりも、自分の見える世界が、変わってくるでしょう。
直ちに工数の需要がなくなるということはありません。ただ、作業工数に応じた労働力に対価を支払うというやり方は、自動化ツールやクラウド・サービスとの競合や人口の減少と相まって、収益の拡大を期待することができなくなります。
お客様のビジネスの成果への貢献に、対価を支払ってもらえるようなビジネス・モデルへ重心を移してゆかなければなりません。これは、日本の社会構造の変化やテクノロジーの進化がもたらす必然であって、逃れようがありません
また、工数需要そのものの内容が変わります。例えば、「コードを書く」や「テストする」といったことの多くはソフトウエアや機械に代替される範囲が拡がってゆきます。ローコード/ノーコード開発ツールや多くのクラウド・サービスは、そのための進化を加速しています。
一方で、ビジネスの変革を進めるための戦略の策定や企画、テクノロジーの目利きや組合せ、それを実現するための全体設計など、顧客価値を創出するための仕組みを作る上流工程に関わる人材は、これまでにもまして需要は拡大します。DX人材とは、このようなことができる人たちです。
短期的に工数需要がなくならないにしても、長期的に見れば工数需要に伸び代がないわけで、それに代わる新たなビジネス価値をお客様に提供できなくてはなりません。それが、お客様のビジネス・トランスフォーメーションの実現を支援することです。デジタル・テクノロジーを駆使して、事業や経営、ビジネス・プロセスやビジネス・モデルを根本的に変えてゆく、そんな取り組みに積極的に関わってゆかなければなりません。
本来、「DX/デジタル・トランスフォーメーション」とは、「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」の意味で使われています。「デジタルを前提にビジネスを変革すること」と言う意味です。「ビジネス」ということばが抜け落ちてしまったのは、2018年に経済産業省がリリースした「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」あたりかもしれません。
2004年にストルターマンが提唱した「デジタル・トランスフォーメーション」とは、異なる概念であることをはっきりさせるために、あえて「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」ということばを使ったのが、ガートナーやIMDのマイケル・ウエイドらです。
ストルターマンの言うデジタル・トランスフォーメーションは「デジタルは大衆の生活を変える」というような概念で、今後の研究へのアプローチや方法論を述べた内容でした。
これに対して、ガートナーらは、「デジタル・ビジネス」という切り口で、これから起こるビジネスの変革を説明しようとしました。それは、製品やサービスをデジタル化するだけでなく、デジタルを前提にビジネス・モデルを変革することを意味しています。
そんな、「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」が、「デジタル・トランスフォーメーション」に言い換えられて使われていることを、理解しておかなくてはなりません。
つまり、「ビジネスを変革すること」が、「DX」であって、デジタルを使うことではないのです。
「お客様のDXの実現に貢献します」や「お客様のDXパートナーになります」という、今風の看板を掲げているITベンダーが多いわけですが、ならば、お客様の「ビジネスを変革すること」にコミットする覚悟と自信はあるのでしょうか。結局のところ、いままでの延長線上に立って、工数やライセンスを提供することにつなげようと言うのなら、それは誇大広告と言わざるを得ません。
誤解なきように申し上げますが、「工数やライセンスを提供すること」が、間違っているわけではありません。それが、収益の肝心要なわけですから、それは真っ当な話しです。ただ、お客様の「ビジネスを変革する」ための「工数やライセンス」なのかということです。「DXはお客様のやることですから、そちらはお任せします。私たちは、その結果として、必要になった工数やライセンスの提供だけをやります」では、「お客様のDXの実現に貢献します」ていうのは、いささか都合の良い話しです。DXの看板を掲げるのなら、お客様の事業や経営にも関わる覚悟とスキル、そして、テクノロジーを事業の正解に結びつけるロジックを描く必要があるのではないかと申し上げているわけです。
いま自分たちは、お客様にどのような態度をとっているでしょう。お客様から、自分たちは未来に貢献できるパートナーだという信頼を得ているでしょうか。お客様からの挑戦を受けて立つ覚悟で、お客様との関係を築こうとしているでしょうか。
改めて自分たちをそんな目で評価してみてはいかがでしょう。そして、改めるべきは何かを具体的に考え、その対策を実行に移してゆくべきです。テクノロジーの発展が加速度を増すいま、一瞬の躊躇は大きな遅れとなることを覚悟しておく必要があります。
次期・ITソリューション塾・第39期(2022年2月9日 開講)の募集を始めました。
ITソリューション塾は、ITのトレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、そんなITに関わるカルチャーが、いまどのように変わろうとしているのか、そして、ビジネスとの関係が、どう変わるのか、それにどう向きあえばいいのかを、考えるきっかけになるはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
そんな皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 日程 :初回2022年2月9日(水)~最終回4月27日(水) 毎週18:30~20:30
- 回数 :全10回+特別補講
- 定員 :120名
- 会場 :オンライン(ライブと録画)
- 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000)
- 全期間の参加費と資料・教材を含む