私たちは、ソフトウェア開発の実践あるいは実践を手助けをする活動を通じて、よりよい開発方法を見つけだそうとしている。
この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。
プロセスやツールよりも個人と対話を、
包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
契約交渉よりも顧客との協調を、
計画に従うことよりも変化への対応を、
価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。
この「アジャイルソフトウェア開発宣言」は、従来型のソフトウェア開発のやり方とは異なる手法を実践していた17名のソフトウェア開発者が、それぞれの主義や手法についての議論を行い、 2001年に公開したものです。
これを、従来型のソフトウェア開発、あるいは、多くのITベンダーやユーザー企業の実際のソフトウエア開発に置き換えて、書き直すと、次のようになります(下線部が変更したところ)。
私たちは、ソフトウェア開発の実践あるいは実践を手助けをする活動を通じて、確立された開発方法を見つけている。
この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。
個人と対話するよりもプロセスやツールを、
動くソフトウェアよりも包括的なドキュメントを、
顧客との協調よりも契約交渉を、
変化への対応よりも計画に従うことを、
価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。
いかがでしょうか。なるほどと思いませんか(笑)。
ある中堅のITベンダーの方から、アジャイル開発ができる人材を育てたいので、相談にのって欲しいとのご依頼を頂きました。その方は、手法を研修で習得すれば、アジャイル開発ができるようになると考えられていたようです。
しかし、上記でもおわかりの通り、ソフトウェア開発に関わる価値観、あるいは、マインドセットを変えることなく、スクラムやXPなどの手法を習得しても、「アジャイル開発」にはならないことを理解しておくべきでしょう。
また、アジャイル宣言には、その背後にある12の原則も示されています。
私たちは以下の原則に従う:
- 顧客満足を最優先し、価値のあるソフトウェアを早く継続的に提供します。
- 要求の変更はたとえ開発の後期であっても歓迎します。変化を味方につけることによって、お客様の競争力を引き上げます。
- 動くソフトウェアを、2-3週間から2-3ヶ月というできるだけ短い時間間隔でリリースします。
- ビジネス側の人と開発者は、プロジェクトを通して日々一緒に働かなければなりません。
- 意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します。環境と支援を与え仕事が無事終わるまで彼らを信頼します。
- 情報を伝えるもっとも効率的で効果的な方法はフェイス・トゥ・フェイスで話をすることです。
- 動くソフトウェアこそが進捗の最も重要な尺度です。
- アジャイル・プロセスは持続可能な開発を促進します。一定のペースを継続的に維持できるようにしなければなりません。
- 技術的卓越性と優れた設計に対する不断の注意が機敏さを高めます。
- シンプルさ(ムダなく作れる量を最大限にすること)が本質です。
- 最良のアーキテクチャ・要求・設計は、自己組織的なチームから生み出されます。
- チームがもっと効率を高めることができるかを定期的に振り返り、それに基づいて自分たちのやり方を最適に調整します。
独断と偏見で要約すれば、次のようになるでしょう。
- システムの成果ではなく、ビジネスの成果を目指す。
- 変更要求を積極的に受け入れ、高速に対処する。
- 外部からの指示や管理をうけずに、自律したチームが、不断の改善によってQCDを最高に引き上げる。
これなどを見ても、手法の問題ではないことが分かるはずです。自分たちのビジネスのあり方そのものを見直さなければならないことを意味しています。
なぜ、このような考え方が必要かについては、以下の記事が参考になるはずです。
昨今のシステム開発に関わる最新のテクノロジーやサービスも、アジャイル開発、あるいは、これを含むDevOpsのトレンドを背景にしています。例えば、次のようなことです。
- コンテナ/コンテナ・オーケストレーション
- サーバーレス
- マイクロサービス・アーキテクチャー など
新しいテクノロジーやサービスもまた、その背後に、いまの時代の価値観があると言うことを理解しておかなければなりません。それらの機能や仕組み、使い方を勉強することは、大切なことではあるのですが、その背後にあるカルチャーや価値観にも目を向けなければ、それらを十分に活かすことはできません。
では、どうすればいいのでしょうか。私は、次の「5つの実践」を提案したいと思います。
最新のサービスを使ってみる
最新のテクノロジーは、クラウド・サービスやオープンソースで提供されるようになりました。ならば、お金をかけなくても、それらを使ってみることができます。また、これらは、何らかのカルチャーや価値観を反映したものなので、世の中でメジャーとなっているものを使うことで、それらを体験的に学ぶことになります。カルチャーや価値観は、本を読んで、人の話を聞いて学べるものではありません。自らが体験するしかありません。その意味でも、最新のクラウド・サービスやオープンソースを使うことには、大きな意味があります。
ビジネスで実践し試してみる
最初から大規模なシステムは難しいかも知れません。しかし、勉強のためだけではダメです。お金をもらい、お客様からのリアルなフィードバックを得られてこそ、実践的なノウハウが身につきます。絶対にうまくいく保証などありません。失敗のリスクも少なからずあるでしょう。だからこそ、血となり肉となるのです。
プロのコーチに学ぶ
自分たちだけで試行錯誤することを否定するつもりはありませんし、そういう経験があるからこそ、何が分からないかが、分かります。どうしても答えが出ないで悩んでいるとき、プロのひと言で、瞬時に解決することがあるのは、皆さんも経験があるはずです。そのためにもプロの助言を得られることは、とても価値のあることです。また、ビジネスの現場では、スピードが求められています。ならば、プロのコーチにお願いして、時間を買うことも意味があるでしょう。ただし、それが「本物」のプロであることが大切です。
社外のコミュニティや勉強会に参加する
ネットや書籍を逍遙することは大切ですが、実践的なノウハウは、実践者からしか学べません。特に新しいテクノロジーやサービスとなると、なおさらです。具体的な方法論もそうですが、そういう人たちの話す内容や感性に触れ、彼らの背後にある世界を知るためにも社外に積極に出て行くことです。同じ文化や価値観の社内世界に閉じこもっていては、新しい気付きや驚きには乏しく、成長の機会も限られます。
社内外に発信する
成功したことも失敗したことも、正直に発信することです。特に失敗からの学びは大きく、他の人たちにとっても大いに価値があります。発信するとは、人をつなぐ行為です。正直に真摯に発進し続けることで、価値観を共有できる人たちとの繫がりが生まれます。そういう「人脈」を育てることで、新しい時代のカルチャーや価値観が手に入ります。本来「人脈」とは、どれだけの人を知っているかではなく、どれだけの人に知られているかです。この人なら、あるいは、この人と一緒にと思ってもらえる自分を世の中に知らしめることです。
経営者の皆さんに申し上げたいのは、こういう従業員の取り組みを積極的に支援することです。そうすれば、新しい 時代に即したカルチャーや価値観が、自律的に育ちます。叱咤激励や危機感を煽る話しよりも遥かに効果的です。
もちろん、いまの仕事のやり方を変えたくない、護りたいというのなら、叱咤激励や危機感を煽る話しがいいかもしれません。そうすれば、新しい時代のカルチャーや価値観で仕事をしたい人たちは、転職をしてゆきますから、保守的な人たちだけが残ります。そうなれば、自律的に「従来のやり方」が、続けられてゆくでしょう。まあ、「従来のやり方」で、これからも収益が、あげられるのであればの話しですが。
次期・ITソリューション塾・第39期(2022年2月9日 開講)の募集を始めました。
ITソリューション塾は、ITのトレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、そんなITに関わるカルチャーが、いまどのように変わろうとしているのか、そして、ビジネスとの関係が、どう変わるのか、それにどう向きあえばいいのかを、考えるきっかけになるはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
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