テクノロジーが発展し、社会環境も変われば、競争原理は変わる。これまでうまくいっていたやり方があっという間に通用しなくなる。
加速するビジネス環境の変化、予期せぬ異業種からの参入によって、これまで苦労して築き上げた優位性を維持できる期間は極めて短くなった。だから、市場の変化に合わせて、戦略を動かし続けるしかない。このような状況を「ハイパー・コンペティション」と呼ぶ。まさにいま企業は、「ハイパー・コンペティション」に向きあっている。
この状況に対処し、企業の存続と成長を維持するには、圧倒的なビジネス・スピードを手に入れ、変化に俊敏に対応できなくてはならない。そのためには、デジタルを当たり前に使いこなし、その価値を最大限に活かすことができなくてはならない。それができる企業の文化や風土へと変革することをデジタル・トランスフォーメーション(DX)と呼ぶ。
当然、その取り組みは、お客様の価値を高めなくてはならない。お客様の事業の成果に貢献し、お客様の幸せを支えるものでなくてはならない。そんな、CX:Customer Experienceを高めることができなくては、ビジネスにはならない。
お客様が求めているのは、デジタルを使うことではない。世の中がデジタルによって、競争原理が変わり、ビジネス・スピードが加速するいま、何とかしなければならないという漠然とした危機感に対処することだ。
「このままではまずい、何とかしなければ大変なことになる。しかし、何をすべきかが分からない。」
そんなお客様に、何が課題か教えていただければ、解決策を提供しますというのでは、困ってしまうだろう。ならば、圧倒的な技術力を携えて、お客様と一緒になって、取り組むべきテーマを探索し、課題をあきらかにし、解決策を見つけ出すことだ。これを「共創」と呼ぶ。
一方で、DXは、自社の「存在意義=Purpose」を貫くためにも、欠かせない。
purpose beyond profit (企業の存在意義は利益を超える)
IIRC(International Integrated Reporting Council/国際統合報告評議会)の2018年の報告書のタイトルだ。IIRCは、企業などの価値を長期的に高め、持続的投資を可能にする新たな会計(情報開示)基準の確立に取り組む非営利国際団体で、業績などの財務情報だけでなく、社会貢献や環境対策などの非財務情報をも一つにまとめた統合報告(integrated reporting)という情報開示のルールづくりやその普及に取り組んでいる。
不確実性が高まる時代にあって、企業は利益を追求するだけでは生き残れない時代となった。ピーター・ドラッカーが語ったように「社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たす」ことで、自らの存在意義を追求し続けなければ、事業の継続や企業の存続が難しくなったからだ。だからこそ、経営者はpurpose beyond profitを問い続ける必要がある。
ハイパー・コンペティションの状況にあっては、同じビジネス・モデルやビジネス・プロセスを維持することはかなわない。競合の出現やテクノロジーの発展に合わせてダイナミックに変えてゆかなければ、CXの向上に貢献し続けることはできないだろう。だからこそ、ぶれることのない軸となる企業の存在意義を持ち続けなければならない。それがなければ、時代の潮流に翻弄され、市場や顧客は、その企業の存在を見失ってしまう。まさに、いまの日本企業が、かつての精彩を失ってしまったのは、そんな理由かも知れない。
これを放置すれば、ブランドは崩壊し、人々のマインドシェアも小さくなり、優秀な人材も集まらず、優れたサービスやプロダクトを生みだすこともできなくなり、事業を継続することは難しくなってしまう。だから、企業は、自らの「存在意義=Purpose」を貫かなくてはならない。
DXとは、そんな企業のPurposeを貫くための手段である。つまり、従業員が自らのPurposeを常に問い、CXのために努力する過程を通じて、やり甲斐を覚え、自己の成長の喜びを感じられるようになることだ。つまり、CXとともにEX: Employee Experienceを高めてゆかなければならない。「働き方改革」とは、そのための取り組みのことだ。時短をすること、リモートワークをすることは、その本質ではない。
EXを高めるためには、雇用形態をメンバーシップ型からジョブ型へと転換を促すことも考えるべきだろう。
時間ではなく、成果を管理する考え方は、個々人のプロフェッショナリティを高めることを促すだろう。決まった仕事を、決まった時間で、人並みにこなすことだけで、プロフェッショナリティは育たない。だれもが、同じように働くことを求められるメンバーシップ型雇用では、所詮はセミプロの寄せ集め集団にしかなり得ないだろう。10人のセミプロで1人のプロに立ち向かうことはできないのは、言うまでもない。
欧米企業がグローバルに成果をあげられるのは、そんなプロの集団だから。日本の企業が、そんな欧米企業に互して競争したいと考えるなら、もはや躊躇しているヒマなどないはずだ。
人材の流動性が高まること、あるいは、優秀な人材が流出するとの懸念もあるが、日本全体で、能力の高い人材の数が嵩上げされるというのなら、それはとてもいいことだ。またそういう人材を引き留めておくことができないとすれば、そういう企業は淘汰されるわけで、社会全体から見れば、健全であろうと思う。
また、リモートワークを含む多様な働き方を許容するためにも、時間ではなく、能力で評価すれば、公平な評価ができるだろう。サボっていようが、根詰めて仕事をしていようが、結果が同じであれば良い。時間を管理されることなく、自分に合った仕事のスタイルで仕事をすれば良い。地方に居ても、介護や子育てに手間がかかっても、会社とコミットしたジョブディスクリプションを達成すればいいわけだから、優秀な人材を集めやすくなるだろう。
当然、時間の管理や自分のスキルの向上のための知恵や工夫が働く。いや、働かせなくてはならない。そんなセルフマネジメント能力を高めてゆかなければ、ジョブ型に対処できるプロにはなれない。一方で、それができれば、どこに行っても通用する人材として、自分のチャンスを拡げてゆくことができるはずだ。
「共創」をすすめるためにも、プロが必要となる。正解のない課題に向き合い、お客様をリードして、解決策を作り上げてゆくことができる教師であらねばならない。そんな人材を育て、引き寄せるためにもジョブ型雇用は、有効な施策となる。
メンバーシップ型からジョブ型へと雇用形態の転換は、企業や働くことの本質の転換でもある。企業の「存在意義=Purpose」や働くことの意義、さらには、ひとり一人の生き方を問うことでもある。この転換は、容易なことではないが、社会のトレンドを考えれば、転換を加速するか、先送りするかで、企業だけではなく、個人においても、大きな社会格差につながるだろう。
独りよがりのDXは、やめようではないか。自分たちの製品や技術を自慢するのではなく、あるいは、流行言葉を、本質を問わずして使うのではなく、CXにとことん向きあってこそ、DXであろう。そのためには、自らのDXも追求し、EXを高めなくてはならない。
その経験とノウハウを模範に自信と感動を伝えてゆくことができずして「共創」などと口にすべきではない。
「素晴らしい、そんな御社と是非一緒に仕事がしたい。」
そうやって、お客様を惚れさせることができないようでは、「共創」はうまくいかない。
「DX事業」だとか、「共創事業」だとか、実践もせず、妄想の世界で言葉だけを踊らせるのは、やめようではないか。PPAPを平気で使い、VDIやVPNでクラウドサービスがまともに使えず、リモートワークで自分の好きなデバイスが使えない。そんなデジタルの価値を平気で毀損し、EXを下げている企業が、「お客様のDXの実現に貢献します」などと言ったところで、CXに貢献できないことは、考えるまでもないことだ。
CXとEXのために自らがDXを実践することだ。そうすれば、お客様はきっと、そんな会社に惚れてくれる。それが、「共創事業」を生み出し、結果として、「DX事業」として、お客様に、あるいは、世間に評価してもらえるようになるはずだ。
【募集開始】第35期 ITソリューション塾
オンライン(ライブと録画)でもご参加いただけます。
ITソリューション塾・第35期(10月7日開講)の募集を開始しました。
新型コロナ・ウイルスは、肺に感染するよりも多くの人の意識に感染し、私たちの考え方や行動を変えつつあります。パンデミックが終息しても、元には戻ることはありません。私たちの日常は大きく変わり、働き方もビジネスも変わってしまうでしょう。これまでの正解は、これからの正解と同じではありません。ならば、事業戦略も求められるスキルも変わらざるを得えません。
本塾では、そんな「これから」のITやビジネスのトレンドを考え、分かりやすく整理してゆこうと思います。
特別講師
この塾では、知識だけではなく実践ノウハウについても学んで頂くために、現場の実践者である下記の特別講師をお招きしています。
=====
- アジャイル開発とDevOpsの実践
- 戦略スタッフ・サービス 代表取締役 戸田孝一郎 氏
- 日本のIT産業のマーケティングの現状と”近”未来
- シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎 氏
- ゼロトラスト・ネットワーク・セキュリティとビジネス戦略
- 日本マイクロソフト CSO 河野省二 氏
=====
- 日程 初回・2020年10月7日(水)~最終回・12月16日(水)
- 毎週18:30~20:30
- 回数 全10回+特別補講
- 定員 100名
- 会場 オンライン(ライブと録画)および、会場(東京・市ヶ谷)
- 料金 ¥90,000- (税込み¥99,000)
- PCやスマホからオンラインでライブ&動画にて、ご参加頂けます。
- 資料・教材(パワーポイント)はロイヤリティフリーにて差し上げます。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー
【8月度のコンテンツを更新しました】
======
新規プレゼンテーション・パッケージを充実させました!
・「新入社員研修のための最新ITトレンド研修」の改訂
・そのまま使えるDXに関連した事業会社向け講義パッケージを追加
・ローコード開発についてのプレゼンテーションを充実
・ITソリューション塾・第34期のプレゼンテーションと講義動画を改訂
======
新入社員研修
【改訂】新入社員のための最新ITトレンドとこれからのビジネス・8月版
講義・研修パッケージ
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとこれからのビジネス*講義時間:2時間程度
> 自動車関連製造業向けの研修パッケージ
======
【改訂】総集編 2020年8月版・最新の資料を反映(2部構成)。
【改訂】ITソリューション塾・プレゼンテーションと講義動画 第34期版に差し替え
>これからのビジネス戦略
======
ビジネス戦略編
【改訂】デジタルとフィジカル p.9
【改訂】イノベーションとインベンションの違い p.10
【新規】DXを支えるテクノロジー p.18
【改訂】DXはどんな世界を目指すのか p.19
【新規】「モノのサービス化」の構造 p.46
【改訂】ビジネス価値の比較
【新規】ビジネス価値のシフト p.48
【新規】自動車/移動ビジネスの3つの戦略 p.49
【新規】ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用 p.137
【新規】ナレッジワーカーの本質は創造的な仕事と主体性 p.138
【新規】コンテクスト文化から考えるリモートワーク p.139
【新規】リモートワーク成功の3要件 p.140
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【改訂】IoTの定義とビジネス p.15
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】ニューラル・ネットワークの仕組み p.68
クラウド・コンピューティング編
【改訂】クラウドに吸収されるITビジネス p.106
【新規】クラウド・ネイティブへのシフトが加速する p.107
開発と運用編
【改訂】開発の自動化とは p.94
【新規】ノー・コード/ロー・コード/プロ・コード p.95
【新規】ローコード開発ツール p.96
【新規】ローコード開発ツール p.97
【新規】ローコード開発ツールの 基本的な構造 p.98
下記につきましては、変更はありません。
ITの歴史と最新のトレンド編
テクノロジー・トピックス編
ITインフラとプラットフォーム編
サービス&アプリケーション・基本編