「今後もテレワークは定着させるべきだ。なぜならば、労働生産性や働き方の多様性確保の面で、日本社会に中長期的なメリットをもたらすからだ。新型コロナの感染拡大の継続的リスクを考慮しても、不必要な出社が増えていく事態は避けた方が良い。
そうした意味で、テレワークに関する会社の方針は重要となるが、残念ながら「特に案内がない」という回答割合は57.1%に及んだ。会社としてテレワークに関する基準やポリシーを示さず、「現場判断」や「任意」といった従業員の自主的な出社が行われていることが示唆される。このような「なし崩し」のテレワーク解除では「皆が出社しているから、自分も出社する」という同調圧力が高まりやすく、不要な出社が増えてしまう懸念がある。[緊急事態宣言解除後のテレワークの実態について調査結果を発表・テレワーク実施率は全国平均で25.7%。4月に比べて2.2ポイント減少(パーソルHD)]」
仕方なく、あるいは半ば強引にテレワークを実施した企業は少なくないだろう。しかし、そのことで、出社しなければ仕事ができない、直接対面しなければ商談はすすまないとの常識が、ただの思いこみであったことに、気付かされた人たちも多いのではないか。
一方で、テレワークの足かせとなるシステム環境や制度などの課題が浮き彫りとなった。これを克服して、テレワークを常態化するのか、あるいは、元の状態に戻すのかによって、今後の企業の評価が、大きな影響を受けることも確かだろう。特に採用においては、無視できない影響があるだろうし、人材の流動化も加速される可能性がある。
上記のレポートに、「今後もテレワークは定着させるべきだ」とあるが、テレワークに対応できるかどうかが、結果として企業の業績や成長力に影響を与える大きな要因になるだろう。それがひいては企業の淘汰や産業構造の転換につながってゆくと考えるのは、突飛な発想ではないように思う。
「テレワークをするかしないかで、そんな大げさなことになるわけがない。」
そう考える人は、少なくないだろう。しかし、それは単にテレワークという表向きの現象、つまり働き方の形態や方法として捉えているからだ。これは、企業の社会的適応力の問題だ。すなわち社会の変化に対しての感度であり、それは、やがては、製品やサービスへと反映されることになる。結果として、時代の感性に取り残された企業が、社会の変化に適応できず、顧客や従業員に見放され、淘汰されてゆくことになると考えることは、自然なことのように思う。
日経産業新聞(6月23日のRochelle Koppさんの記事)を参考に作成
テレワーク適応のレベルを整理してみた。コロナ禍によって、結果的にレベル1からレベル2に引き上げられた企業は少ないだろう。そしてこれを機にそれ以上の段階へとすすめようとする企業も出始めている。ただ、レベル3の段階に留まっている限りは、テレワークに適応できたとは言えない。この段階は、テレワークの「カタチ」を作ったに過ぎない。つまり、カタチは時代の変化に対応しても、従来通りの「労働時間の管理」に留まる限り、テレワークの価値を十分に引き出すことは難しいだろう。
「労働時間の管理」は、「モノが主役」社会だった時代の考え方だ。たくさんのモノを作り、それを売りさばくことで、企業は収益を上げていた。個々人の個別最適ではなく、汎用的な標準品を効率よく作り、広く市場に売りさばくためには、労働力が最も大切な経営資源であり、その効率や規模を維持することが、経営者には求められていた。そのために、従業員は、働く時間を管理され、長時間働くことが美徳されていた。
「24時間、戦えますか?」
1988年に健康ドリンクのCMに使われたこの言葉は、流行語大賞にも選ばれるほどに、世の中の共感を得たのを記憶されている方も多いはずだ。まさに働くとは、労働力の提供であり、できる限り多くの人生の時間を仕事に費やすことが、求められてきた。定時での出社や退社を管理するという考え方は、その時代の常識であり、そうやって働けば、個々人の才覚にかかわらず役職が上がり給与も上がるという「年功序列」も従業員の時間を管理することと同根の思想が前提にある。
もはや「モノが主役」の時代は終焉を迎え「サービスが主役」の時代を迎えたにもかかわらず、この思想が未だ引きずられているのが、レベル2の「監視ソフトを入れる」や「始業時と終業時に上司にメールを送る」というカタチに現れている。つまり、成果ではなく時間を管理する思想だ。例え、レベル3になっても、ここに切り込まない限り、テレワークの価値を引き出すことは難しい。
レベル3以下は、「放置しておけば、仕事をさぼる従業員」なので、しっかり監視、管理しなければならいと考える会社と、「仕事を与えてくれるのが会社。給料分はしっかり働くが、それ以外はプライベート」と考える従業員との間の暗黙の合意が、前提となっている。
レベル4やレベル5は、従業員と会社の相互信頼が前提となる。時間を会社が管理するのではなく、成果目標を会社と合意し、従業員はその達成をコミットする。「コミットする」とは、未達ならば、その責任を取るということでもある。これを前提に、会社は、従業員を信頼して権限委譲し、時間の管理も本人に委ねる。従業員は自己管理能力が求められることになるが、コミットを果たすために最善を尽くそうとするので、自発的で自主的な工夫やスキルの向上が促されることにもなる。また、このような組織では、現場での即決即断が可能となり、ビジネス・スピードの向上に寄与することにもなる。
不確実性が常態化する社会にあって、長期的な変化を見通せないいま、圧倒的なビジネス・スピードが事業の継続と企業の存続にとって、必須の要件となった。「圧倒的なビジネス・スピード」を実現するには、現場に判断と実行を委ねるしかない。そんな権限委譲を支えるために徹底してビジネス・プロセスをデジタル化し、現場の見える化や情報の共有、コミュニケーション・スピードの高速化、ペーパーレス化やワークフローの電子化などが求められている。テレワークも場所や時間に制約を受けない働き方を実現することであって、圧倒的なビジネス・スピードを手に入れるための1つの要件となった。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、そんなデジタル・ワークプレイスの実現であり、それを活かすための人の考え方や組織の振る舞い、制度などを変革すること、すなわち、「デジタル・テクノロジーを駆使して、企業の文化や風土を変革すること」である。
テレワークの適応レベルで言えば、レベル4や5の段階に至って、始めてDXの実現といえるだろう。
ちなみに、アジャイル開発やDevOps、マイクロ・サービスやコンテナは、このような自律した個人やチームが前提だ。この前提がないままに、手法だけをまねしても、ビジネスの成果に結びつけることは難しい。
当然、従業員の仕事についても、それにふさわしいレベルでなくてはならない。ここに自己完結能力を5段階に整理してみたが、このレベル4と5に相当する。
職場と個人のレベルが重なる場合、つまり、職場の適応レベルと個人の自己完結能力が同水準にある場合は、それに納得せざるを得ない。他社と比べて、自社は遅れていると不平を述べてみても、自分の能力がそれにふさわしくなければ、これに納得し満足しなければ、健全な精神状態を保つことはできないだろう。あるいは、不満解消のために転職をしても個人のレベルが上のレベルに進まなければ、水平レベルの転職に留まり、思いを果たせない可能性が高い。
一方で、会社が職場のレベルを高めるべく努力する一方で、従業員である個人が追従できない、あるいは、変化することを望まず行動もしなければ、会社の取り組みに不平を述べて、これまでのやり方を正当化して、自分は十分に会社に貢献しているとアピールすることで保身を図ることになるだろう。それが受け入れられず、評価されなければ、当然、居心地が悪い。そうなれば、「自分の価値が分からない会社なんか辞めてやる」とダウングレード転職で、精神の安定を図る人たちも出てくるだろう。
その反対に、社会の変化に高い感性を持つ個人は、自発的かつ自主的な努力により個人の能力レベルを高めてゆく。その一方で、企業の適応力が低いレベルに留まっていれば、そのギャップに耐えられない個人が、自分にふさわしいレベルの企業へとアップグレード転職してしまうだろう。そえなれば、会社の変革を進めようにも、それを託せる人材がいないため進まないといった悪循環に陥ってしまう。
優秀な人材は、そんな時代の感性に敏感なので、テレワークは転職の重要な判断基準となるだろう。先日、ある大手企業の採用担当者と話をしたが、新卒採用に於いても、テレワークができるかどうかが、応募の判断基準のひとつとなり始めていると言うことだった。
この変化は、リモートワークができれば、地域を越えて優秀な人材が集められるということである。働く場所の制約から地元を離れられない優秀な若者や、家庭に留まっている優秀な女性を採用できる道を開くものであり、企業の競争力にも直結する。
職場のレベルと個人のレベルを同時に高めていくにはどうすればいいのか。経営者の手腕が問われることになる。一方で、両者のレベルのギャップが大きな企業は、時代の変化に適応することができず、結果として淘汰される。そのことは、社会レベルでの産業構造の転換を促すことにもなるだろうから、社会全体から見れば、必ずしも悪いことではない。
テレワークへの適応は、結果としてメンバーシップ型からジョブ型へと雇用形態の転換を促すことになるだろう。両者の違いを整理してみた。少々、極端な比較ではあるが、両者の違いを理解するには、その方が分かりやすいだろう。
メンバーシップ型からジョブ型へと雇用形態の転換は、企業や働くことの本質の転換でもある。企業のパーパス(存在意義)や働くことの意義、さらには、ひとり一人の生き方を問うことでもある。この転換は、容易なことではないが、社会のトレンドを考えれば、転換を加速するか、先送りするかで、企業だけではなく、個人においても、大きな社会格差につながるだろう。
「テレワークをするかしないかで、そんな大げさなことになるわけがない。」
このような考えのままでいると、社会の変化の本質を見誤るだろう。テレワークは海面に浮かんだ氷山の頂に過ぎない。もっと本質的な課題が、その下にたくさんあると考えるべきだ。
コロナ禍は、企業の存在意義や働くことの本質を考える機会を与えてくれた。そして、この本質に向き合う企業と、表面だけを取り繕う企業との違いが顕在化した。この違いは、人材の流動化を促し、やがては企業の競争力や成長力の差となって表出してくるだろう。
テレワークを単に働き方の形態、あるいは方法と捉えるのべきではない。社会の変化への適応の問題すなわち、経営課題として、高いレベルで議論すべきではないだろうか。
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