「これまでも同じようなことを言われてきたが、結局はそれで何とかなってきた。これからも何とかなる。」
このような考えを否定するつもりはありません。ただ、もしそうならなかったときの備えはしておいた方がいいかもしれません。
“そうならない”兆候は、もしかしたら身近なところにあるかも知れません。例えば、次のようなことです。
- 優秀な若手の人材が会社を辞めてゆく
- 信頼を育んできたはずの長年の顧客が他の会社に乗り換える
- これまで同様の仕事はコンスタントに依頼されるが、新しいコトへの取り組みについては相談されない
「優秀な若手が会社を辞めてゆく」のは、彼らがこの会社にこれ以上いても自分自身の成長が期待できないと感じるからでしょう。「優秀な人材」は、自分のことを客観的に評価できる人たちです。彼らは社会の動きやテクノロジーの進化を冷静に捉え、自分のやっている仕事や会社の姿勢と比較して、自分に成長の機会は限られているし、時代の変化に対処できなくなることを不安に感じるのです。言わば「生存の危機」を感じているのです。だから会社を辞めてチャレンジできるところへ転職してしまうのです。自分の生存の危機を敏感に感じ取れるかどうかが、優秀かそうでないかのひとつの目安かも知れません。
「信頼を育んできたはずの長年の顧客が他の会社に乗り換える」のは、もはや義理で仕事を任せられる時代ではなくなったからです。お客様も、もはやこののまではまずいと感じています。しかし、旧態依然としたやり方を変えようとせず、変革への取り組みを相談しても、「実績がないから」とか「まだ過渡期ですから」と脅されて、モチベーションを削かれてしまうからでしょう。あるいは、お客様がこのようにしたいと相談しても、ならばこちらにしましょうと「自分たちにできること」の範囲に収めようとしてしまいます。お客様のあるべき姿や真のニーズに応えるのではなく、求められた手段にしか応えられない、いや応えようとしないことにうんざりしてしまうのかも知れません。いや、それ以上に「自分たちの危機感を共有できていない」と失望してしまうのかも知れません。
「新しいコトへの取り組みについては相談されない」とは、勉強してないことを見透かされているからでしょう。例えば、「クラウド・インテグレーター」と称し、物理マシンを仮想化してIaaSに移管する仕事だと考えている企業、あるいは、クラウド化を推奨しつつもネットワークは旧態依然としたスポーク・アンド・ハブのまま、それを変えることになんら言及しない企業などは、その最たるものでしょう。新しい常識を知らない集団に自分たちの未来を任せられないのは当然のことで、お客様が相談したくない、あるいはしてもしょうがないと考えるのは、ごく自然なことです。もちろん、「共創」なとという大言壮語が嘘っぱちであることなど、見透かされてしまいます。
これまでの仕事はなくならないから「なんとかなる」と考えるのは、あながち間違いではないように思います。なぜなら、世の中はそんなに急には変われませんから、仕事の依頼は続くに違いありません。しかし、気がつけば、街からレコード店がなくなってしまったように、そしてストリーミング・サービスに入れ替わったように、新しいビジネス形態へと入れ替わってしまいます。稼働率は上がっても利益率は頭打ちになっているとすれば、見かけ上「何とかなっている」が、将来は「なんともならない」兆候かも知れません。
いや、そんな悠長なことは言ってはいられないかも知れませんよ。クラウド・サービスに置き換えることができる仕事が急速に、そしてどんどんと増えているからです。
「AWSは、Amazon PrimeやAmazon Music、Alexa、Kindleなどを含む同社のコンシューマー向けビジネスで使用していた75ペタバイト、7500個以上のOracleデータベースを、ダウンタイムなしでAWSのデータベースサービスであるDynamoDBやAman RDS、Aurora、Redshiftなどへ移行したことを明らかにしました。」
先日、こんな記事がリリースされました。AWSはこのノウハウをサービスとしてユーザー企業に提供しようとしています。また既に、Microsoft FastTrack for AzureやAWS Cloud Adoption Frameworkといった、ユーザー企業のクラウドへの移行を支援するプログラムを提供しています。SI事業者を中抜きするサービスがこれからも充実してゆくことは、もはや既定路線です。
米国では先日、国防総省のほぼ全てのシステムをMicrosoft Azureに移行することが決まりました。既にCIA(中央情報局)はAWSを利用しています。昨日の日経には「全省庁に20年秋からクラウド」という記事が掲載されています。昨年の6月に閣議決定された「クラウド・バイ・デフォルト原則」に沿った取り組みです。
「そんなことは知らなかった」とすれば、自分はあきらかに時代に取り残されていると謙虚に受け入れるべきでしょう。このような情報は、多くのメディアで公開されていることであり、この変化を先取りして新たな施策を打ち出している企業やスキルを磨いている人たちは少なくありません。
クラウドだけではありません。AIやIoTもお客様の事業に組み込む取り組みも急速に進み成果も上がっています。
「そんな仕事を相談されることはありません。」
だから、まだ世の中はそんなに変わっていないのだと自分を慰めるのは自由です。しかし、「相談してもしょうがないから相談されない」という可能性を排除すべきではないでしょう。
デジタル・トランスフォーメーションについても、未だ新しいテクノロジーで情報システムを開発することであるとか、AIやIoTなどを駆使して新規ビジネスを立ち上げることだと考えているとすれば、「相談してもしょうがない」とお客様に思われても仕方がないかも知れません。
【参考】コレ1枚でわかる「デジタル・トランスフォーメーション」
「俺は正しいと思うんだけど、上がね・・・」
「俺は10年後この会社にいないんだから、将来のことは君らが考えて欲しい」
「俺には難しいことは分からないので、君たちに任せるから」
もし、管理者が平気でこんなことを言っているようであれば、これはかなりヤバイ状況かも知れません。
そういう人たちが一定数いることについては仕方がないことですが、もはやそういう人たちが大勢を占めているようでは、その会社の未来は危ういと言ってもいいでしょう。
変化のなかった時代などありません。それを乗り切ってきたとの自負があるからこそ、「これからも何とかなる」と考えてしまうのでしょう。ただ、”かつて”と”いま”とでは、ひとつ大きな違いがあります。それは、「スピード」です。
同じ方向をずっと見ていても高速に通り過ぎるものが何かを知ることはできません。いや、その存在にさえ気付かないでしょう。だから、自分も頭や身体を動かして、その動きを追いかけるしか、知ることはできないのです。
「これからも何とかなる」あるいは「俺はそう思う」と言う前に現実をちゃんと見ることです。思考停止、あるいは責任回避のためにこの言葉を使ってはいないでしょうか。
まずは、そんな自分の現実から問い直すべきかも知れません。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【11月度のコンテンツを更新しました】
・SI事業者・ITベンダーのための「デジタル・トランスフォーメーション・ビジネス・ガイド(PDF版)」を公開しました。
・最新・ITソリューション塾・第32期の講義資料と講義の動画(共に一部)を公開しました。
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総集編
【改訂】総集編 2019年11月版・最新の資料を反映しました。
パッケージ編
【新規】SI事業者・ITベンダーのための「デジタル・トランスフォーメーション・ビジネス・ガイド(PDF版)」
ITソリューション塾(第32期に更新中)
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略
【改訂】ソフトウェア化するITインフラ
【改訂】新しいビジネス基盤 IoT
【改訂】人に寄り添うITを実現するAI
動画セミナー・ITソリューション塾(第32期に更新中)
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略
【改訂】ソフトウェア化するITインフラ
【改訂】新しいビジネス基盤 IoT
【改訂】人に寄り添うITを実現するAI
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ビジネス戦略編
【新規】DXとは何か? p.3
【新規】OMO Online Merges Offline p.7
【改訂】コレ1枚でわかる最新ITトレンド p.12
【新規】何のためのDXなのか p.20
【新規】Data Virtuous Cycle : DXの基盤 p.24
【新規】デジタル・トランスフォーメーションのBefore/After p.38
【新規】Before DX / After DX におけるIT投資の考え方 p.40
【新規】何をすればいいのか? p.105
【新規】目利き力 p.165
【新規】DXとは何をすることか p.166
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】CPSのサイクル p.19
【新規】IoTによってもたらされる5つの価値 p.21
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】「学習と推論の役割分担 p.81
【新規】Whyから始めよ p.118
【新規】人間と機械の役割分担 p.119
クラウド・コンピューティング編
【新規】銀行勘定系 クラウド化拡大 p.30
【改訂】米国政府の動き p.32
【新規】メガクラウド・ベンダーの内製化支援プログラム p.33
【新規】クラウド・ネイティブとは p.130
【新規】システムの役割とこれからのトレンド p.131
開発と運用編
【新規】改善の原則:ECRS p.5
【新規】システム構築事例 :オンライン・サービス事業者 p.7
【改訂】ワークロードとライフ・タイム p.8
【新規】ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違い p.9
テクノロジー・トピックス編
【新規】Apple A13 Bionic p.21
【新規】ARMのAI向けIPコア p.33
【新規】GPUの内部はマッシブ・パラレル型 p.62
下記につきましては、変更はありません。
・ITインフラとプラットフォーム編
・サービス&アプリケーション・基本編
・ITの歴史と最新のトレンド編
自社はプラント系製造なので、デジタル経済圏に飲まれるという危惧はあまりありませんでした。デジタル経済圏になっても、物理基盤は必要だからです(Uberが暴れても「車」が要らなくなるわけではない。)
しかし、超大手が自社設備の余力を使って「as a Service」を始めたのをきっかけに、最近業界全体に広がりつつあります。
「as a Service」が広がり、コストがこなれると、特殊な要求が満たせない一部を除き、BPOの観点からも「as a Service」に大波となって流れます。
設備を作っている側からすると、数十の企業に売れていた設備が上位数社に集約されるので、標準化されて価格も決められてしまえば発展が止まり先細りになる運命です。
ということで、プラント系製造であってもデジタル経済圏に呑まれる時代となりましたので、「うちはアナログのままでも大丈夫」と言える業種は残っているのでしょうか?
ちなみに、上記「as a Service」は「Logistic as a Service」でAmazonのフルフィルメントが代表的です。(在庫預かり・梱包・発送、荷物の問い合わせ、返品処理・返品受付その他をすべてAmazonが代行するので、自社に発送担当が居なくてもECが出来る。)