土木工事の需要が増えている一方で、労働力の不足やオペレーターの高齢化で、需要をまかないきれません。そんな、課題を解決するために登場したのがコマツの「スマートコンストラクション」というサービスです。
ブルドーザーやパワーショベルに組み込まれたセンサーやGPSで正確な機器の動きと位置情報を把握し、工事の設計情報をオンラインで受け取り、正確に手際よく工事を進めてゆきます。ドローンでの測量や工事進捗の把握し、工期を管理するシステムとも連係し、リアルタイムなサポートをうけながら、確実に計画をこなしてゆきます。
IoTを活かした新規事業の成功事例として、ご存知の方も多いのではないでしょうか。しかし、「スマートコンストラクション」の起ち上げを主導された方から話しを伺ったことがあるのですが、新規事業を立ち上げようとか、建設業界にイノベーションを起こそうと取り組んだのではなかったそうです。
冒頭に紹介した建設業界の抱える構造的課題をなんとかしなければ、われわれは生き残れないという危機感を強く持たれていて、ならばどうすればいいかを模索し、試行錯誤を繰り返しながらカタチにしたのが、このサービスだったそうです。それを知った広報の担当者から、これをプロモーションに使いたいとの話があり、IoTやイノベーションに絡めて紹介され、注目されるようになったのだそうです。
このケースから学ぶべきは、「新規事業やイノベーションは手段であり、目的ではない」という教訓です。
このケースに限らず、新規事業やイノベーションの成功事例として、紹介されているものは、解決したい課題や「あるべき姿」がまず先にあり、結果として、新規事業が立ち上がり、イノベーションが生みだされたものがほとんどです。何を解決したいのか、何を実現したいのか、その問いをはっきりとさせないままに、新規事業やイノベーションという手段を使うことを目的とした取り組みが、成功するはずはありません。
しかし、昨今、「新規事業開発室」や「イノベーション推進室」というような組織を作り、「新規事業を立ち上げること」や「イノベーションを実現すること」を部門のミッションに掲げている企業が増えています。しかも、「3年後に10億円の事業を目指す」というようなKPIまで設定しているところまであります。これでは、うまく行くとは思えません。
これから何を始めるのか、これからどうなるかが分からないのですから、このようなKPIを設定する合理性はありません。もしこのKPIが「これぐらいの数字にならないとカッコつかないなぁ」程度の思いつきでしかないとすれば、そこを任された人たちに対する制約にしかならず、自由な発想の足かせとなって、現場を苦しめるだけのことです。
「10年後の自分たちの事業はどうあるべきか」、「お客様が実現すべき事業は何か」、「自分たちが解決したい社会課題とは何か」などの「あるべき姿」を明確にし、そのためには、何が問題なのか、何を解決すべきなのか、何を目指すべきなのかなどを見極め、必要とあれば、その手段として、新規事業がイノベーションを使うというのが、筋の通った話しです。
しかし、現実には、新規事業やイノベーションが目的になっている組織はあります。そういう組織は、イノベーションや新規事業の事例を集め、分析し、整理して、じゃあ何をやりましょうかと考えているように見えます。
「何をしなければならないか」は調査や分析から決めることはできません。自分たちの抱える課題、社会的使命、経営者のパッションから、「何をすべきか」を自分たちで決めてから、「何をしなければならないか」を考えるのが、本来の筋道ではないでしょうか。
未来をどうするかは自分で決めるしかありません。その未来を実現する手段として新規事業やイノベーションが必要であるとすれば、それに取り組めばいいのです。
「DX事業本部」や「DX事業開発室」といった類の組織も最近は増えてきました。しかし、その内実は、「新規事業開発室」や「イノベーション推進室」と同じで、D=デジタルという手段の議論に終始し、どのようなX=トランスフォーム、すなわち経営や事業の変革が必要であるのかを議論していないところもあるようです。
DXとは企業文化の変革であり、AIやIoTを使って、なにか新しいことを始めることではありません。そんな、DXの本質を極めることなく、「どんな事業を立ち上げれば、DXに該当するだろうか」といった議論しかしていないとすれば、それは時間つぶしのための「DXごっこ」にすぎません。世のため人のため、会社のために価値を産み出すことはないでしょう。
君子は本を務む、本立ちて道生ず
論語の一節(學而第一)です。本(もと)とは、行動や目標の先にある目的のことです。手段・手法ではなく理念・方針。応急処置ではなく恒久的な問題解決。新規事業やイノベーションではなく、自分たちの抱える課題やあるべき姿。そんな本を見出せば、自ずと進むべき道、正しい道がわかってくるという意味です。
新規事業やイノベーション、DXを組織の名称に掲げるなと言うつもりはありません。しかし、もし掲げるのであれば、まずは「本」を見極めることです。それを経営者と社員との確固たるコンセンサスとすることです。そういう意識や自覚があれば、社内外から自ずと新規事業やイノベーションの知恵がわき起こり、引き寄せられてくるのではないでしょうか。
「新規事業やイノベーションは手段であり、目的ではない」
この基本を決して忘れないことです。そうすれば、「本」へ至る道は見えてくるはずです。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【8月度のコンテンツを更新しました】
・量子コンピュータのプレゼンテーションに新しい資料を加えました。
・講演資料を2つ追加しました。
・動画セミナーを1編追加いたしました。
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総集編
【改訂】総集編 2019年8月版・最新の資料を反映しました。
総集編
【改訂】新入社員のための最新ITトレンド研修・2019年8月版
【改訂】これからのビジネス戦略
ITソリューション塾・最新教材ライブラリー/ITソリューション塾・第31期
【改訂】IoT
【改訂】AI
【改訂】これからの開発と運用
【改訂】これからのビジネス戦略
ビジネス戦略編
【改訂】デジタルとフィジカル(1) p.3
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションとCPS p.7
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは何か(1) p.8
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは何か(3) p.10
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは何か(4) p.11
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは何か(5) p.12
【新規】DXを支える4つの手法と考え方 p.64
【新規】「手段」と「目的」をはき違えるな! p.87
【改訂】事業戦略を考える p.88
【新規】共創ビジネスの実践 p.146
【新規】DXと共創の関係 p.147
【新規】イノベーションの本質 p.154
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
*変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
*変更はありません
ITインフラとプラットフォーム編
*変更はありません
クラウド・コンピューティング編
【新規】クラウド・ネイティブとは p.106
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
開発と運用編
【新規】システム化の対象範囲 p.4
【新規】ITの役割分担 p.5
【新規】ワークロードとライフタイム p.6
【新規】人間の役割のシフト p.7
【新規】超高速開発ツール p.86
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更はありません
テクノロジー・トピックス編
【新規】メモリードリブン・コンピュータ p.56-59
量子コンピュータ
【新規】物理学とコンピュータ p.3
【新規】量子コンピュータの分類 p.4
【改訂】量子コンピュータの限界と可能性 p.6
講演資料:
【大学生・講義】テクノロジーな未来は私たちを幸せにしてくれるのだろうか?
【SIer向イベント】Sierはもういらない! DX時代にそう言われないために