「IoTで新しい事業を立ち上げたい」
例えば、このようなお客様からの相談に、あなたならどう対処するだろうか。
- この課題が解決すれば、コストが半減する。
- このような仕組みを作ることができれば、競合他社に対して、圧倒的に優位に立てる。
- このやり方を変えられれば、残業をなくし、品質も高められる。
「この」が何かをはっきりさせないまま、取り組みを始めてもうまくいくことはない。しかし、現実には「この」をはっきりさせないまま、PoC(Proof of Concept/概念を検証するための取り組み)に取り組むケースが後を絶たない。そのようなPoCは、おおよそ次のように進められることが多い。
- 現状のプロセスをそのままにして、手持ちの技術の使えそうなところを探す
- 使えそうなところに使って使えるかどうかを検証する
- 使えることは確認できたが、これで何が解決されるのか分からない
なんとか使えるところは見つけて使ってみたが、さほどの成果はあがらない。そもそも、使えるところを見つけて使っただけで、課題を解決したい、ブレークスルーしたい、改善したいために使っているわけではない。「使ってみた」という成果は残るが次に続かない。
このようなPoCが成功することはないだろう。本来、PoCのC = Concept(概念)とは、事業の概念であり、その事業が思惑通り実現できるかどうかを検証することがPoCの趣旨である。しかし、事業の概念がないままに、IoTとは何だろう、何ができるのだろうかといった機能や性能への興味や関心のためにPoCを行っても、事業の成果に結びつくことはない。
成果に結びつかないPoCを繰り返せば、予算はいくらあっても足りないだろう。まさに「PoC貧乏」である。一方、私SI事業者にとって、このようなPoCは必ずしも悪い話しではない。なぜなら、成果を保証する必要がなく、工数を稼ぎ、しかも、自分たちは技術検証ができて勉強になる。短期的には「PoC成金」になれるからだ。
しかし、それがお客様の事業に継続的に組み入れられなければ、安定した収益の確保や継続的拡大にはつながらない。また、技術のつまみ食いが増えて、実績が積み上がらず、ノウハウが蓄積しないし、持ち出しも増えるだろう。結局はPoC貧乏、いや、PoCで実績を出せないSI事業者というレッテルを貼られ、この会社に相談しても仕方がないと思われてしまい、やがては「PoC死」に至るかもしれない。
本来、PoCは次のような手順を踏むべきだ。
- 何を解決すれば、ブレークスルーできるのか、お客様の業績を向上させられるのか?
- そのための最適な手段はなにか、IoTは最適な手段なのか?
- お客様の事業成果(売上や利益)にどれだけ貢献できたのか?
事業課題を明確にした上で、それが解決できたのか、事業成果に結びついたか否かで当初の仮説や方法論、テクノロジーを評価するべきで、機能や性能の評価は目的ではない。そして、結果から改善点を見つけて再び実施し、ダメならやり方を変えるといった、試行錯誤か必要となるだろう。
大切なことはお客様の事業成果に結びつくか否かであり、テクノロジーを使うことではない。それが入れ替わると不幸な結末となる。どのようなビジネス価値を実現したいかを理解しなければ、どこにどんなテクロノジーを使えばいいのか判断できない。
また、SI事業者は、このテクノロジーをどのように使えば、お客様の如何なる価値が実現できるかの物語を正しく伝えなければならない。そして、ともに課題を整理し、事業を成功に導くには、どうすればいいのかを共に考え、実現の筋道を歩んでいく。それが、「共創」の本来のカタチであろう。
PoCを成功させるためには次のサイクルを回すべきだろう。
事業課題の洗い出し
まず、何を解決し、何を実現したいのかを十分に議論する。これはお客様自身が主体的に取り組むべきで外部の人間にはできない。SI事業者はその取り組みを促し、協力する。つまり、依頼を待つのではなく、お客様と一緒に何を解決すれば事業改善できるのか、どこをブレークスルーすれば飛躍的な成長が期待できるのか、お客様の目線で考えることだ。お客様の事業に関心を持ち、共感し、お客様と一緒になって課題を解決する姿勢が必要だ。
適用の可否を見極める
何が最適な手段なのか、他にもっといい手段はないか。そもそも、テクノロジーを使わずとも、業務手順を変えるだけでいいのではないか。そのような様々な選択肢を検討することが必要である。手段ありきで考えてはならない。
試行錯誤する
何が正解か分からないなら、議論や検討に多くの時間をかけずに試行錯誤し、その時々の最適解を作り、実行し、確認する作業が重要である。このサイクルを高速に回して最適解を求め、アップデートし続けることである。
PoCからお客様の新事業を生み出すためには、このような取り組みがなければ困難だ。
技術に関心を持ち、積極的に使ってみよう、試してみようと考えることは、新たなビジネスの可能性を見出すきっかけになる。ただ、それがお客様の事業の成功に貢献できなければ、それをビジネスにすることはできない。
新しい技術をお客様のビジネス価値に結びつけるにはどうすればいいのだろう。そんなことをお客様ととことん議論し、その議論をリードすることができてこそ、PoCがビジネスに結びつくことを肝に銘じておくべきだろう。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
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ビジネス戦略編
- 【改訂】フィジカルとデジタル(2) p.4
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- 事例:RPA導入における業務の流れ195
- 提案と価値とは何か196
- 提案が成功する3つの要件197
- ソリューション営業は通用しない198
- 「共創」ビジネスの本質199
*ノートに解説も合わせて掲載しています。
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
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サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
- 【新規】「情報」を意味する3つの英単語の違い p.4
- 【更新】一般的なプログラムと機械学習を使ったプログラム p.22
クラウド・コンピューティング編
- 【新規】クラウドによる新しいIT利用のカタチp.17
- 【新規】クラウドへの移行を成功させるための7原則 p.100
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サービス&アプリケーション・開発と運用編
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ITの歴史と最新のトレンド編
- 【新規】依存集中型から自律分散型へ p.22
ITインフラとプラットフォーム編
- 【新規】ソフトウェア化とはどういうことか (1) p.60
- 【新規】ソフトウェア化とはどういうことか (2) p.61
- 【改訂】「インフラのソフトウエア化」の意味・仮想化の役割 p.62
テクノロジー・トピックス編
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