私たちの日常は、もはや営業を必要としていない
今日のランチは何にしようかと考える。そうだ、カレーにしようと思い立つ。さて、何処のカレー屋が美味しいだろう。客先への訪問のついでであり、はじめての場所だ。土地勘もなければ、どんなお店があるのかも分からない。ならば、Googleで検索すればいい。
「近くの美味しいカレー」
そうスマホに入力するだけで、近辺のカレー屋さん情報が表示される。その店の説明だけではない、他の人が食べた感想やランキングまで教えてくれる。そんな情報を一通り眺め、よし、この店にしようと地図をクリックすれば、経路までガイドしてくれる。
お店に入りおすすめのカレーを注文する。出てきたカレーを写真に撮る。「欧風カレーなのでマイルドだと思っていたが、なかなかスパイシー。フォンドブォーでじっくり煮込んでいるので味には深みがある。また来てしまいそう。」とのコメント共にソーシャル・メディアにアップロードする。そして、それを見た人が、「行ったことがある」、「行ってみたい」とコメントし、そんなやり取りを見た人が、それではと、その店に足を運ぶ。
店の亭主が広告を出したわけではない。誰かが売り込んだわけでもない。広告や宣伝のために代金を支払ったわけではない。誰か売り込んでくれたわけでもなければ、エスコートして道案内をしてくれたわけではない。それでもお客様がやってくる。
ショッピング・サイトを新しく立ち上げたいと思っている。どんなソフトウエアやサービスを組み合わせればいいだろう。それを動かすためのクラウド・サービスは、何がいいのだろうか。決済やカードの仕組みを組み込む必要があるが、どのような手続きをすればいいのだろう。そもそも、自分たちではWebサイトのデザインや制作はできないから、プロに仕事を頼みたい。どこに頼めばコスト・パフォーマンスのいい仕事をしてもらえるのだろう。
そんな情報は全てネットで検索すればいい。分からないことだけをWebの問い合わせフォームに書き込めばいい。そうやって必要な情報を収集し、整理して、自分でプランを作ればいい。必要な手続きもほぼネットだけで完結する。デザインや段取りなどは打ち合わせしておいた方がいいので、その時だけ担当者に来てもらおう。
ERP(会計、販売、生産などの基幹業務を管理する)システムを刷新したい。既に10年も同じシステムを使い続けてきたが、その間、自分たちを取り巻くビジネス環境が大きく変わり、新たなビジネス・モデルへの転換が必要となった。どのシステムが自分たちのビジネスにはふさわしいのだろう。それを動かすクラウド・サービスも見つけなくてはいけない。さて、この仕事はどこに頼めばいいだろう。
いま出入りしているSI事業者に相談すれば、自分たちの抱えているソフトウエア・パッケージをすすめてくるのは分かっている。また一度相談をすれば、具体的な提案をさせろとか、検討の進捗はどうかと聞かれるので面倒だ。まずはその前に自分たちにふさわしいやり方を自分たちなりに決めて、選択肢を絞っておきたい。
製品やサービスの機能や性能、取り組みの事例や課題などの情報は、ネットにいくらでもある。まずは、自分たちのやりたいことを明確にしておいて、詳細な情報や金額を聞くときに営業に声をかけることにしよう。
何かをしたい、手に入れたいと考えたとき、まずはネット検索するのが当たり前になった。まずは営業に来てもらおうと考える人はいないだろう。そして、必要な情報を手に入れたなら、次にこちらがやって欲しいことを依頼する。見積や値引きの交渉、契約や手配などは、営業に頼まなくてはならないが、それは仕方のないことだ。でも売り込みはして欲しくない。だから、できるだけ自分たちで調べ、判断し、必要最低限を営業に依頼する。
私たちは、こんな日常を当たり前に受け入れている。
人間の営業は面倒だから使いたくない
これからは、情報を提供してくれる、見積を持ってきてくれる、契約や手続きをしてくれるのもネットでできる時代になるだろう。AIが進化すれば、こちらのやりたいことや制約条件をネットから入力すれば、何が最適な組合せなのかを教えてくれるようになるだろう。必要な情報収集や問い合わせも、AIによるエージェント・サービスが代行してくれるようになるはずだ。
お客様の問い合わせや依頼に迅速、的確に応えること、お客様の求めに応じて最適な提案をすること、納期やリソースの調整を的確に行い、お客様の要請に応えること。このような仕事は、やがてAIに置き換わり、対話的なコミュニケーション機能を受け持つユーザー・インターフェースが、営業の代わりをしてくれる。
「気は使うし時間も合わせなければならない人間の営業は面倒だから使いたくない」
銀行で窓口が開いていてもATMを使うのと同じ理屈だ。面倒な人間を相手にするより、直接AIに問い合わせるお客様も増えてゆくだろう。AppleのSiriやMicrosoftのCortana、そしてAmazonのAlexaのように、自然な話し言葉で問い合わせたり指示したりできるようになれば、ますます「ものわかりの悪い」、あるいは「融通の利かない」人間の営業などを相手にするよりも「AIの営業」の方がよほど心地よい相手となる。
では、人間の営業にどのような仕事が残されるのだろう。お客様にゴマをすり、お酒を一緒に飲んで、「なにかありましたら、よろしくお願いします」と言うだけだろうか。 そんなゴマすりとか、接待につき合っているほどお客様は暇ではない。
ネットのない時代には、お客様が情報を収集する手段として営業は大きな役割を果たしていた。様々な手続きや手配も営業に頼らなくてはならなかったが、もはやそんな時代ではない。
担当が変わったら挨拶、新しい製品が出たので挨拶、年末年始だから挨拶。そのたびに自分たちの仕事の時間が奪われる。そうでなくても働き方改革で仕事の時間は短くなり、成果はいままで同様に求められる。そんな時代に営業は、仕事のノイズでしかない。残念ながら、昔のように営業とのやりとりを息抜きとして楽しむほどの余裕はなくなってしまったのだ。
お客様の期待にも経営者の期待にも応えられない営業に存在意義はない
古くさい営業のやり方をいまでも通じると信じて疑わない人たちがいる。足で稼げ、アポイントを増やせ、きっかけでもいいから何か獲ってこい。そういう人たちが経営者や管理者となって、営業にハッパをかける。しかし、もはや時代は変わってしまっている。営業は、そんな上司からのプレッシャーとお客様の現実とのギャップに、大きなストレスを感じているが、過去の成功体験を信仰にしている人たちには、何を言っても通じない。
営業が、お客様にとってのノイズであれば、会社には何ら価値をもたらすことはない。それでも、営業という肩書きを与えられた以上、仕事としてのカタチを示さなければならいから、ノイズでしかないアポ取りを必死で行い、自分の時間を埋めようとする。そんな仕事に成果などあがるはずはない。
そして、こんなことを言うのだろう。売れないのは売れるものがないからだ、なかなか決まらないのはお客様の意志決定が遅いからだ、チャンスがないのは景気や担当テリトリーが悪いからだと。そう思い込むしか、心の平衡を保つ手段がない。そして、その言い訳を、文学的表現を駆使して「仕方がない」文脈に仕上げ、週報として提出する。その時間も精神的負担も大きな重荷となる。そして、それを読む上司の楽しいはずの週末を、憂鬱な時間に変えてしまう。
そんな悪循環を繰り返しているのだから、業績が上がるはずはない。しかし、締めは必ず訪れる。しかし、予算とのギャップは容易には埋まらない。勢い、リース切れやサポート切れのお客様に売り込みをかける。あるいは、代理店に頼み込んで、在庫を積み上げてもらう。しかし、クラウドやサービスになれば、もはやその手は使えなくなるだろう。
ビジネス環境がめまぐるしく変わる時代になり、資産を増やすことは大きなビジネス・リスクとなった。決定を下した時点では必要だと考えて買ったものや作ったものが、思惑通りに使われないことなど、もはや当たり前の時代だ。だからお客様は、できるだけ買いたくない、作りたくないので、クラウドやサービスに移行しようとしている。その勢いを止めるのは、大河に一本の棹を差すようなものだ。
無駄な抵抗は意味がないと分かっていても、クラウドやサービスに移行されてしまえば、売上と利益は減少する。そうなると、自分たちのビジネスが立ちゆかなくなってしまう。それよりも何よりも、営業の業績評価基準は、その年の売上と利益の金額だから、そんなものを提案しては、自分で自分の首を絞めるようなものだ。
世の中は、クラウドやサービスの時代になることは既定路線だ。会社もまたそのための施策を考えている。経営者や管理者は、それを売ることがこれからの営業に求められているので、頑張れ!と叱咤激励するが、そんなことを真面目に受けとめていたら、自分の予算を達成できず査定もボーナスも下がってしまう。頑張るほどに自分の業績を下げてしまうのだ。そんなことにはしたくないと、これまで同様、モノを売り作ることをお客様に提案する。そんなダブル・スタンダードが営業の現場を苦しめている。
お客様の期待にも、経営者の期待にも応えられない営業に存在意義はない。もはや「営業がいらない時代」なのだ。
「営業がいらない時代」にどうやって生き抜けばいいのだろう
こんな時代に営業はどうやって自分の存在意義を見出せばいいのだろう。ひと言で言えば、お客様の「頭脳」になることだ。お客様から求められたら情報を提供する、あるいは依頼された見積や契約、モノやヒトの手配をするといった、お客様の「手足」になることではない。もう少し具体的に言えば次のような仕事をすることになる。
「お客様のよき相談相手となって、彼らの不安や迷いを課題として捉え直し、その解決策をデザインする」
お客様のよき相談相手となる
「お客様の立場に立つ」
良き相談相手になるためには、まずこれが前提となる。
「自分がお客様の立場なら、どう考え、判断し、行動するかを想像すること」
「お客様の立場に立つ」とは、こんなことだろう。お客様とまったく同じことができるはずはない。経験や知識のバック・グラウンドが違う相手を完全に理解することはできないからだ。相手になりきることなどできるわけがない。ならば、お客様とは別人格で他人である前提に立ち、自分が相手のポジションを任されたとしたら「このように考える、判断する、行動する」を想像することだ。そして、その想像を相手に伝え共有し議論すればいい。
良き相談相手とは、決して相手の話しに相槌を打ち、それに従うことではない。相手が求めているのは違う視点や異なる意見を持つことだ。それを相手にぶつけ、心を揺さぶり、相手の気付きを引き出して、何が正解かを一緒になって見つけ出してゆく。そんな相棒として、お客様を助けることが、良き相談相手になることだろう。
不安や迷いを課題として捉え直す
「なんとかしなくてはいけない。このままではまずい。」
そんな不安や迷いをいだいているお客様は少なくない。そして変革を進めたいと考えている。しかし、変革への意志や問題意識はあっても、解決すべき課題やニーズが明確であるとは限らない。また、それ以前の問題として、どのような方向に変革を進めてゆけばいいかのビジョンが描けていないことも多い。
このような状況で「他社事例」は、なんの役にたたない。自分たちはこうしたい、こうなりたいが明らかになっていないのだから、何が課題なのかが分からない。そこに他社の課題解決の事例を示しても、それが自分たちにとって参考になるかどうかを判断することはできない。
まずは、そんなお客様を、お客様以上に深く考察し、お客様の課題を自分なりの仮説として整理して提示することだろう。テクノロジーやビジネスのトレンド、他社や業界の動向を織り込んで、課題を客観的に整理する。また、第三者だからこそ踏み込めるお客様のタブーも露わにすることだ。正解かどうかは分からないが、視点を与えられた整理や解釈は、議論のたたき台となり、考えるきっかけを与えてくれる。
なるほどと思わせて、お客様の心の中をザワザワさせなくてはいけない。お客様の琴線に触れなくてはいけない。そうやってお客様の気付きを引き出し、議論を積み上げて、自分たちの「あるべき姿」は何かが見えてくる。
続いて「あるべき姿」を実現するための具体的な課題は何かを洗い出し、その解決策を整理する。さらに、自分たちが全力でこの取り組みを支援する決意を示し、相手の背中を押してあげることも忘れてはいけない。
「相手の求めに応じるのではなく、相手からの求めを引き出すこと」
結果として、案件が生まれる。
解決策をデザインする
テクノロジーは日々進化し、最適解は変わり続けている。様々な選択肢が登場し、絶対無二の解決策を見出すことは難しい。解決策はプロダクトやサービスなどのシステム・ソリューションばかりではない。業務プロセスを変革する、新しいビジネス・モデルを実現するといったビジネス・ソリューションもある。デジタル・テクノロジーによって常識が置き換わる時代、新しい常識を前提にビジネスを考えれば、まったく新しい発想が生まれることもある。
そのためのデザインを描かなくては、ものごとは前に進まない。どうすることが、お客様の「あるべき姿」を実現するうえで最適なやり方なのだろうか。それをひとりの営業だけでできないのであれば、知恵ある人たちを集め一緒に考えることだ。営業は、そのためのプロデューサーの役割を果たさなければならない。
「営業」を再定義しよう
これが営業の仕事だなんて、受け入れられないという人たちもいるだろう。そのとおり、少なくとも多くの人たちが描いている営業像とはかけはなれているだろう。むしろ、コンサルタントや経営者のイメージに近いかも知れない。
それであっても、古き良き時代の「営業」はいらないわけだから、かつての営業像にこだわるわけにはいかない。ならば、新たな営業像に置き換えなくてはならないことになる。
ただ、ひとつだけ言えることがある。それは、いままでもこれからも変わることのない、会社からの営業への期待だ。それは、予算として与えられた数字を達成することだ。その働きに対して給与が払われるというメカニズムが変わらないとすれば、それができるように仕事をしなければならない。
営業の人格は数字である。笑顔が絶えず、優しく、だれからも好かれる存在であっても、数字が達成できなければ、営業という人格は低いままだ。営業としての人格を高めたのであれば、数字を達成するしかない。そのためには、もはや従来の営業像を置き換えて、新しい営業としての能力を磨き、行動を変えてゆかなければならないだろう。
これまでの営業はいらない。営業の役割と求められる能力は再定義されなくてはいけない。それを「営業」という言葉でくくってしまうのか、それとも新しい名前を与えるべきなのかは分からないが、もはやこれまでの「営業」はお役御免になることだけは覚悟しておくべきだろう。
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