平成元年、当時の世界時価総額ランキング上位50社中、日本企業が32社を占めていたが、今はたった1社だ。
>>>昭和という「レガシー」を引きずった平成30年間の経済停滞を振り返る(ダイヤモンド・オンライン)
GDP(国内総生産)過去20年、GDPの伸び率はOECD加盟国を含めた上位43カ国中最下位に甘んじている。
その原因について、多くの専門家たちが語っているが、私は我が国のIT業界の不作為とユーザー企業のIT軽視が原因のひとつではないかと考えている。
1990年代、インターネットが登場し、ITと企業の関係は大きく変わってしまった。その本質は、「オープン」という言葉に代表されるITの民主化だ。地域や企業、個人を超えて、インターネットの先にあるサイバー空間では、誰もが対等な立場にある。競争や連携は地域や国境を越え、立場や実績などの既存の価値基準を無意味なものにした。情報は容易に流通し、優れた知恵や才能は自律・協調し、新しいビジネスのカタチを容易に創り出す。新しい社会基盤であり経済基盤がこのサイバー空間に誕生したのだ。この価値を最大限に享受したのがGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)をはじめとしたディスラプターたちだ。彼らは、業界の垣根を越え新たな競争原理を持ち込み、既存産業の秩序やビジネスの常識を破壊しはじめている。
一方で我が国では、インターネットは安い通信手段であり、便利な情報収集の手段程度としか受け取らなかった。ITは社内業務の生産性向上や納期短縮のための手段であり、「本業ではない」ということから、できるだけ安く使うことを考えてきた企業も少なくない。
IT企業、特にSI事業者は、そういうお客様の需要を満たすために労働力を提供してきた。新たな事業価値を産み出す武器としてではなく、既存業務を改善するための手段としてのITを、ただお客様が求めるがままに提供することを生業にしてきた。
インターネットによって変わったITの新しい価値を理解することなく従前の価値に留まり、お客様にITの新しい可能性を示すことなく、確実な需要が期待できる仕事に専念してきたとも言える。
一方、ユーザー企業の経営者も、「ITは本業ではなく、コアコンピタンスではない」とし、情報システム部門はコスト・センターとして位置付けられた。そのため、ITの外注化を推し進めたり、情報システム子会社として本体から切り離したりして、コスト削減を進めようとした。この結果、IT人材の軽視とITの空洞化がすすんでしまった。
IT企業はユーザー企業が見限ったコストとしてのITを補完する役割を担い、低コスト・高品質・安定稼働を求められてきた。チャレンジすることや失敗は許されない。プロマネはそのための調達や管理のスキルを磨いてきた。結果として、両者の利害は一致し、新しい時代のITの価値を隠蔽してしまった。そのためITは「現状の改善」のために使われることに留まり、「未来への投資」として受けとめられることはなかった。
このような状況からイノベーションが生まれることはない。結果として、ITがもたらす時代の変化に対応することができず、企業価値を毀損し、生産性の低迷を招いている。
ここにきて、クラウドの普及やGAFAの影響力を目の当たりにして焦りはじめている訳だが、もはや時代は一回りも二回りも先を行っている。
インターネットの登場によって最も大きく変わったビジネスの価値基準は「スピード」だ。クラウドの普及はそんな需要に応えるためにサービスや機能を充実させている。当然、開発もスピードに対応しなければならずアジャイル開発はもはや前提となりつつある。当然この両者を橋渡ししなければならない。DevOpsはそんな需要に応えるものだ。どこかがひとつが速くなっても他が遅ければ全体のスループットはあがらない。だから、クラウド・DevOps・アジャイル開発は一連の取り組みでなくてはならない。
そのような動きを支えにITのスピードは加速した。そこにデジタル・トランスフォーメーションである。ビジネス・プロセスを全面的にITに置き換えようというわけだ。ITはますます加速度を増している。そして、今度はビジネスがITのスピードに対応できなくなってしまった。この状況に対応すべく、VeriSMというフレームワークが注目されるようになった。ビジネス・プロセスや意志決定の在り方をITのスピードに対応させようというわけだ。
しかし、いまだ多くのIT企業がこの本質を理解していない。例えば、物理マシンを仮想化してIaaSへ引っ越すことを「クラウド・インテグレーション」と称して自社の先進性をアピールしたり、超高速開発ツールを使ってシステムを作ることをアジャイル開発と称して低コスト・短期間でのシステム開発を売りにしたりしているなどは、そんな現実を如実に物語っている。
これらの取り組みに価値がないと言うつもりはない。問題は、その先にあるITのあるべき姿をイメージできずに、流行の言葉に引きずられた対処療法に留まっていることだ。
ITの新しい常識をお客様に伝え、ビジネス・プロセスや経営を変えてゆくための教師となるべきがIT企業の役割でもあるはずだ。しかし、その役割を果たすことなく、お客様の未来のためではなく、自分たちの現在にこだわり、過去のやり方を変えようとしてこなかったIT企業やSI事業者の責任は重いと感じている。
しかし、未だこの現実を受け入れようとせず、現実の理解を調整することで、自分たちを正当化しようとしている人たちがいることはなんとも残念なことだ。例えば、つぎのようなことを平気で言う人たちがいる。
「クラウドはガバナンスが効かない。セキュリティが心配だから使えない。」
ではなぜ銀行がクラウドへの移行に積極的なのだろうか。企業の財務会計や人事などの機密性の高いデータを扱う基幹業務をクラウドに移行する動きは大きなトレンドとなっている。米国のCIAはAWSを使い国防総省もパブリック・クラウドへの移行を進めつつある。日本政府もまた「クラウド・バイ・デフォルト原則」を発表し、パブリック・クラウドの利用を第一に考えるようになった。しかし、こんな話しは初めて聞いたと言うIT業界人は少なくない。
「アジャイル開発はシステムを短期間、低コストで開発するための手法である。」
アジャイル開発とウオーターフォール開発の生産性比較をする記事を先日見掛けたが、アジャイル開発が現場のニーズにジャストインタイムで対応するための取り組みであること、業務の成果が明確で必ず使う業務プロセスだけを作ること、そして、それをバグフリーで提供する仕掛けや仕組みを含んでいることに何ら言及されていないことに違和感を感じた。他にもあげればキリがない。
関心がないのか、自覚がないのかはわからないが、不都合な真実を受けとめることには抵抗があるようだ。一方で、ユーザー企業の意識は大きく変わり始めている。
最近、ユーザー企業の経営企画や事業部門からAIやIoT、ITの最新動向について研修をして欲しいという依頼が増えている。今年に入って十数回、年度末までに10回ほどの予定が組まれている。また、自らも「ビジネスリーダーのためのデジタル戦略塾」を主宰し、ユーザー企業の事業企画や経営企画、新規事業開発に関わる人たちにITのトレンドだけではなく、データサイエンス、デザイン思考、VeriSMの実践スキルを習得して頂く講義を行っている。
ITに関わる予算の意志決定に、経営者や事業部門がこれまでになく大きな影響力を持ち始め、ITの重要性を強く認識しはじめている。このような意識の変化が、このような研修の需要につながっているのだろう。
彼らはテクノロジーがもたらすビジネス価値、つまりITが競争優位を実現する上でどのような役割を果たすのか、また、どうすればそれを実現できるのかの物語を求めている。IT企業はこれに技術力で応えられなければならない。
いまITはコストセンターからプロフィットセンターへと位置づけを変え、コアコンピタンスとして認識されつつある。そうなれば内製化は拡大し、「いわれればその通り手配する調達力」は必要とされなくなるだろう。クラウドや自動化の範囲も拡大する。そうなれば、これまでのような開発や運用に関わる人手の需要から利益を上げることは難しくなる。これからは、お客様の内製化を支援する技術力が、IT企業の存続と成長に不可欠な要件となるだろう。
「共創」という言葉を掲げながら「何をしたいかを決めるのはお客様」と言ってはばからず、自慢のテクノロジー(といっても自分たちが取り扱っている製品やサービス)を使ってもらうことをビジネスのゴールと考えているようでは、お客様の期待に応えることは難しい。共にリスクをとり、一緒になって新しい答えを探してゆく胆力も求められている。
我が国にiPhoneが登場して10年が経った。その間、経済や社会の仕組みがどれほど大きく変わったかを考えれば、「変化のスピード」の意味を知ることができる。そして、その先の未来を世界に先んじて体現している中国の動向を見ると感動もするし、「やりすぎ感」に恐怖すら感じる。ただ10年という期間が、いまの世の中においてどれほどの変化をもたらすかを感じることはできるだろう。そしてそれは、明らかに加速している。
ならばこの機に乗じて、ビジネスの有り様を転換し、これからの10年を自らも加速してみてはどうだろう。そんな決断と行動が、同じ過ちを繰り返さないために必要なのではないか。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 9月度版リリース====================
RPAのプレゼンテーションを作りました。(ITソリューション塾の最後にむに掲載)
他にもいくつかのプレゼンテーション・パッケージを新規追加・更新致しました。
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プレゼンテーション・パッケージ
【新規】RPAについてのプレゼンテーション(25ページ)
【更新】新入社員のための最新ITトレンドとこれからのビジネス(187ページ)
【更新】ビジネスリーダーのためのデジタル戦略塾・最新のITトレンド(203ページ)
【更新】フィン・テックとブロックチェーン (40ページ) *テクノロジー・トピックスより分離
ビジネス戦略編
【更新】デジタル・トランスフォーメーションの実際 p.16
【新規】デジタル・ディスラプターの創出する新しい価値 p.17
【更新】もし、変わることができなければ p.18
*人材開発・育成編をビジネス戦略編より分離し、新しくパッケージし直しました。
ITの歴史と最新のトレンド編
【新規】人類の進化と知識 p.12
【新規】自然科学発展の歴史 p.13
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】インターネットに接続されるデバイス数の推移 p.10
【新規】新規事業の選択肢とモノのサービス化 p.44
【新規】IoTのビジネス戦略 p.47
【更新】LPWAネットワークの位置付け p.72
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】AI導入/データの戦略的活用における3つの課題
開発と運用編
【更新】DevOpsとコンテナ管理ソフトウエア p.57
【新規】開発と運用の方向性 p.58
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません。ただし、FinTechとブロックチェーについては、別資料としてまとめました。
ITインフラとプラットフォーム編
【更新】仮想化の役割 p.70
【新規】仮想化の役割/解説 p.71
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
クラウド・コンピューティング編
*変更はありません