1965年の春、フェアチャイルド・セミコンダクタ社の創立メンバーのひとりであるゴードン・ムーアは、「エレクトロニクス・マガジン」誌から同誌の35周年を記念して、コンピュータの未来についての記事を依頼された。当時、集積回路の最先端の試作品でも1つのコンピュータ・チップに詰め込めるトランジスタ数は30個が限界だった。
そんな時代にムーアは記事を書くためにデータを集めていて驚くべきことを発見した。なんと1枚のチップに集積されるトランジスタ数は1959年から毎年倍増していたのだ。この傾向がこの先も続区と仮定すると、1975年には6万5千個という途方もない数のトランジスタが集積されることになる。そして、「Cramming More Components onto Integrated Circuit / 集積回路上にもっと沢山の素子を詰め込む」という記事を書き上げた。彼はこの記事に、「家庭用コンピューターという驚くべきもの」や「携帯用通信機器」、そしてもしかしたら「自動操縦の自動車」まで登場するかもしれないと書いている。
後に「ムーアの法則」と言われるようになったこの経験則は、現実のものになった。1971年に登場した世界最初のマイクロ・プロセッサ「Intel 4004」には2300個ほどのトランジスタが詰め込まれた。そして、この記事が発表された50年後に登場したインテルの「Intel Core i」には10億個ほどが詰め込まれている。もちろん、「家庭用コンピューターという驚くべきもの」や「携帯用通信機器」、「自動操縦の自動車」は言うまでもない。
2007年、iPhoneが登場して10年で社会やビジネスの常識は様変わりした。スマートフォンの出荷台数は20億台に達し、身分証明書やクレジットカード、お財布代わりとしても使われるようになっている。スマホにマイナンバーカード機能搭載しようという法改正が、すすめられようとしている記事が、つい数日前に流れてきた。もはやスマートホンは経済だけではなく、私たちの日常生活や社会との係わり方さえも大きく変えようとしている。
このようにテクノロジーの進化は、ビジネスや社会の常識を大きく変え、そのスピードは加速しているように見える。そんな現実を見誤ると、取り返しのつかない失敗につながることも歴史が教えてくれている。
1880年(明治13年)、写真乾板の製法を確立したジョージ・イーストマンが、ニューヨーク州ロチェスターにて乾板の商業生産を始めたのがイーストマン・コダック社の始まりだった。世界で初めてロールフィルムおよびカラーフィルムを発売し、世界で初めてデジタルカメラを開発したメーカーでもある。1996年、コダックは、14万5千人の従業員を擁し、約3兆円の企業価値を誇っていたが、2012年に倒産した。
一方で、コダックが倒産した同じ年、写真共有サービスのインスタグラムは、約1000億円でFacebookに買収されている。その時の従業員数は13人だった。
今年1月に開催され「世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)」で演説したカナダのトルドー首相は次のような名言を残した。
「今ほど変化のペースが速い時代は過去になかった。だが今後、今ほど変化が遅い時代も二度とこないだろう」
トランプ米大統領の「米国第一主義」の演説がニュースとしては注目されたかもしれないが、テクノロジーの進化が加速する時代にあって、時代の変化に対応できなければ、国家であってもいかに脆弱かということを政治家自らが発言したことの意義は極めて大きいと感じている。
翻って、SIビジネスの現場は、こんな時代の変化を見据えて、施策が打たれているのだろうか。
未だクラウドへの対応に本腰を入れていない企業がある。しかし、銀行でさえもクラウドへの移行を積極的に進めている。また、平成29年5月31日に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進計画」では「クラウド・バイ・デフォルト原則の導入」という方針が打ち出された。今後、政府の調達基準もこの原則に従うことになるだろう。
しかし、世の中はさらにその一歩先を進んでいる。クラウドに於いては、サーバーの仮想化を前提とした利用方法は1つの選択肢に過ぎなくなった。コンテナやマイクロサービス、サーバーレス/FaaSが、より大きな顧客価値に結びつくことが常識になりつつある。それにもかかわらず、物理マシンを仮想化してIaaSに引っ越すことで工数を稼ぐ「クラウド・インテグレーター/CIer」を自認するSI事業者も少なくはない。現実を知らないと言うべきか、周回遅れも甚だしい。
全てのシステムで、このようなクラウド・ネイティブが適用できるなどと現実感のないことを申し上げるつもりはない。しかし、CIerを自認するなら、このような常識も選択肢に入れて、お客様への提案ができなければ、クラウドの価値をお客様にもたらすことなどできない。いわば、「不作為の詐欺」行為に等しい。
深層学習がお客様のビジネスの価値を高めることに貢献しはじめている。量子コンピュータが、用途は限られているとは言え実用で使われるようになった。2020年に登場する5G(第5世代移動体通信)が、企業のIP VPNなどの閉域網やLANを不要とするだろう。クラウド・プロバイダーの持つ高速なバックボーン・ネットワークやSD-WANが企業の持つWANを代替してくれるようになる。ネットワーク機器の販売や構築のビジネスは大きな岐路に立たされる。
そんな、来たるべき未来への道筋がはっきりと見えているのに対策に逡巡している企業があることはなんとも残念なことだ。
「いまのやり方で、いつまで持つでしょうか?」
講演の場でこんな質問を頂くことがある。これに「あと3年〜5年は大丈夫ですよ」と答えることにどれほどの意味があるのだろうか。その間、対策を先送りできるという安心感が救いになることはない。その時が来てから対策を打っても時間遅れだと言うことに気付いて欲しい。このような質問を聞きながら「北斗の拳」のケンシロウの決め台詞である「お前はもう死んでいる」という言葉が脳裏をよぎる。
このチャートに紹介したテクノロジーは「少なくともいまの時点」で注目しアクションを起こすべきキー・テクノロジーだ。もちろんクラウドやコンテナ、マイクロサービスやサーバーレスは前提となる。詳細はこちらの記事で紹介している。
>>> 2018年・SI事業者が注目すべき9つのキー・テクノロジー
また、アジャイルやDevOpsも言うに及ばない。
もちろん、これからのテクノロジーの進化に全て対応できるわけがない。ただ、そんな時代の到来が避けられない現実であるのなら、自分たちはどのように企業価値を維持すればいいのかを考える材料にはなるだろう。少なくとも、物販や構築、工数を提供できることが企業価値ではないことだけは確かだろう。
【募集開始】ITソリューション塾・第29期 10月10日より開講
デジタル・トランスフォーメーションへの勢いが加速しています。クラウドはもはや前提となり、AIやIoTを事業の競争力の源泉にしようと取り組んでいる企業は少なくありません。ITを使うことは、もはや「手段」ではなく「目的」であり「本業」へと位置づけを変えようとしています。このような取り組みは内製となり、これまでの工数を提供するビジネスは需要を失い、技術力を提供するビジネスへの需要は拡大しつつあります。
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参加費も1日研修で1万円に設定しました。この金額ならば、会社が費用を出してくれなくても、志さえあれば自腹で支払えるだろうと考えたからです。
社会人として、あるいはIT業界人として、厳しいことや頑張らなくちゃいけないことも伝えなくてはなりません。でも「ITは楽しい」と思えてこそ、困難を乗り越える力が生まれてくるのではないでしょうか。
- ITって凄い
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この研修を終えて、受講者にそう思ってもらえることが目標です。
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詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 7月度版リリース====================
ITソリューション塾・第28期の最新教材を掲載
メモリー・ストレージ関連のチャートを拡充
AI専用プロセッサーについてのチャートを追加
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ビジネス戦略編
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.22
インフラとプラットフォーム編
【新規】メモリーとストレージの関係 p.216
【新規】速度と容量の違い p.217
【新規】ストレージ構成の変遷 p.217
【新規】新章追加・不揮発性メモリ p.238-242
メモリ階層
コンピュータの5大機能
記憶装置の進化
外部記憶装置が不要に!?
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTビジネスとはどういうことか p.43
【新規】IoTビジネス戦略 p.45
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】AIやロボットに置き換えられるものと残るもの p.111
【新規】皆さんへの質問 p.131
【新規】求められる人間力の形成 p.132
【新規】新章の追加・AI用プロセッサーの動向 p.133-146
急増するAI 専用プロセッサ
人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係
深層学習の計算処理に関する基礎知識
AI = 膨大な計算が必要、しかし計算は単純
学習と推論
GPUはなぜディープラーニングに使われるか
データセンター向けGPU
GoogleがAI 処理専用プロセッサ「TPU」を発表
TPUの進化
クライアント側でのAI処理
Apple A11 Bionic
ARMのAIアーキテクチャ
開発と運用編
【新規】VeriSM p.6
【新規】早期の仕様確定がムダを減らすという迷信 p.13
【新規】クラウド・バイ・デフォルト原則 p.17
クラウド・コンピューティング編
*変更はありません
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更はありません
【ITソリューション塾】最新教材ライブラリ
第28期の内容に更新しました。
・CPSとクラウド・コンピューティング
・ソフトウェア化するインフラと仮想化
・クラウド時代のモバイルデバイスとクライアント
・IoT(モノのインターネット)
・AI(人工知能)
・データベースとストレージ
・これからのアプリケーション開発と運用