いま時代は、経営環境の不確実性の高まりやビジネス・スピードの加速に直面しています。ITが、これに対応するためには、ビジネスの最前線である現場の要求に即応できなくてはなりません。そのためには、開発と保守、運用を分業して対応している余裕はないのです。ましてや、仕様を策定し、外注手配、見積依頼、契約手続きなどやっていたら経営環境が変わってしまいます。だから、「臨機応変」に、現場の要求に対応できなくてはならならないのです。
このような「臨機応変」を求められるシステム需要が増加する一方で、これまでのような「企画・設計・開発・保守・運用」が分離・分業できるシステム開発需要は相対的に減少傾向にあります。このようなシステムは、業務の生産性向上や効率化のためのものが大半を占めています。既存業務を前提とするため計画が立てやすく、その実績値を基準にするため投資対効果も計測しやすいので、PMによる管理も可能でした。
一方、「臨機応変」を求められるシステムになると、ひとつひとつの案件規模は縮小し、アーキテクチャの選定、インフラの構築、設計、開発、運用を小規模なチームにより短サイクルで回しながら完成度を高め、変化に即応できなくてはりません。そのための従来型のPM(プロジェクト管理者)は、役割を果たせなくなってしまいます。
これに対応するには、クラウドについてのノウハウやアジャイル開発・DevOpsといった開発から本番運用に至る一連のサイクルを一人または少人数でこなせなくてはなりません。
また、新興諸国には積極的にIT人材の育成を図っている国もあり、知識やスキルという点では、もはや我が国のエンジニアと差はありません。そうなると、同じことをやっているだけでは、コスト面で圧倒的に有利なオフショアへシフトするか、同等の単金で仕事をうけるしかなくなります。
このような状況の中でも、オフショア人材には絶対にできないことがあります。それは、「業務の現場に近い」ということです。日本のビジネス文化や習慣を理解でき、日本語でお客様と業務について話ができることです。「インフラやプラットフォームが分かり、開発が分かり、運用が分かり、そして、お客様と業務について話し合い、交渉できる」そんなフルスタック・エンジニアこそが、求められるようになるはずです。
つまり、日本の高賃金に見合う仕事ができるエンジニアにならなければならないのです。特定の専門分野に固執し、それを出ようとしないエンジニアは、残念ながらグローバルな競争の中で淘汰されてゆくことになるでしょう。
フルスタック・エンジニアとは、アメリカ海兵隊の持つ特徴と共通するところが多いかも知れません。彼らは、臨機応変に自律できる兵士になろうと日々研鑽を続けています。彼らは、少人数のチーム単位で常に戦場の最前線に送り込まれ、損耗率も高い軍隊です。だから、チーム全員が、ライフル射撃、爆薬の取り扱い、ヘリコプターの操縦など、全てをこなせる能力を持っています。全員が揃っていれば、それぞれの得意を分担し、誰かを失えば、他の人間が代替し、チームとしての任務を最後まで遂行するといったチーム運営を行っているそうです。
自分の得意を持ち、他のこともこなして、自己完結できる能力の持ち主。フルスタック・エンジニアに通じるように思います。
もちろん特定の分野でコミュニティをリードし、グローバルにも貢献できる存在であれば、あえてフルスタックを目指す必要はないかもしれません。これもまた、エンジニアとしての魅力です。ただ、いずれにしろどちらかの選択を迫られることになるでしょう。中途半端な立ち位置では、クラウドや自動化の普及と共に、存在意義を失うことは明白です。
そのような人材を確保するためには、企業自らが新しいことへの積極性を広くアピールし、そういうことに関心を持つエンジニアが自然と集まり、活き活きと仕事ができる環境を提供することです。「働き方改革」が叫ばれていまこそ、ここに掲げたような人材像をあるべき姿として社内外に示すことです。そうすることで、ふさわしい人材は集まり、その志を持つ人たちと一緒になって、自らが働き方を変えてゆくような、そんな自律的、つまりアジャイルな取り組みを進めてゆくというのはどうでしょう。一方で、それができない企業は、優秀な人材が去って行きます。そんな民族大移動が勢いを増していることも自覚しておくべきでしょう。
【参考】「できる人材」の転職需要急増から見えてくる、加速するITビジネスの新陳代謝
また、エンジニアの役割を「システムを完成させること」に置くのではなく、「お客様のビジネスの成果に貢献すること」と位置付け、旧態依然とした「工数としての労働力」としてではなく、「ビジネスと技術をつなぐ専門家」としなければなりません。
技術的難しさは、やがてクラウドや自動化ツール、人工知能に置き換えられてゆきます。そうなれば、「工数としての労働力」は、必要とされなくなるでしょう。行き着くところ、お客様に必要とれる存在は、企画や設計ができ、お客様とビジネスについて話ができるエンジニアです。かれらをコンサルタントと区別することは、もはや意味のないことです。そういう人材こそ、お客様に求められるエンジニアであり、これからのビジネスを牽引する大きな原動力になるはずです。
では、このような人材はどのように育ててゆけばいいのでしょうか。
「勉強する技術」を育てること
好奇心を持ち続け、勉強し続けるための術を身につけさせることです。家に帰ったらプログラミングは一切しないでは、フルスタック・エンジニアとして生き残る事はできないでしょう。ただ、そのための新しい知識やスキルを習得するための定まった教科書を手に入れることは、実質的に不可能です。ですから、自らがコミュニティに参加し、積極的に貢献することで学習することができなくてはなりません。また、OSSやクラウド・サービスの普及により、エンジニアの学習コストは低下していますので、例え自己負担であっても意欲があれば決して難しいことではないはずです。
ただ、会社が極限まで稼働率を上げることを追求していては、意欲も余裕も生まれません。彼らが自発的に学ぶことを奨励し、その機会を与えることです。そういう取り組みが、優秀な人材を育て、ビジネスを支えてくれるようになります。また、成長の機会は、エンジニアにとっては大きな喜びです。その機会を与えてもらえる企業への定着率も自ずと高まってゆくはずです。
原理原則を学ばせること
特定の技術の使い方に習熟することを求めず、なぜそのように動作するのか、何のためにそのような仕組みが生まれたのかという原理原則を理解させることも大切です。特定の技術は流行廃りがあります。また、なによりも全ての技術に習熟することは不可能です。しかし、原理原則を学んでおけば、新たな技術に習熟する時間は短縮され、必要とあればすぐに実践で活かすことができます。また、様々な技術の目利きもできるようになります。
幅広い分野を学ばせること
心理学やマーケティングなど、開発や運用以外の技術についても学ぶ機会を与えることが大切です。ITビジネスがサービスへシフトするなか、ユーザーがそのサービスをどのように受け止め、どういう行動をとるかを分かった上で、技術的な実装を行う需要が、今後増えてくるからです。
さらに、プレゼンテーションやコミュニケーション、交渉や説得と言った顧客応対のスキルも必要です。それは、技術とビジネスをつなぐ役割をエンジニア自らが担わなくてはならないからです。
また、アジャイル開発やDevOpsといった、時代の要請に応えられるスキルを身につけさせることも大切です。そのためには、「彼らにやらせてみること」です。過去のやり方しか知らず、その成功体験のバイアスを持ち続けている管理者が、まずは余計な口出しは控えるべきでしょう。そして、新しい取り組みをさせてみる勇気を持つことです。まさに、エンジニアの「創造的破壊」を推し進めることこそ、管理者の使命とこころえるべきです。
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*クラウドについてのプレゼンテーションをインフラ編から独立させました。
*使いやすさを考慮してページ構成を変更しました。
*2017年度新入社員研修のための最新ITトレンドを更新しました。
*新しい講演資料を追加しました。
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クラウド・コンピューティング (111ページ)
*「インフラとプラットフォーム編」より分離独立
【新規】クラウドによるコスト改善例 p101-108
開発と運用(68ページ)
【新規】管理運用の範囲 p.37
【新規】サーバーレスの仕組み p.40
インフラとプラットフォーム(211ページ)
*クラウドに関する記述を分離独立
【新規】多様化するデータベース p.127
【新規】クラウドデータベース p.156-158
IoT(101ページ)
【新規】IoTはテクノロジーではなくビジネス・フレームワーク p.16
【新規】LPWA主要3方式の比較 p.52
人工知能(103ページ)
【新規】自動化と自律化が目指す方向 p.14
【新規】操作の無意識化と利用者の拡大 p.21
【新規】自動化・自律化によってもたらされる進歩・進化 p.22
テクノロジー・トピックス (51ページ)
【新規】RPA(Robotics Process Automation) p.17
サービス&アプリケーション・基本編 (50ページ)
*変更はありません
ビジネス戦略(110ページ)
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ITの歴史と最新のトレンド(14ページ)
*変更はありません
【新入社員研修】最新のITトレンド
*2017年度版に改訂しました
【講演資料】アウトプットし続ける技術〜毎日書くためのマインドセットとスキルセット
女性のための勉強会での講演資料
実施日: 2017年3月14日
実施時間: 60分
対象者:ITに関わる仕事をしている人たち
【講演資料】ITを知らない人にITを伝える技術
拙著「未来を味方にする技術」出版記念イベント
実施日: 2017年3月27日
実施時間: 30分
対象者:ITに関わる仕事をしている人たち
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新刊書籍のご紹介
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